スマイルネット倶楽部のお客様へ、パスワード再設定のお願い

「植物性食品主体で健康的な食事の代表」と、日本のある地方の伝統食に世界が注目

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは『沖縄伝統食』。沖縄が長年長寿県であった秘密を食事から紐解きます。

2022年2月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

世界で進む植物性食品志向

環境負荷の大きさや、赤身肉・加工肉の摂取過多による健康リスクなどから、畜肉を植物性の食品に置き換えようという動きが世界的に広がっています。例えば、英国の調査では「主に植物性の食品を食べ、時には肉も食べる」フレキシタリアンという人たちが2019年で14%に達し、さらに増えつつあるそうです。

日本でもアーモンドミルクや大豆などで作った代替肉や卵などが話題になり、市民権を得つつありますね。

健康面から見ると、そんなに無理をして肉を食べる量を減らさなくても、食事からとる総エネルギー摂取量の3%を動物性たんぱく質から植物性たんぱく質に置き換えるだけで、各種疾患による死亡率が下がるという報告があります。

世界の13の研究計約44万人分のデータ分析では、3%を置き換えれば5%死亡率が下がるという結果が出ていますが、約7万人を対象に平均18年間追跡した日本の研究では、同じ3%の置き換えで、なんと全死亡率が34%、がん関連死亡率が39%、心血管疾患関連死亡率は42%も低下しました。

もちろん環境配慮は大切ですが、健康面では植物性のたんぱく質食品を少し意識して多めにとるようにするだけでもメリットは得られそうです。

1日の摂取カロリーを2500kcalとして計算すると、その3%は75kcal、たんぱく質量で19g弱。たんぱく質量の多い大豆食品(乾燥大豆はたんぱく質比率が33%超と肉類並み!)、例えば納豆なら2パックくらいでとれる量です。

そもそも日本人は1960年代まで、植物性食品を主なたんぱく質源にしていました。農水省の資料を見ると1960年でも、米、大豆を中心に摂取たんぱく質の65%が植物由来です。それ以前にはさらに高い数字でした。ただし、この時代は食塩の摂取量が多すぎだったことや、日本人の寿命がぐんと伸び始めたのが一般家庭で普通に肉や魚を食べられるようになってからということを踏まえると、この頃の食事が健康にいいと簡単に言うことはできません。しかし、今に続く日本食の特徴の一つになっていることは確かです。

世界に誇る植物性食品主体の食文化がある県とは?

一方、日本のある地方に、25年にわたる住民研究のデータを基にして、「圧倒的に植物性食品の摂取量が多いうえに健康に寄与する食事」だと今改めて世界に注目されている、伝統食があります。

1970年代から2000年代まで、海外の研究者も加わって食事内容と健康長寿の関係が研究された「伝統的な沖縄食」です。

沖縄は1980年代半ばまで日本一の長寿県で、100歳以上の高齢者の数では世界一とされていました。そこで、沖縄の“百寿者”について食事などの生活習慣を調べる研究が始まったのです。

この成果は「沖縄百寿者研究(The Okinawa Centenarian Study)」という名称で、英語で公開されています(https://orcls.org/ocs)。

調査に関わった海外の研究者がまとめた論文に記された、沖縄伝統食のポイントは下記で、沖縄伝統食のフードピラミッドも掲載されています(「Mechanissms of ageing and development」という医学誌に2014年発表)。

フードピラミッドとは、多く摂取する順に下からピラミッド状に食品を積み重ねて、どんな食品が食事の土台になっているかをわかりやすく示したものです。

<沖縄伝統食の特徴>

1 カロリー摂取量が低め

2 野菜(根菜と緑黄色野菜、海藻など)を大量に食べる

3 マメ科植物(主に大豆)を大量に食べる

4 魚製品を適度にとる

5 肉製品(主に赤身肉)の消費量が少ない

6 乳製品の消費量が少ない

7 低脂肪(不飽和​​脂肪酸の摂取量が多く、魚油などのオメガ3脂肪酸摂取比率が高い)

8 低GI(グライセミックインデックス)の炭水化物食(血糖値が急上昇しにくい食事)

9 食物繊維摂取量が多い

10 適度なアルコールの摂取

<沖縄伝統食のフードピラミッド>


このフードピラミッドの説明では、「主食のサツマイモ、緑黄色野菜もしくは根菜、毎食添えられる大豆食品(豆腐、味噌汁ほかの料理)が食事の土台」としているので、一番下の「野菜と果実」の中には、大豆はじめとする豆類も含んでいると考えられる。ピラミッドの周囲にある項目は、食事(食品)以外の重要な要素。

(出典:いずれもMech Ageing Dev. 2014 Mar-Apr; 136-137: 148–162.より改変)

とにかく当時の沖縄の長寿者たちの野菜摂取量の多さには驚きます。

1950年に日本の平均が1日301gであったのに対し、なんと沖縄の長寿者は965g!で 摂取カロリーの約6割を野菜からとっているのです。しかも野菜の約半分はサツマイモだったとこの論文は指摘しています。

