腸活秋の陣 『イモ(芋)・クリ(栗)・ナンキン(南瓜)』、女性が大好きな秋食材は食物繊維の宝庫

2023年10月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

女性も男性も食物繊維が足りない!

相変わらず“腸活”が大人気です。次々にその重要性が解明されていますので、大変結構なこと。是非、皆さんにも関心を持ち続けていただきたいと思います。乳酸菌が主役のヨーグルトを代表とする発酵食品類への支持が高い傾向が続いていますが、腸の中にいる善玉菌のエサは食物繊維。彼らに元気に活動してもらえるよう食物繊維をたっぷりとることもお忘れなく。

なぜなら、まだまだ私たち日本人の食物繊維量はかなり低いのです。

20歳以上の男性で平均15.3g/日、女性で14.7g/日しかとれていません(2019年版から計算法が変わったため、2018年版の国民健康・栄養調査の数字)。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食物繊維の摂取目標量が18~64歳で1日あたり男性21g以上、女性18g以上とされているので、男性で5.7g、女性で3.3g不足していることになります。

実は、世界中から集めたビッグデータを解析した研究では1日25g以上摂取することで多くの病気リスクが下がるとされています。つまり、本当は男女とも1日あと10gほど食物繊維摂取量を増やしたいところなのです(Lancet誌、2019年2月2日)。

かなり意識して食物繊維が多い食材をとらないと、なかなか実現の難しい数字ですね。

そこで、今回のテーマ、女性が好きな秋の味覚『イモ・クリ・ナンキン(カボチャ)』。このトリオは、秋の腸活を考えるに当たり素晴らしいアイテム。いずれも食物繊維の宝庫です。しかも、主食だけでなく、間食にも活躍する食材ですので、食物繊維をプラスオンする機会も増やせますね。

中でも「こいつ、やるね!」というのが、イモの中でも「干しイモ」、クリでは「甘グリ」前者には100gあたり8.2g、後者には8.5gもの食物繊維が含まれます(日本食品標準成分表増補2023年より)。この二つを秋おやつの定番メンバーにすれば、食物繊維摂取量の国際目標クリアもそんなに難しくないかも。

こころや脳が心配な人も食物繊維をとるべし! その理由とは

それぞれの食材の説明に入る前に、食物繊維をしっかりとることの効果を明らかにした最新研究をいくつかご紹介しましょう。

最近、腸活の中でもことに“脳腸相関”に対する関心が高まり、腸に働いて睡眠やストレスを改善する乳酸菌飲料などで大ヒット商品が生まれていますね。しかし、メンタルや脳の健康維持の面で見ても、やはり乳酸菌類だけでなく食物繊維がいかに欠かせない成分かがわかります。

●食物繊維摂取量が増えるほど、うつ病のリスクが低下

18の研究を統合して分析したところ、食物繊維の総摂取量が5g/日増加するごとに、うつ病リスクが5%づつ減少(Nutritional Neuroscience誌、2023年2月)

腸から心を元気にすることもできるんです。

●食物繊維の摂取は、アルツハイマー病発症リスクが高い人たちの認知機能低下リスクを軽減

イタリア・トスカーナ地方に住む平均年齢 74 歳の 848 人を15年間追跡したところ、アルツハイマー病発症リスクが高い人たちでも、食物繊維摂取量が 1 日あたり 5g増加すると、認知機能低下のリスクが 30% 低下していた(Age and Ageing誌、2023年1月)。

しかも、中年期から食物繊維をしっかりとっていたほうが、認知症リスクは低く可能性があるようです。

中年期に食物繊維を多くとっていた人たちで認知症による要介護リスクが低下

日本国内に住む約3700人を最大21年間追跡調査し、食物繊維の摂取量で4群に分けて分析したところ、中年期に最も多く食物繊維をとっていた群は、一番少ない群に比べて介護が必要な認知症を発症するリスクが26%低かった(Nutritional Neuroscience誌、2023年2月)。

何と言っても、『イモ・クリ・ナンキン』は女性の支持が強い秋の味覚ですので、近年発表された女性に関係するデータもご紹介します。女性自身の健康に関するものと生まれてくる子供に関するものです。

