梅雨の時期のだるさ、不調をすっきりしたい人に試してほしい食品とライフスタイル


『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。6月のテーマは梅雨だる対策。食品やライフスタイルを見直し、梅雨の間も気持ちは爽やかに過ごしたいですね。

2023年6月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

梅雨という文字の中に潜む「梅」に意味あり

雨が続く梅雨の時期はだれでもだるさを感じたり、ちょっとふさいだ気持ちになったりすることがあるのではないでしょうか。

湿度が高く、食品が腐敗しやすいことなどもあるせいか、梅雨という文字を見ただけでどんよりしてくるという人もいるようですが、この梅雨という単語には、清楚で香しい花を咲かせて春の訪れを寿ぎ、また長く、日本人の食卓に欠かせない食材となってきた「梅」の文字が入っているのは、なかなかオツだとも言えないでしょうか。

梅雨は梅の実が熟す季節でもあります。

そして、この時期のだるさや不調の軽減に、梅は役立ってくれるのです。

梅は一般的に生食が推奨される果実ではないので、加工して食されます。加工品には梅酒、梅ジャムなどいろいろありますが、果実重量の数%が酸味成分クエン酸という梅は酸味食材の代表。どなたにも馴染みがあるのは、その酸味を活かした保存食・梅干しでしょう。

「梅干しを眺めれば、自然に出てくるつばをおかずにして飯が食べられる」と落語『始末の極意』で語られるほど、食欲をそそる食品。梅干しを口にすることによって唾液の分泌量が2~3倍に増えるとする研究もありますので、消化にも口腔内の免疫アップにも良さそうです。

古くから「その日の難逃れ」とされる重要なリセット食品でもありました。

江戸後期に出版された、各種食材についての効用をまとめた書『飲膳摘要(いんぜんてきよう)』には、「梅干しの七徳」という項があります。

一、毒消し。うどんは必ず梅干しを共に

二、腐敗防止。夏、おひつの底に梅干しを入れておくと腐敗防止に

三、疫気除け。旅館では必ず朝食に梅干しを出すもの

四、料理の味を変えない

五、息切れ予防。走る際に1粒口に含んでおけば息切れしない

六、頭痛に効く。頭痛にはこめかみに梅干を貼る

七、梅干しから作った梅酢は流行病(感染症)予防にいい

これはもう薬箱の中に置いておきたくなる保存食ですね。

では、どんな梅の成分が働くのでしょうか?

まずはクエン酸。梅干しを口にすると、その酸味だけでも目が覚めるような気がするほど。

私たちが活動するためのエネルギーは、細胞中のミトコンドリアで「クエン酸回路」が働くことで作られます。クエン酸はエネルギーATPの生成に欠かせないので、不足するとエネルギー化されずに乳酸やグリコーゲンが溜まり、疲れが抜けない状態に。

かつて、「血液サラサラ」がブームになった折には、クエン酸が血液中のカルシウムイオンを抱え込むことで、血液が凝集しないようにする働きが強いという研究報告をもとに、「梅干しは最強の血液サラサラ食品! 健康な血の流れを保つための先人の知恵」と話題になったことも。

機能性表示食品では、クエン酸が1000㎎以上含まれる商品で「運動後や日常生活の疲労感を軽減」と表示されています。

梅干し1粒には約300㎎のクエン酸が含まれるので、血液をサラサラにし、だるさをためないためには3粒くらい食べた方がよさそうです。

もっとも、クエン酸が多い食品にはレモン、かぼす、シークワーサー、ライムなどの柑橘もあるので(だいたい約5000~7000㎎/100gくらいのクエン酸が含まれる)、こうした柑橘の果汁をとるのも手。薄める前の果汁約30㎖(大さじ2杯)で1000㎎程度のクエン酸がとれる商品が多いようです。

食酢に含まれる酢酸も頼もしい味方

クエン酸だけでなく、酢に含まれる酢酸も(酢にはクエン酸も含まれます)、体内に入るとスムーズなエネルギー生成に働き、心身のすっきりに役立ってくれます。

機能性表示食品では667㎎以上摂取したときに「疲労感を軽減する」とされていますので、大さじ1杯(15ml)を目安に料理に使ったり、ドリンク酢として飲んだりしましょう。

2021年6月のコラム「酢で、巣ごもり不調の体と心をすっきり(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/6681)」の回では、東洋医学的に見たとき、“酸”がストレスなどによる自律神経の乱れを調整するのに役立つとされていると記しました。

心身をつかさどる五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうち、特に「肝」にストレスがダメージを与え、自律神経が乱れることで生じる疲れやだるさを鎮めるために“酸”を補うという考え方です。

私たちの祖先は、このような知識も踏まえて、梅干しを「その日の難逃れ」として使ったのでしょうね。

食酢以外にも、日本ではかねてより人気の黒酢やフルーツ酢など多彩なドリンク酢が発売されてますが、米国でもこの数年ドリンク酢が人気です。

なかでも圧倒的な人気を博しているのが、リンゴ果汁を二重発酵させた「アップルサイダービネガー」。ダイエット、抗菌、血糖値上昇抑制、整腸などを目的に購入されているようです。つまるところリンゴ酢なのですが、そこはアメリカ気分も含めて楽しんでみるのもいいかも。輸入品も増えてきているようです。

梅のポリフェノールにも注目 毎日楽しむコツは? 