日本中の約1000の村を調査して1972年に『日本の長寿村・短命村』という著書を記した東北大学医学部の近藤正二教授(当時)の調査でも、沖縄の竹富島では、「サツマイモが主食で、豚肉はほとんど食べていなかった」とされています。今、沖縄を代表する料理というと、ラフテー(豚の角煮)やテビチ(豚足)が思い浮かぶので、ちょっと意外かもしれません。

サツマイモが主食のように食されていたというのもちょっと驚きですが、サツマイモはムラサキイモだと、抗酸化成分のポリフェノールも多く含まれますし、食物繊維も皮付きで蒸した場合3.8g/100gと多いうえに、加熱処理するとさらに「難消化性でんぷん」という食物繊維成分が3.5~4gくらいできるという研究もあるので、血糖値を急上昇させにくく、しかも腸内環境を整える作用が期待できる素晴らしい“主食”と言えます。

ここでいう「野菜」には、血糖値抑制作用はじめメタボリックシンドローム予防作用が報告されているゴーヤをはじめとして、島らっきょう、ナーベラー(へちま)、フーチバー(よもぎ)、ハンダマ(金時草)、ウコンなど力強い野菜類だけでなく、昨年12月のこのコラムでそのパワーに触れた海藻類も入っているようです。

沖縄では、アーサ(ひとえぐさ)、モズク、モーイ(いばらのり)など多様な海藻を食します。そして、定番料理にクーブイリチー(昆布の炒め物)がありますが、長寿県1位だった1985年まで、沖縄は昆布消費量も日本一の県だったのです。

柔らかい「ゆし豆腐」やこれを固めた「島豆腐」、医薬品並みにコレステロール値を下げる紅麹で発酵させた「豆腐よう」と、大豆食文化も多彩。

まさに、植物性食品のパラダイスですね。

<「沖縄百寿者研究」をまとめた本>

「オキナワ式食生活革命」(2004年、飛鳥新社刊)。2001年に「The Okinawa Program」という名称で米国で出版され話題になり、世界各国で出版された後、やっと日本でも翻訳出版された。25年間の「沖縄百寿者研究」の成果がわかりやすくまとまっている。

沖縄伝統食は自然に腹八分目になっている

では、どうして沖縄伝統食が世界で注目されているのでしょうか。

「沖縄百寿者研究」では、前述したような内容の食事を送っている高齢者で心血管疾患やがんの死亡率が少なく、女性では更年期症状を訴える人が少ないことなどが明らかにされました。

世界を代表する健康的な食事といえば、トマトや緑色野菜、魚やナッツを食べ、オリーブオイルを使用する地中海食が有名です。疾患予防作用・健康効果を検証した論文が5000報を超える地中海食と並んで、沖縄伝統食は認知症などの加齢性疾患に強い食事という評価が高まっているのです。

特に地中海食に見られない特色とされているのが、「自然な腹八分目効果」。野菜類が中心で大豆食品やサツマイモなどで腹持ちもいいからか、普通に食べていても10~15%のカロリー制限食になっていると指摘されています。

これまでの世界の老化制御研究の成果でほぼ確実に健康長寿役立つとされているのが、10数%~30%(食べすぎの場合)くらいカロリーを減らした食事にすること。生き延びるのに役立つ体の機構が働き出すのです。しかし、こうした生活を続けるのはなかなか難しいので、それに替わる成分や薬はないかという探索が進んでいるのが現状です。

その点、沖縄伝統食は普通に食べていれば、適度なカロリー制限になるというわけです。自然な「腹八分目」効果ですね。

このような評価を受け、スウェーデンではルンド大学が中心となって、北欧で手に入りやすい食材で沖縄伝統食に近い食事をデザインし、効果を検証する試みが行われました。摂取量を増やしたのはベリー類、ナッツ、根菜類、全粒穀物など。この「北欧型沖縄食」を2型糖尿病の患者が12週間続けたところ、糖と脂質に関するスコアが改善、満腹感が高まり、甘味への欲求が減って、体重も減少したそうです(「Experimental and Therapeutic Medicine」という医学誌の2019年4月号に掲載)。

今年の1月には、米国のPhysicians Committee for Responsible Medicine(責任ある医療のための医師委員会)が、植物性食品が多い健康的な食事をしている人では新型コロナウイルス感染症の感染リスクが9%低く、重症化リスクは41%低かったという60万人対象の研究データなどを基に、新型コロナ禍を過ごすのに参考になる食事として沖縄伝統食を挙げました(「European Journal of Clinical Nutrition」という栄養分野の専門紙の2022年1月号に掲載)。

世界で話題になっているのに、日本では脚光を浴びているとはいえないのが寂しいところ。宝の持ち腐れと言っては言い過ぎでしょうか。

命の薬になるようなおいしく滋味豊かな食べ物のことを、沖縄では「ぬちぐすい(命薬)」と呼びますが、自分が暮らす地域の食材で「沖縄伝統食」をデザインしたらどんなメニューになりそうか、「ぬちぐすい」の素になりそうな野菜や豆などはないかと考えてみるのも楽しそうです。