●食物繊維を多くとる女性で乳がんリスクが低下

20の研究を統合解析したところ、食物繊維消費量が最も多い群で乳がんリスクが8%低下。閉経前でも閉経後でもリスクが下がっていた(Cancer誌、2020年7月1日)。

●妊娠中の繊維摂取量が少ないと、乳児の脳の発達が遅れる可能性

日本の研究。76,000組以上の母子の分析で、食物繊維摂取量の少ないグループの母親の子供は神経発達の遅れを示す可能性が高かった。影響を受けていたのは、コミュニケーションスキル、問題解決スキル、個人的社会的スキル(Frontiers in Nutrition誌、2023年7月27日)。

日本の妊婦さんのうち食物繊維を十分に摂取できている人はわずか8.4%と指摘されているので“自分もきっと足りてない”という意識を高めたいところです。

イモ・クリ・ナンキンには食物繊維だけじゃないパワーがある

ということで、前置きが長くなりましたが、秋の3食材の食物繊維量とそれ以外の魅力を見ていきましょう。

■イモ

秋の主役はサツマイモ。さて、その食物繊維量は・・・。

 <食物繊維量(100g当たり、日本食品標準成分表増補2023年より、以下同)> 

・皮なし(蒸し)    2.3g

・皮付き(蒸し)    3.8g 

・皮なし(焼き)    4.5g

・干しイモ(蒸し切干) 8.2g

干しイモは別格として、皮付きのサツマイモを焼き芋で食べるのがよさそうですね。加熱後に冷めるとでんぷんの平均約3.6%が「難消化性でんぷん」という食物繊維になることを調べたデータもあります。これは同成分の宝庫と言われるジャガイモとほぼ同じ数字とのこと(第226回日本作物学会講演会要旨集より)。

難消化性でんぷんは人気急上昇の食物繊維。腸内細菌のエサになって効率的にビフィズス菌などの善玉菌を増やすほか、腸の炎症を抑える働きなどもわかってきました。一度加熱して冷まして食べるデザート類がよさそう! 

<見所>

サツマイモについては、2022年2月のコラム(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/10486)で、沖縄の伝統食が長寿に寄与した理由の一つとして、サツマイモが主食として食されていた点が指摘されていると記しました。長寿者たちは1日400~500gのサツマイモをとっていたようです。ムラサキイモは中まで、普通のサツマイモだと皮に、抗酸化成分のポリフェノールのアントシアニンやβカロテンも多く含まれます。サツマイモのエキスをとり続けた試験では2型糖尿病のリスクを抑える効果も確認されています(Cochrane Database of Systematic Reviewsより、2013年9月3日)

ちなみに、秋はジャガイモも旬の季節。

冷めたジャガイモも難消化性でんぷんが多い食品だと書きましたが、こちらに関する研究はサツマイモより進んでいると言っていいかもしれません。

約50人がジャガイモの難消化性でんぷん3.5gを4週間とったところ、炎症性の物質が減って、ビフィズス菌が増え、腸を守る機能も高まったという報告などがあります(Journal of Functional Foods誌、2023年9月)。

先に挙げた「中年期に食物繊維を多くとっていた人たちで認知症による要介護リスクが低下」という研究ですが、食品別に見ると、認知症リスクを確実に下げていた食品はイモでした。イモを多く食べる人たちで最大35%リスクが減っていたのです。この関係は野菜・果物では見られなかったとのこと。

イモの食物繊維が、脳の健康にまで働く可能性があるなんて思イモしなかった!

■クリ 

クリの英語名はチェストナッツ。れっきとしたナッツです

2022年3月のナッツに関するコラム(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/11317)で触れたように、ナッツを毎日手の平一杯分ほど食べることで肥満のリスクが低くなったり、2型糖尿病、心血管疾患などのリスクが低下することが確認されています。

では、その食物繊維量を見てみましょう。

<食物繊維量>

・ゆでグリ(日本クリ)  6.6g

・甘グリ(中国グリ)   8.5g

ナッツとしてのクリの特徴は、ほかのナッツに比べ、脂質が少なく炭水化物が多いこと。そのため、100gあたりのカロリーは、アーモンド(乾)609kcal、くるみ(いり)713kcalに比べてかなりの低さです。ゆでグリで152kcal、甘グリで207kcal。

そのうえ食物繊維リッチなので、単位カロリーあたりの食物繊維摂取効率で見ると、クリはアーモンドやクルミ以上のスーパーナッツ!

