20歳前から一生続けたい、骨を守る食事と生活習慣

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。9月のテーマは「骨の健康」について。

2024年9月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

骨は健康人生の大黒柱 女性は特に成人前から骨の健康を意識して

小さな骨が折れただけでも体のバランスが崩れたり、生活に支障をきたしたりする――骨はまさに私たちの生活の柱。

しかもこの柱の強さ、つまり骨の健康度合いを表す「骨密度」はだいたい20歳頃にピーク(最大骨量)を迎え、あとはほぼそれより上がることがありません。私たちの骨はその後、通常40代くらいまで安定して推移し、加齢に伴い減少していくのです。

ちなみに、骨の中に含まれるミネラル量を骨量(骨塩量)といいますが、単位面積当たりの骨量が骨密度です。

もし、このコラムを読んでいる方の中に、骨のピーク年齢より若い方や、お子さんがその年齢ゾーンにいる方がいらしたら、是非とも骨が育つ時期を大切にしていただきたいと強く思います。基本はカルシウムやビタミンDなど必要な栄養素をとって、強度がある運動をするということでOK。

危険なのが、ことに若い女性に多いダイエット願望とそれによるやせです。

無理なダイエットで皮下脂肪が急減すると、卵巣から女性ホルモンのエストロゲンが正常に出なくなり、無月経になることもあります。無月経になると、若いにもかかわらず、骨量が減り骨が弱くなってしまうのです。

そういわれても、骨が弱っているかどうかは、決定的な骨折が起きないとなかなか実感できないもの。

ですので、ちょっと怖いデータもお伝えして、骨が弱るということが私たちの健康維持にとってどれほどの障害となるのかを確認しましょう。

骨粗鬆症財団によれば、日本における 骨粗鬆症患者数は1280万例(総人口の約10%)とされています。内訳は女性が980万人、男性が300万人。いかに女性が気を付けるべき病気かがわかります。

骨は骨芽細胞が作り、破骨細胞が古い骨を吸収して常に3~6%が新陳代謝しています。しかし女性の場合、閉経に伴ってエストロゲンの分泌量が激減すると、このホルモンによる破骨細胞の活性抑制作用が働かなくなります。そのため、骨量が一気に減少しやすくなってしまうのです。

腰椎の骨密度が、閉経後2年で3%近く低下し、10年間では15%も低下するという日本人女性を対象にした研究報告もあります(日本産婦人科学会雑誌の2000年9月に発行された第52巻 第9号に掲載)。

いかに、若い時期に骨をしっかり育てておくこと(最大骨量を大きくすること)と、骨を守ること(骨量減少を最小限に留めること)が大切かがわかりますね。

女性における骨量の推移

(出典:内閣府男女共同参画局ホームページより。
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-11.html

また、閉経期に入る前から、ご自身の骨の健康状態を定期的に点検することを欠かさずに。各自治体が40歳以上の女性向けに(自治体によっては30歳から実施しているところも)5年ごとに骨粗鬆症検診を行っているので、必ず定期的にチェックし、もし弱くなりつつあったら、早めに手を打つことが肝心です。

骨が弱ることは男女ともに大きな要介護リスク

骨量が減少し骨粗鬆になることの怖さは、歩行が困難になる骨折= 大腿骨近位部骨折に象徴されるといってもいいかもしれません。股関節とその周囲で起こる骨折なので股関節骨折ともいわれます。発生数は全国で20万件/年を数えるとされ、特に女性の65歳以上で多く、男女ともに70代で急増します。

何がそんなに怖いのか。

下の表をご覧ください。  

令和4年「国民生活基礎調査の概況」に掲載されているものです

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf)。

要介護が必要になった原因の3位に「骨折・転倒」がありますが、骨折の中でもリスクが高いのが股関節骨折なのです。

アメリカで行われた研究では、ドキッとするような結果も出ています。

オンタリオ州の65歳以上の高齢者約10万人で股関節骨折後の5年生存率を調べたところ、男性では3分の1未満、女性で半分未満だったというのです。しかもこの数字は、あらゆるがんによる5年生存率と同等かそれ以下だったとのこと(JBMR Plus誌の2024年5月号で公開)。  

がんをはじめとする生活習慣病対策と同様に、骨の健康を意識すべきなのです。そして、リスクが高いのは女性だけではありません。

さらに、骨密度が低い人は、骨密度が高い人に比べて認知症を発症するリスクが高いというオランダの研究もあります。平均年齢72歳の約3700人のデータを分析したものですが、骨密度が低い人では10年以内に認知症を発生するリスクが43%も高かったそうです(Neurology誌オンライン版で2023年3月22日に公開)。

