冷えは万病のもと!ショウガや温食でこまめに熱の補給を

2023年12月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

冷えをあなどるべからず! 日本人女性の不調を増やす一大原因

猛暑は秋深くまで余波が及びましたが、いよいよ冷えの季節がやってきました。といっても、寒いと思えば急に暖かくなったり、そのたびに体がとまどうようなことも。これまで以上に、心身のバランス維持に気を付けたい今日この頃の気候です。

このコラムでは冷え対策について何回か触れてきましたが、改めて“冷えとは”というところから考えてみたいと思います。

なぜなら、冷えは各種の調査で日本人女性にとって「つらい症状」のトップ集団に必ず入ってくる不調だから。

養命酒製造が実施した『冷えに関する大調査』(https://www.yomeishu.co.jp/kenkonotsubo/tyousaより)によると、7割もの女性が冷え症に悩んでいるとのこと。

冷え自体もつらいのですが、冷え=血流の悪さは「疲労」「肩こり・腰痛」という女性の2大不調にも大きくかかわるのが問題。手足が冷えて布団に入っても「なかなか寝付けない」ということになると、睡眠の質が悪化し、ひいては免疫力の低下も招きかねません。

まさに、女性にとって万病のもとになりかねないリスクといえるでしょう。

そして同じ冷えでも、若い世代の冷えと、更年期以降の世代の冷えでは、原因に違いも出てくるので注意が必要です。

まず若い世代の冷えですが、①筋肉量が少なく熱を生み出すパワーが低いやせている人に多かったり、②ストレスや生活習慣の乱れで自律神経が乱れ、抹消血流が悪くなっていることが原因になっているケースが多く見受けられます。

根本的な解消策は、運動をして筋肉をつけること、ストレスを上手に解消すること、といったあたりになります。しかし、どちらもそうそう思い通りにはいかないのが実情ではないでしょうか。

次に更年期以降の世代の冷えですが、もともと女性ホルモンのエストロゲンには、末梢血流を調整する作用があります。更年期に入るとこのホルモンの分泌が急減するので、その影響が出ることがあるのです。やせ型、ストレス過多の方は、さらにこれに更年期要因が加わるわけですから、なかなか冷えとお別れすることは難しいということになりそうです。

最近、こんな研究が発表されました。

1000人の日本女性で調べたところ、冷えの自覚があり、体温が低めの日本女性で腰痛が多かった。さらに、倦怠感や怒りなどメンタルヘルスの不調を有する割合も高かった」というのです。研究班は、日本人女性の腰痛の多さにはストレスから来る冷えが関与しているのではないかと指摘しています(BMC Research Notes誌、2023年1月30日付)。

このような3重苦に陥るのを防ぐためにも、湯船でしっかり体を温める、湯たんぽなどの温めグッズ類(最近は使いやすいものもいろいろ)で冷えた箇所に熱を入れるといった直接的な冷え対策はしっかり行いたいものです。

首、手首、足首の“3つの首”を、マフラーや手首まである手袋、保温機能の高い靴下などを着けて守ることで熱を逃がさないように。“3つの首”は皮膚に近いところを動脈が走り、体の中心部からの熱を運んでいます。

温かい食べ物、ショウガなどのスパイスをこまめにとる

食による冷え対策も、取り組みやすい方法の一つです。

冷えをうったえる若い女性の食生活を分析した調査では、「肉・魚介・卵などの動物性たんぱく質が不足」していて、「1日の食事のいずれかを欠食」する人が多いことが指摘されています。このような食生活の立て直しは基本中の基本。

そのうえで、体を隅々まで温めて冷えを緩和するだけでなく、心までホッとするような食べものを意識してとることが大切です。

先日冷え込んだ日に、仕事の疲れが抜けないまま京都にいたのですが、無性に食べたくなって、昔からあるうどん屋さんの暖簾をくぐりました。

お目当ては温かい「たぬきうどん」です。

京都の「たぬき」なので、お揚げ、九条ネギが入り、あんのつゆがかかっています。とろみが熱を閉じ込めて熱々。早速ふうふうと口に運ぶと、うどんの熱に加えて、上に乗ったショウガの風味と辛みが、また違ったタイプの“熱”を喉のあたりから生み出していくのがわかります。