改めて話を梅に戻すと、梅干しでは、ポリフェノールに関する研究も行われています。

梅の乾燥重量の約1%がポリフェノールで、抗酸化機能以外に、抗疲労機能、血糖上昇抑制作用などが確認されているとのこと(「化学と教育」2015年63巻11号に掲載)。

クエン酸とポリフェノールがWでだるさの解消に役立ってくれるようです。

さて、皆さんはどんな梅干しの食べ方がお好きですか。

私は、サメや鶏の軟骨と梅肉を和えた「梅水晶」が好物ですが(お酒のおつまみに最高!)、日常遣いには梅の産地である和歌山県で愛されている「梅びしお」を常備するのもお勧め。

梅干し(水で塩抜きしたもの)、砂糖、みりんを一緒に煮立たせ、とろみが出るまで弱火で加熱して作る万能調味料ですが、カツオ節などを合わせてご飯に乗せて食べるもよし、オリーブオイルや刻みネギを合わせてドレッシングとして使うもよし。

インターネットで検索するといろいろなレシピが出てくると思いますので、関心を持たれた方は、ご自身の好みの味を見つけてください。

かつては塩分含有量が20%近くのものも多く、つい塩分を取り過ぎてしまうのが梅干しのウィークポイントでした。しかし最近は10%を切る商品が増えています。

特にフレスタが推奨する『Bimi Smile 減塩 紀州南高梅』(しそ漬梅とはちみつ梅)は塩分3%の梅干し。「梅びしお」を作る際にも水で塩抜きする必要はないでしょうし、1日3、4個食べても安心です。

この梅干しを使ったガスパチョやハンバーグといったメニューも紹介されているので、覗いてみてくださいね(https://www.fresta.co.jp/item_bimismile/8170)。

ちなみに、南高梅の産地、和歌山県みなべ町では、梅干しを作るときにできる梅酢でうがいをし、インフルエンザなどの予防に役立てているそうです。梅干し、梅酢には抗菌作用もあるのです。

こんなに歴史ある食品なのに、まだまだいろいろな利用法がありそうなのが、日本の誇る健康保存食・梅干しのすごいところです。

食酢がなかったころは、塩と梅酢で料理の味付けをしていたわけですが、いい味加減になったときが“いい塩梅(あんばい)”。

どうぞ、梅干し、食酢を上手に使って、いい塩梅で梅雨をお過ごしください。

梅雨の時期には「気象病」による“だるさ”も

さて、「いい塩梅」で今回のコラムの幕を引こうかと思いましたが、ちょっと待った。

気候が変わるときや季節の変わり目になると頭痛や関節痛といった持病、腰痛、倦怠感などがひどくなるという方はいませんか? 気圧や湿度、温度などの変化によって症状が悪化するというのはもしかしたら「気象病」かもしれません。

こうした方は、特に梅雨の季節は注意が必要です。

第一三共ヘルスケアが2022年7月に実施した『天気の変化による身体の不調「気象病」に関する全国47都道府県実態調査』によると、気象病の経験率は全国平均で67.1%、症状は1位が「頭痛」(67.1%)、2位「だるさ」(50.8%)でした。

一方、全国の中で「岡山県/広島県」で気象病を経験したことがあるという人は56%だったそうです。これは全国47都道府県中、北海道に次いで低い数字! 皆さんは、気象面で過ごしやすい場所にお住まいになっているといえそうです。

それにしても過半数の方に「気象病」の可能性があるわけですから、梅干しや食酢で「頭痛」や「だるさ」が軽減しないという方は、下記のような点にも留意してみてください。

気象病は、慢性痛、ぜんそくなどの持病がある人、PMS(月経前症候群)の女性、ストレス過多の状態が続いている人などで発症することが多いようです。

●生活リズムを整える(夜遅くまで寝ていたり、朝寝坊したりするのを控え、規則正しい時間に寝起きする)

●欠食や過食、栄養バランスに気を付ける(3食をとる時間もできるだけ規則正しく)

●意識してストレスがたまらないように(運動をする、お出かけする、好きなことをする、ゆっくりお風呂に入る、など)

気象病の症状が出る背景には自律神経の乱れがあるとされていますので、できるだけこのバランスが乱れにくい生活を意識するのが基本です。

そのうえで、自分が住む地域の気象や気圧の変化を知らせてくれるなど体調管理に役立つ機能がついた、以下のような気象病アプリを使って、準備を心がけましょう。

◆『頭痛―る』

◆『天気痛予報』

梅雨の時期は食あたりも多くなるので腸の守りが重要ですし、腸が不調だと自律神経の乱れにもつながることがわかっています。

両面を考えて、食物繊維が多い食品や乳酸菌などを含む発酵食品を意識してとり、腸内細菌のバランスを整えることも心がけたいもの。

梅雨に強い体が維持できれば、その後にやってくる猛暑の備えにもなります。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。