理由は明確ではありませんが、骨の弱さは認知力まで含めたフレイルの進行と関係する可能性があると考えられます。

骨を守る生活習慣(その1) 喫煙、飲酒、運動不足は✕

では、なるべく遠ざけたい「骨を弱くする生活習慣」とはどんなものなのでしょうか。

日本骨粗鬆症学会による「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版」は生活習慣に関わる確実性が高い骨折のリスク因子として、下記を挙げています。

●「喫煙」 骨折のリスクが1.26倍になり、大腿骨近位部骨折は1.68倍になる

●「飲酒」 1日3単位*以上の飲酒で、骨折のリスクが1.23倍、大腿骨近位部骨折が1.68倍

*英国の1単位=アルコール8gで見ているので、ビール大瓶1本、日本酒1合強、ワイン2杯くらいに相当。

そして・・・

「運動不足」。

ガイドラインでは、逆に、運動習慣があれば、大腿骨近位部骨折のリスクは20~40%減るとしています。

早歩きのウォーキングや軽い横跳びを1年続けたら、平均年齢74歳を超えた人たちでも骨量の低下が抑えられたという研究報告があります(Bone誌の2024年1月号に掲載)。  

骨に瞬間的衝撃が加わる運動は骨を強くするのに効果的です。ウォーキングをするならなるべく早く歩く、もしくは、縄飛びのようなジャンプを伴う運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。

ここからは、食事のとり方や食品に含まれる成分と骨の健康について見ていきましょう。

まず、食生活全体で気を付けたいのが、

「血糖値が上がりやすい食生活」です。

冒頭から、女性のリスクを強調してきましたが、男性も注意が必要な点はいくつもあります。

先に挙げた喫煙、飲酒もそうですが、男性に多い2型糖尿病もその一例。令和元年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)では、糖尿病が強く疑われる人の割合が、20歳以上の男性で19.7%、女性で10.8%と、2倍近い差があります。

血糖値が高い日本の男性は、脊椎、股関節などの危険な骨折リスクがそうでない人の2倍というデータも。65歳以上の日本人男性約1950人を追跡した研究の結果です。

糖尿病の人では危険な骨折のリスクが血糖値が正常な人の2.76倍だったのですが、前糖尿病段階とされる耐糖能異常の人でもリスクは2.15倍に達していたのです。血糖値の高さとほぼ比例して骨折リスクが上昇していました(Bone誌の2019年の4月号に掲載)

こうしたことが起こるのは、血糖値が高い状態が続くと、骨の体積の半分を占めるたんぱく質コラーゲンの中に終末糖化産物(AGEs)という物質が増えて、骨がもろくなってしまうから。余った糖がコラーゲンにくっついてダメにしてしまうのです。

そもそもコラーゲンの産生能力自体が、40代以降低下していくので注意が必要です。

高血糖を防ぐ食生活上のポイントについては、2024年4月の本コラム「高血糖のツケ、「血糖負債」がたまらないよう食物繊維リッチな生活を」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/22729)の回をお目通しください。食物繊維をしっかりとる、早食いをしないといった点を整理しています。

骨を守る生活習慣(その2) 3大成分 カルシウム、ビタミンD、ビタミンKをとる

食品に含まれる成分で、欠乏すると骨粗鬆リスクが高まることがわかっており、積極的にとるべきものは何でしょうか。

●「たんぱく質」

骨粗鬆症はフレイルと背中合わせなので、たんぱく質食品を意識してとるのは基本。

北欧で行われた65~72歳の女性を対象にした研究では、体重1㎏あたり毎日1.1gのたんぱく質をとっていた人たちではフレイルリスクが91%も減っていました(European Journal of Nutrition誌で2019年5月7日に公開)。

こうしたデータはたくさんありますが、ざっくり自分の体重1㎏あたり1g以上とるのを目安に。体重60㎏の方でしたら60gは必要ということになります。これは、肉、魚、大豆製品、乳製品などたんぱく質含有量が多い食品類でも、計300g~500gほどはとらないと到達が難しい数字です。

うどんやラーメンなどの丼もの偏重で炭水化物の“ばっかり食べ”にならないよう、また、3食だけでなく間食も含めて不足を補うよう意識しましょう。

「カルシウム、ビタミンD、ビタミンK」

骨に欠かせない構成成分としてカルシウムのことは知っているよという方は多いと思いますが、これにビタミンDビタミンKを加えた3大成分について、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」は不足に注意を促しています。

骨の材料であるカルシウムばかりでなく、摂取した後、これを確実に骨に運び、定着させるのにビタミンDとビタミンKは欠かせないのです。

① 「カルシウム」について、先に挙げたガイドラインは、骨を守るために700~800mg/日の摂取が望ましいとしています。よく知られたカルシウムなので多言しませんが、乳製品、大豆製品などを多めにとりましょう。牛乳、木綿豆・納豆はいずれも100gに約100㎎くらいカルシウムを含むのでモノサシになるかと思います。

