冬の到来間近!魚とキノコで、健康維持に欠かせないビタミンDを補おう

2023年11月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

まずは、インフルエンザや新型コロナ感染症への備えとして

今年は、インフルエンザ感染者数が多い状態がずっと続いています。このまま「注意報」「警報」の地域が増え、そこに新型コロナ感染症の流行が加わる冬を迎えないとも限りません。そこで、改めて皆さんに大切さをお伝えしたい成分があります。ビタミンDです。

このコラムシリーズの2回目「今、最も気にしたいビタミンとは?」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2465)で、ビタミンDが「インフルエンザや風邪といった感染症の発症リスク低下に働く可能性がある」ということを記しました。

その後、新型コロナ感染症に関しても、ビタミンDの効果を検証する多くの試験が世界中で行われています。9月末までに実施された116件(対象計約18万人)の研究結果を分析したところ、ビタミンDの血中充足度が高い人たちで、新型コロナ感染症による死亡率、ICU入室、 入院といったリスクが全体で36%低かったと報告されています(国際的な科学者の集まりc19early.orgによる)。

まだ確実とはいえませんが、ビタミンDを十分にとっておくことは、ある程度新型コロナ対策にもなる可能性がありそうです。

ということで、今回は、食品だと特に魚・キノコに多く含まれるビタミンDについて、感染症対策にとどまらない大切な役割を見ていきたいと思います。

ちょうど、どちらの食材もおいしい季節。

是非とも毎日の食卓に!

日本人データも続々登場 すべての人が気を付けたいビタミンD不足

まず、最近発表された日本人のデータをいくつか見てみましょう。これまで他の先進国に比べて日本人の研究が少なく、そのせいもあってか、ビタミンDに対する国民の関心も低いのが問題だったのですが、ここに来て、少しずつ目に付くようになってきました。

●98%もの日本人がビタミンD不足?!

2019年4月から2020年3月までの間に東京都内で健康診断を受けた5518 人を調べたところ、98%がビタミン D 不足(血中濃度30ng/㎖未満)だった。年齢が低いほどビタミン Dの 不足割合が高かった。東京慈恵会医科大学による研究(The Journal of Nutrition 誌、2023年4月23日付)。

なんと、東京に住むほとんどの人でビタミンDが足りていなかったというのです。

ビタミンDはしっかり太陽の紫外線B波(UVB)を浴びて体内で作るか、ビタミンDを多く含む魚やキノコを毎日のように食べない限り、血中濃度は充足域まで上がりにくいと考えてください。特に太陽が弱くなり、また日光に当たる時間が減ってくる冬場は、意識して食品でとるようにしないと不足する可能性が非常に高くなります。

●ビタミンD欠乏だと筋力低下、サルコペニア発症のリスクが高まる

国立長寿医療研究センターで実施している長期疫学研究の参加者1919人のデータで、血中ビタミンD濃度と筋力、サルコペニアの進行度合いなどを見た。ビタミンD欠乏(20ng/㎖未満)群では、それ以外の群に比べて握力低下が進行していて、サルコペニアの発生率も高かった(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌、2022年10月13日付)。

2021年にも、「ビタミンDの摂取量が少ないほど筋肉量の減少が見られる」という、神奈川県で行われた2型糖尿病患者対象の研究結果が発表されています(Nutrients誌、2021年7月8日付)。ビタミンDはよく知られている骨の健康維持はもちろん、筋肉を守るためにも不可欠なビタミンです。元気に活動し続けるためにも不足にはご注意を!

●毎日ビタミンDを摂取した人たちで、がんの死亡率が12%低下

日本人対象も含む世界の10件の試験データの分析。日本人の試験では、消化管のがん患者417人のうち、毎日ビタミンDサプリメントで2000IUを摂取した群では再発・死亡率が約8%低かった(Ageing Research Reviews誌、2023年3月31日付)。

この試験ではサプリメントで摂取していますが、食品で2000IU(50㎍)分のビタミンDをとるには、半乾燥品のシラス干しで約80g、焼いたサケだと130g、ゆでたキクラゲでは570gも食べる必要があります。これらはいずれもビタミンD含有量が多い食品。

この量を毎日食品でとるのはかなり大変です。健康維持が目的の場合は、最低でも日本人の食事摂取基準(2020年版)で18歳以上の男女の目安量になっている8.5㎍(340IU)はクリアしていただきたいところ。こちらは、シラス干しで約13.5g、焼きサケで約22g、ゆでキクラゲ約100gくらいなので、そんなに難しくありませんね。

ちなみに私は、魚やキノコを意識して食べる以外に、サプリメントで毎日1000IU(25㎍)を補給しています。

このように、日本人のデータでも、ビタミンDが免疫から筋肉の維持まで、広い役割を担っていることが明らかになってきました。

効率的にビタミンDがとれて、かつ日々の食卓に取り入れやすい食品は限られています(このコラム最後の表参照)。意識して、魚やキノコが入っているメニューを選ぶようにしましょう。

サプリメントを食事の補助に使うのも一つの手です。

ビタミンDは女性を守る“フェムビタミン”

先の東京都在住者の研究が示すように、今や日本人は老いも若きもビタミンD不足と言ってもいいのですが、少し前に行われた、国内の男性595人、女性1088人を対象にした研究の結果(下グラフ)を見ていただくと、女性ではどの年代でも男子以上に不足している人が多いことがおわかりになるでしょう。

   (出典:Osteoporos Int.2013;24(11):775-87.)

