いつもそばにショウガを!女性の健康を守る守護神ハーブ

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマはショウガ。体を温めるだけじゃない!ショウガはフェムケア時代の救世主!?

2022年9月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

大切な人のために作りたい「麻油鶏」

秋の声が聞こえる時期になると作りたくなる、台湾のスープ料理があります。

「麻油鶏(マーヨウジー)」。

薄切りにしたたっぷりのショウガをゴマ油(麻油)でカリっとなる寸前くらいまで炒め、そこに軽く湯通しした鶏の手羽元やモモ肉をどっさり入れてさらに炒めたら、酒をなみなみ加えて30分ほど煮込む(酒だけでなく水を足して作るのも一般的)。

最後に塩コショウなどで調味して出来上がり。

シンプルなスープですが、体の芯から温まり、すぐに元気が出てきます。

ここでいう「酒」は、入手できれば台湾で広く料理酒に使われるコメの蒸留酒『紅標米酒』(アルコール度数は19.5度)を使うのが一番ですが、クセが強くない料理用日本酒でもOK。私は、料理用日本酒を使うときにはキンミヤなどの焼酎を加えることもあります。

麻油鶏のミソは、ショウガとゴマ油。

ショウガは体を温め血液の流れをよくする「温補」の代表的な食材。そしてゴマは中国で4世紀に著された『抱朴子』という書物で「不老の仙薬」と紹介されていて、中国文化圏では老化を止め、体を温める食材として知られています。

ゴマ油の中には通常1%弱ほどのゴマリグナンという抗酸化物質が含まれていますが(有名なセサミンもゴマリグナンの一種)、これは大豆イソフラボンと並んで、女性ホルモンのように働き、女性のホルモンバランスを整える物質でもあるのです。

つまり、麻油鶏は冷えた体を温めながら、女性の活力を取り戻すスープの代表格といえるでしょう。

『味の台湾』(焦桐著、みすず書房)という、台湾で愛されている様々な料理をその文化的背景からどこの店がおいしいというガイド的情報まで盛り込んだ、極上のエッセイ集があります。

著者で台湾を代表する詩人でもある焦桐さんは、同書で麻油鶏についてこう書きます。

「愛しい娘を二人も産んでくれたことに感謝するために(中略)(妻の助けになるようにと)毎日麻油鶏を煮た。(中略)麻油鶏には、肉親のような温かみがある。一口食べればたちまちほっと温まる。外の世界がどんなに寒く冷たかろうと、一杯食べれば肉親の情のごときその美味が解され、身も心もなぐさめてくれる」

出産後の女性の滋養用には、当帰(トウキ)、黄耆(オウギ)といった補血の生薬を加えることも多いようです。私も、「血の道症」の万能薬でスープに香りの深みを加えてくれる当帰を漢方薬局で購入して入れることがあります。

さて、この本を読んで、それまで以上に麻油鶏にハマったのは言うまでもありません。  我が妻も息子も怪訝な顔で、食卓に上がる回数が増えた麻油鶏を食していますが、いつか焦桐さんが記すような、一口目を含んだ瞬間に、言葉にできない思いまで伝わるレシピにできたらと密かに期しています。

ショウガは、女性を悩ませる痛みの緩和にも役立つ

麻油鶏が気になった方は是非一度お試しいただくとして、今回はこのスープの柱でもあるショウガにフォーカスしたいと思います。

ショウガは日本でも繰り返しブームになるほど人気のあるハーブですね。

2020年12月のコラム「食で改善、冬の大敵“冷え”と“乾燥”」では、血流促進・温め作用を持つ食材であることをご紹介ました。

改めて、ショウガの「温補パワー」を引き出すポイントを箇条書きにしてみます。

●生のショウガに多いジンゲロールも血流を促し体を温めてくれるが、すり下ろすか千切りにして電子レンジで1~2分ほどチンしただけで、さらに温め作用が強いショウガオールに変わる

●冷えの改善には朝ショウガをとるのが効果的

●10gほどとると温め効果を実感できる場合が多い

ショウガ粉末0.5g(生ショウガ7g相当、有効成分のショウガポリフェノールは6㎎)をとると手の指の温度を保つことがが確認されており、「末梢部位の体温を維持する」と表示された機能性表示食品も多く発売されています。

これに加えて、今回、皆さんにお伝えしたいショウガの機能性は痛みを抑える作用です。西欧では、こちらの機能性のほうが知られていると言ってもいいでしょう。

ショウガエキス(有効成分はポリフェノール)は、プロスタグランジンという炎症を起こして痛みのもととなる物質の合成を抑えて鎮痛に働くとされ、いくつも研究が行われているのです。

2010年以降に実施されたショウガの鎮痛作用を調べたヒト試験(ランダム化比較試験)を分析したところ、「月経困難症」による下腹部痛などの痛みを改善したという結果が出た試験が6件ありました。ほかに、「筋肉痛」「変形性関節症による痛み」「慢性腰痛」にも効果が期待できるようです(Phytotherpy Researchという学術誌の2020年11月号に掲載)。

特に注目したいのが、女性を悩ませる月経困難症に対する作用。おおむね、粉末ショウガを1 日750㎎から2gとることで効果が得られているとのことなので、生のショウガだったら、親指くらいの大きさ~小さなショウガ1個分ほどでとれてしまう量です。これを月経の最初の3日間とり続けることで鎮痛作用が確認されています。

ちなみに私が麻油鶏を作るときは、3~4人分でショウガを200~300gは平気で使いますので、粉末ショウガなら15g~20g相当分、優に“鎮痛有効量”がとれる計算になりますね(笑)。

ほかにショウガには、つわりや吐き気を和らげるというデータも多くあります。これは乾燥粉末で0.5g~1gでその効果を確かめたとする研究が多いようです。

こう見てくると、ショウガは“女性必携のハーブ”に思えませんか?

1日に片手の平にすっぽり収まるほどの量をとれば、女性を悩ませる冷えや痛みを緩和してくれる可能性があるのです。

フェムケア時代に改めて脚光を浴びてしかるべき食材です。

食品成分ですので、当然、効果には個人差があるでしょう。なかにはあまり実感が得られない人もいるかもしれません。そんな人も、少し長いお付き合いをしてみるといいかも。

ショウガを常備ハーブにして日常的に使うことは、何かしら女性の体調維持に役立ってくれる可能性が高いのではないかと私には思えます。

まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦くらいの感じで日常遣いしてみてください。何と言っても、ショウガはいろいろな料理の味を引き締め、香りを加えてくれるので。

最後に、拙稿をお読みくださった男性諸氏へ。

冷えが強く出そうな寒い日や、肩凝りや頭痛といった不調をふと大切な人が口にしたときなどに、さりげなく、温か~い「ショウガハチミツレモン」、「ショウガ紅茶」、ちょっと時間があったら「麻油鶏」などを差し出してみてはいかがでしょう。

その気持ちが後押しして(プラセボパワーも加わる!)、ショウガがその人の心身をほぐすパワーも強まるのではと思う次第です。