<見所>

青森県の三内丸山遺跡の発掘などで、既に縄文時代には食べられていたことがわかっているクリは、ヨーロッパでも紀元前3700年には栽培されていたそうです。まさに、人類の歴史とともに歩んできたナッツといえます。

そんなクリには葉酸、ビタミンC、マグネシウムといった重要なビタミン・ミネラルがバランスよく含まれています。さらに、エラグ酸、タンニンをはじめとして、クリの皮に多いポリフェノールは抗炎症作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用を示すことで注目されています(Journal of Food Biochemistry誌、2021年3月10日)

つまり、甘栗以外の栗を自宅で調理して食べる際には、できれば渋皮を残して食べたいところ。

しっかりアク抜きした渋皮煮を定番に!

■ナンキン(カボチャ)

 スーパーで見かける西洋カボチャは、実は野菜類の中でもゴボウ(ゆで、6.1g/100g)、大根(生、5.1g)に次ぐほどの食物繊維リッチな野菜。

<食物繊維量>

・ゆで(西洋カボチャ) 4.1g

・焼き(西洋カボチャ) 5.3g

焼肉に添えたり、バーベキューなどで焼いて食べるのが、食物繊維だけでなくβカロチンなどカボチャに多い栄養素も効率的にとれますが、そんなに気にすることはありません(ちなみに、ゆでカボチャ100gのβカロチン量は2500㎍、焼いたら5400㎍)。ゆでたものを料理に使用したほうが、食べる総量は多くなりそうですので。

<見所>

丸のままだと1~2カ月常温保存できるのもカボチャの便利な点。もうだいぶ前になりますが、『日経ヘルス』の2004年年末号で「女性に足りない栄養素を補ってくれる野菜ランキング」を作ろうということになりました。編集部総出で、女性にとって大切な栄養素とその過不足を一覧にし、よくスーパーで見かける野菜が、女性で不足しがちな栄養素を充足するパワーを総合評価したのですが、なんとカボチャが一位になりました。

それなりに1食で量がとれる野菜なので、食物繊維やビタミンC、葉酸、α-トコフェロール(ビタミンE)、βカロテンをはじめとするカロチノイドなどが広く補えます。野菜の中で含有量断トツ一位というものはありませんが、大切な栄養素を広くいい具合に含んでいるのです。

日本食品標準成分表にはデータがありませんが、これからその重要性が増してきそうなのがルテインというカロチノイドです。もともと目の網膜に多いカロチノイドで太陽光から目を守ることで知られています。

「1日10㎎ルテインを摂取することで、光による刺激から目を保護する網膜(黄斑部)色素量を増加させる」という機能性表示が届出されていますが、生鮮食品では、120gに5㎎ルテインを含むかぼちゃが機能性表示食品になっています(野菜は有効量の半分以上とれれば機能性表示が可能)。

また、ルテインが体内に十分にある人では認知症のリスクが低いという報告が次々に発表されています(Neurology誌、2022年3月24日など)。目だけでなく脳も守る可能性があるということですね。

さらに、こうしたカロテノイドの総血中レベルが高い女性では、目や脳の疾患リスクだけでなく、卵巣がん、乳がん、サルコペニア、皮膚のシワ、炎症性腸疾患、多発性硬化症などのリスクも低下する可能性があるとする研究が発表されました(Nutritional Neuroscience誌、2023年8月26日)。

当時の『日経ヘルス』の力づくのランキングでカボチャが1位になったときは、あの甘さとホクホク感がちょっと苦手な男の私は「ほんとかなー?」とやや懐疑的になりましたが、やはりそれはただの僻目でした。

本当にカボチャは女性の守り神なのかもしれません。

反省もこめて、今後は、妻と一緒においしく食べられる調理法を研究しようと思う次第(;^_^A

好きな食材で、食物繊維をたっぷりとる。その腸活効果で、ますます健康になれるとは、文字通り“おいしい話”ですね。

ここは、おいしい話にまんまと乗って、ハッピー&ヘルシーな秋をお過ごしください。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。