しっかりお出汁がきいたあんかけうどんとショウガのおかげで、食べ終わるころには心も体も芯から温まっていました。

このように、温かい丼ものや鍋など、熱そのものを体にプラスする食べ物はもちろん、交感神経を刺激するなどの仕組みで体の内側から熱を生み出してくれるショウガをはじめとするスパイスたちは、サッと食事に加えるだけでも役に立つ優れもの。

特にショウガはいわば王様と言ってもいいでしょう。

日本人だけでなく、世界各地で冬の寒さに立ち向かう味方として愛されています。

欧米では、クリスマス近くになるとショウガを入れた「ジンジャー・ブレッド」を作ります。映画などで、ヒト型にかたどった「ジンジャー・ブレッド・マン」がクリスマスツリーにぶら下がっているシーンを見た記憶がある方もいるのでは?

小説/映画の『メアリー・ポピンズ』では、空に置くと本物になって輝き出す、ジンジャー・ブレッド」が登場しました。

子供たちも飲めるジンジャードリンクとして、ジンジャー・エールの原型ともいわれる「ジンジャー・ビール」があります。ショウガと酵母、砂糖で自然発酵させたノンアルコール飲料。

寒さが募る冬の日に、家族で「ジンジャー・ビール」を飲みながら「ジンジャー・ブレッド」を食べれば、体が温まって風邪予防にもなるというわけです。体を温めつつ、感染予防にも役立つというのは、かなり昔からショウガに期待されてきた働きなのですね。

ショウガの“温パワー”の引き出し方については、2020年12月の「食で改善、冬の大敵“冷え”と“乾燥”」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2471)、22年9月の「いつもそばにショウガを!女性の健康を守る守護神ハーブ」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/15886)の回でも触れていますので、お目通しください。

効果的に冷えの緩和に役立てるためのポイントは、①1日10gくらいを目安にとる、②すりおろして電子レンジでチンをするなど加熱して使う、もしくはスライスしたショウガを乾燥させて使うです。

最近、月経困難症の女性50人が参加した試験で、ショウガエキスを約2カ月取り続けたら、月経痛の痛みとそれに伴うQOL(生活の質)が改善されたという研究が発表されました(Open Access Journal of Complementary & Alternative Medicine誌の2023年9月20日付)。

この試験でとっていたショウガエキスの量はショウガ2~4g相当なので、お勧めした「1日10g」をしばらく取り続けていただければ、冷えも女性特有の痛みも緩和される可能性がありそうです。

ショウガ以外のスパイスでは、冬によく使われるものにシナモンがあります。

ドイツで親しまれる「グリューワイン」は、赤ワインにシナモン、クローブ、オレンジピールなどを入れて温めるホットワイン。やはりドイツでは、シナモン入りのお菓子「シナモンスター(ツィムトシュテルネ)」がクリスマスのマストアイテムです。

シナモンロールのクリスマスバージョンなんていうのも最近日本でよく見かけますね。

シナモンは、体の抹消に張り巡らされている毛細血管を強くする働きで知られています。

週2、3回、1回当たり0.6g程度とればこの効果が得られるという研究があるので、シナモンティーやシナモンロールを気が付いたときにとるというのでも良さそうです。

シナモンの生薬名は桂皮(ケイヒ)。体の冷えを取り、血流を良くする作用で、葛根湯(カッコントウ)や桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)といった漢方薬にも使われていることを踏まえると、シナモンは冷えの助っ人として将軍クラスといえます。

ほかに冷え緩和のエビデンスがあるスパイス成分には、コショウの辛み成分ピペリンも。

ピペリンには、血管内皮で一酸化窒素(NO)を増やし、血管を広げて血流を良くする働きがあることが確認されています。

コショウには数%のピペリンが含まれるのが一般的。通常のコショウ由来ではないですが、沖縄の島コショウ・ヒハツ由来のピペリンを120㎍(0.12㎎)とることで「冷えによる末梢(手)の皮膚表面温度の低下を軽減」という機能性表示が行われています。

ここから考えると、コショウを2、3つまみ、料理やスープに入れることで、冷え緩和に役立ってくれるのではないかと考えられます。

冒頭でも触れたように、たかが冷えと看過して放置するのは厳禁。いくつもの不調の呼び水になるおそれがあります。

この冬は、首(足や手の首も)から体温を逃がさない、こまめに体の熱を増やす食品をとるといったことを習慣にして、冷えを遠ざけていきましょう。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。