オーストラリアで行われた研究ですが、30の高齢者施設で、通常の食事にヨーグルトやチーズといった乳製品を追加するなどして、カルシウム1日1300㎎と体重1㎏あたり1gのたんぱく質がとれるようにしたところ、これらを追加しない食事のまま過ごした高齢者に比べて、股関節骨折のリスクが44%減ったという報告があります(BMJ誌で2021年10月21日に公開)。

カルシウムを1000~1300㎎/日くらいまでとるよう意識すれば、さらに効果的かもしれません。

 「ビタミンD」については、本コラムで何度も取り上げてきました。

2023年11月の「冬の到来間近!魚とキノコで、健康維持に欠かせないビタミンDを補おう」https://www.fresta.co.jp/healthyproject/20435)では、感染症やがん、そして筋肉など全身の健康を守るためにビタミンDは欠かせないと記しました。非常に重要なビタミンであるにもかかわらず、東京で調べた調査ではなんと98%もの人で不足していたのです。

日本人の75歳以上の女性約1400人を追跡した研究では、ビタミンDの血中濃度の欠乏域になる20ng/㎖未満の人たちでは、転倒するリスクが正常な人たちの約1.4倍という結果も出ています(Osteoporosis International誌で2015年4月25日に公開)。

日本では、ビタミンDが1.65㎍~5μgとれる食品は、栄養機能食品として「ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です」という表示ができることになっています。

しかし、筋肉や骨を守るためには、国立長寿医療研究センターが挙げる「10~20μg/日」を目指すのがいいでしょう。

23年11月のコラムに示したように、シラス干しやサケといった魚はビタミンDが豊富です。さらに、9件の研究計約30万人分のデータを分析したところ、魚からDHA、EPA(オメガ3脂肪酸)をとっていると、約11%股関節骨折リスクが低下していたといいます(Critical Reviews in Food Science and Nutrition誌で2017年12月15日に公開)。

つまり、ビタミンD源として魚をしっかり食べれば、オメガ3脂肪酸とのW効果が得られるということになりますね!  

ビタミンDは太陽の紫外線を浴びることでも作られますので、日焼けに気を付けながら、毎日、日に当たるようにもしたいところ。

さて、骨を守る重要な成分として、意外に知名度の低いのが、

 「ビタミンK」かもしれません。

2017年に各都道府県別の股関節骨折件数を調べた調査を見てみましょう。

下記のグラフはこの調査をまとめた論文に掲載されたグラフそのままですので、男性(Male )、女性(Female)、地域名もローマ字表記になっています。そして、色が濃いほど、その地域では股関節骨折の標準化発生率という数字が大きく、発生率が高いことを表します。

一目で、股関節骨折は西高東低であることがおわかりになると思います。

2017 年の性別および地域別に見た股関節骨折の発生率

(出典:JBMR Plus. 2020 Nov 30;5(2):e10428. 
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jbm4.10428

この研究は1987年から5年ごとに実施されているのですが、ずっとこの西日本で股関節骨折率が高い状況は変わっていません。

一連の研究を実施したチームは、股関節骨折の多さと相関するのが1世帯当たりの納豆への支出の低さだと指摘しています。つまり、西日本で納豆消費量が少ない傾向があるのですね。 他の日本人男女対象の研究を合わせて分析した論文も、股関節骨折のリスク低下と相関するのはビタミンKの摂取量の多さで、食品では納豆だとしています(Osteoporosis International誌で2019年1月16日公開)

ビタミンKは、春菊、モロヘイヤといった緑の野菜にも含まれますが、同じKでも納豆に含まれるものは少しタイプが違うビタミンK2というもので、野菜に含まれるビタミンK1より活性も高いのでお勧めです。

日本人の閉経後女性約1400人を追跡したら、納豆(1パック40g)を週に1~6パック食べる人で骨粗鬆症性骨折のリスクが28%減、7パック以上だと44%減とほぼ半減していたということもわかっています(Journal of Nutrition誌の2020年3月号に掲載)。

一方、大豆イソフラボンの摂取量が多い閉経後女性ほど骨密度が高い、という報告も多くあります。

たんぱく質量も多い大豆を使った食品全般が骨対策にお勧めといえますが、やはりビタミンK2と大豆イソフラボンの双方をたっぷり含む納豆は、トランプでいえばスペードのエースのような頼れる存在と言えるでしょう。

骨の健康維持に欠かせない食品成分の機能性研究は、リスクが大きくなる高齢者で行ったものが多いのですが、最初に記した通り、本来は最大骨量に向かって骨が成長する若い時期からとるべき成分です。

例えば、魚も納豆などの大豆製品も、このコラムで何度も登場しているように、骨だけでなく全身の健康に役立つことがわかっています。

元気に運動し、毎日の食卓にこうした優秀な食材たちが並ぶ、というごくごく普通の生活で骨は守られるのです。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。