今、フェムテック(女性の健康課題に対する解決策や技術)が脚光を浴びています。これまでつらさをがまんしてきた女性たちが、少しでもそのようなストレスから解放されて健やかに過ごせることを心から願いたいと思います。

それにつけても、女性の皆さんには、ビタミンDが典型的なフェムビタミンであることも知っていただきたいのです。

どれだけ女性の不調や女性ならではの病気のリスク低減に役立つ可能性があるのか、いくつか例を挙げてみます。

●ビタミンDは月経困難症の痛み軽減に役立つ

9つの研究を分析したところ、月経中の痛みが週50,000IU(1日約1670IU)以上ビタミンDを摂取している群で最も軽くなっていた(Nutrients誌、2023年6月21日付)。

●ビタミンD血中濃度と乳がん発症リスク

3つの試験に参加した米国の約5000人(平均年齢62歳)の女性のデータを分析したところ、ビタミンDの血中濃度が高いほど乳がんのリスクが一貫して低かった(PLoS One誌. 2018年6月15日付)

●閉経後の女性の健康維持に必要なビタミンD量は?

51歳から78歳までの参加者を対象とした25カ国25件の試験を解析。

閉経後にリスクが高まる血管老化、骨粗鬆症、泌尿生殖器症候群などを予防するためには、最低1 日あたり 800 IU(20㎍)以上のビタミンD摂取が必要(Nutrients 誌、2023年1月29日付)。

●ビタミンD不足、欠乏は着床率や妊娠率にも影響
500人の英国人女性対象の研究。ビタミンDが欠乏域(血中濃度20ng/㎖未満)にある女性は、充足域にある女性に比べて、妊娠率が約33%、出生率が約30%低かった(Reproductive Health誌、2019年7月15日付)。

ビタミンDが幅広い世代の女性の健康を支えてくれていることがよくわかるかと思います。

美白を考えて太陽光を避け、魚やキノコはあまり食べないという女性は要注意です。ことに若い女性でビタミンD不足が深刻という指摘が多くありますが、実際に約2000人の日本人妊婦さんたちの血中濃度を調べたところ、ビタミンDサプリメントをとっている人たちでも平均値が19ng/㎖、とっていない人たちの平均値は14ng/㎖と、いずれも“欠乏状態”でした(PLoS One誌、2019年3月4日付)。

ビタミンDは胎児の脳の発達などにも必要なビタミン。妊婦さんご自身の健康だけでなく、お子さんの将来も心配になってきます。

量も含め、明確に意識してとる必要があるのです。

もっとビタミンDに関心を持ち、魚食を大切に

お隣の韓国では、検索サイトNAVERで2022年にもっとも検索頻度が高かった栄養素は1位がオメガ3、2位がビタミンDだったそうです。両方とも魚にたっぷり含まれる成分ですね。

日本では、こうした検索ランキングになりません。この2大栄養素の価値がきちんと知られていないことを象徴するかのように、日本人の魚介類摂取量は過去最低を更新し続けているのです(「世界が憧れる日本の誇り、魚食文化が危ない!https://www.fresta.co.jp/healthyproject/13687)」の回参照)

下に挙げた「ビタミンDを多く含む食品」の表をご覧ください。

そもそもビタミンDが多いといえる食品は魚とキノコくらいです。そしてキノコの中で含有量が多いキクラゲ、マイタケなどでも、シラス、サケ、イワシといった日本人が愛してきた魚にはかないません。

たとえば、1年中安定して入手出来て、ビタミンD豊富なサケは「ビタミンD劇場」の主役の一人。これからの季節なら、「石狩鍋」などで大活躍。サケにいろいろなキノコを加えた鍋にして舌鼓を打ちましょう。サケにキクラゲやマイタケを散らした蒸し物などもおいしいですね。

今ならまだ間に合います。

魚をメインにし、キノコを配したメニューを日本の食卓の定番に!

誤解を恐れずにいえば、こんな視点を多く持つことが、最近弱々しいところが多い日本のレジリエンス(回復力)を高める近道ではないかと思うのですが……。

ビタミンDを多く含む食品

(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より作成)

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。