酢で、巣ごもり不調の体と心をすっきり
『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。第9回目は、今注目の「お酢」。これから暑くなる季節にピッタリのお酢の効能をご紹介します。
2021年6月
健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩
「ちょっと疲れがたまったな」というとき、酸っぱいものがほしくなりませんか?
これは、生理学的にも東洋医学的にも自然な反応といえるようです。
生理学的には、酢に含まれる酢酸や果実などの酸味成分であるクエン酸が利用されやすいエネルギー源であることと、適度な酸味が脳を刺激することで、速やかな心身の疲労回復が図れます。
また、東洋医学は人体を五つの機能、五臓(肝、心、脾、肺、腎)に分け、これらの相互作用で健康バランスを考えますが、中でも「肝」は自律神経・ストレスをつかさどるとされます。そして肝が乱れて疲れがたまったときに補うべきなのが酸。
2021年5月24日に『コロナ禍の“巣ごもり肥満”と“疲れ”をお酢でリセット』というセミナーが開かれ、私はこれを主催した「お酢でおいしさと健康を考える会」(以下お酢健。ホームページは下記 https://osuken.jp/)の賛同者になっていることもあり、セミナーの進行役を務めました。
その中で、巣ごもりによるストレスと心身の疲労解消に酢が役立つ理由として挙がったのが上記の仕組み。
お酢健のホームページ。酢を使ったレシピから、世界の酢に関する情報まで酢と楽しく付き合うための情報が得られる。
登壇者の一人、酢の機能を研究する広島修道大学の多山健二教授からは生理学的な説明が、そしてもう一人の登壇者で代替医療の専門家・東京有明医療大学の川嶋朗教授からは東洋医学面からの解説がありました。
セミナーでは、お酢健が2020年11月~12月にかけて実施した実験の結果も報告されました。84人が28日間毎日酢を15ml(大さじ1杯分)とって体重や疲労度の変化を見た「お酢でダイエットチャレンジ」というものです。
昨年来、コロナ禍による巣ごもりで、運動量が落ちたり、ストレスで食べすぎたりすることによる体重増加や疲労感の蓄積を訴える人の増加が世界的に問題になっています。
このチャレンジ企画は、毎日酢を取り続けることがこうしたコロナ不調を軽減する役に立つかを調べようとしたもの。
厳密な試験ではありませんが、肥満気味の人ほど体重が減る傾向があり、下のグラフのように「体重が減少した人では肉体的な疲労感も改善した」とのこと。
これは、酢には疲労感を改善するだけでなく、下記のようないくつかの仕組みで肥満を防ぐ作用があるためと考えられます。
① 脂肪細胞の肥大を抑え、分解を促す
➁ 骨格筋でのグルコース(糖)の利用促進
③ ②に血流促進なども加わってエネルギー消費量が増加すること など
実際、「肥満気味の方の内臓脂肪を減少させる」と表記された機能性表示食品も発売されています。機能性成分は酢酸で、有効量は750㎎。これは15mlの酢でとることができる量なので、ダイエットチャレンジ参加者にもこの量をとってもらい効果を確かめたというわけです。
酢は生活習慣病リスク低下から美肌にまで役立つ
酢は、酒に含まれるアルコールをエサに酢酸菌が発酵することで作られます。
約7000年前にはバビロニアで醸造されていたことが確認されており、日本でも奈良時代にはすでに調味料として使われていました。私たちと最も付き合いが長い加工食品の一つといえます。日本食の魂ともいえる米と魚。この二つの食材の豊かな味わいと持ち味を昇華させた「寿司」も酢という名うての仲人がいなければ生まれませんでした。
酢は食べ物の味を調え、その長所を引き出すだけでなく、冷蔵技術を持たなかった人類にとって、その優れた防腐作用は、塩とともに食品の保存にも不可欠でした。
今、塩はとりすぎると胃がん、高血圧、心臓疾患など健康を脅かすリスクになるため摂取減対象になっています。一方、酢はリスクがないどころか生活習慣病予防に役立つパワーを持つことが明らかになり、改めて注目を集める“発酵食品”になりつつあるのです。
冒頭でまずセミナーのテーマだった酢の肥満防止、疲労軽減作用に触れましたが、ほかにどんな働きが確認されているかざっと列記してみましょう。広く、生活習慣病のリスク低下に役立ってくれることがわかります。
●血圧抑制作用
この機能は「血圧が高めの方に適した食品」として特定保健用食品(トクホ)として認可されています。
●食後血糖値の上昇抑制
食事が胃から排出されるのを遅延し、インスリンの効きをよくすることで高血糖を防ぎます。
●冷えの改善
血流を高めることによって、冷えを和らげます。
●カルシウム、鉄の吸収促進
日本人に不足しがちな栄養素の吸収をよくしてくれます。
料理に使う米酢・穀物酢やバルサミコ酢、ドリンク用途に合う果実酢など利用シーンが広いのも酢のいいところ。酢の発酵・熟成を進めた黒酢では、うまみのもととなるアミノ酸量が増え、さらに美肌作用やアンチエイジング作用が加わります。
特に注目されているのが黒酢の発酵プロセスで増えるD-アミノ酸という成分。味に深みを増すだけでなく、肌の細胞では潤いを守ること(下グラフ)、腸では病原体の感染を防ぐ働きをすることなどがわかってきました。
酢の効果を引き出し、楽しむコツ
酢の効果を得るにはどのくらいとるのがいいのでしょう。
多くの研究は、1日15~30ml(大さじ1~2杯)で効果が確かめられています。「しかし、酢を直接大量にとると胃が荒れるので、5倍以上くらいに薄めてとるようにしましょう」と広島修道大学の多山教授。ここまで触れてきたように酢酸は全身で役に立ってくれますが、食酢でとるとほぼ99%吸収されて使われます。実は、酢酸は大腸の健康維持にも欠かせない成分。しかし大腸には食事でとった酢酸が届かないので、ビフィズス菌などの有用菌が作ります。こうした菌のエサであるオリゴ糖や食物繊維を多く含む食品をとって腸内発酵による酢酸生成を図ることもお忘れなく。
また、東京有明医療大学の川嶋教授は「酢がエネルギー代謝をよくすることから考えると、日中に向かって活動量が多くなっていく朝に摂り、運動と合わせてとるとさらに効果が高まる」といいます。
酢を毎日とって適度な運動をしていれば、梅雨や暑い夏でも“酢っきり”過ごせそうです。
酢の専門家である多山教授は毎日30ml酢をとるそうですが、スポーツドリンクやグレープフルーツジュースに酢を入れて飲むそうです。前者では酸味が気にならず、後者では深い酸味が楽しめるとのこと。
酢が苦手なお子さんには、温めた牛乳に酢を加えて「ほぼカッテージチーズ」を作って楽しんでみてはいかがでしょう。科学の実験のように楽しめますし、牛乳に含まれるカルシウムの吸収も促されるので育ち盛りにぴったり。パンにのせてハチミツをかけて食べてもおいしい。
辛いもの好きの私の定番は「酸辣」。酢に唐辛子、ラー油、コショウといった香辛料が合わさると、それぞれの刺激が丸くなり絶妙のハーモニーを奏でてくれます。酢もラー油もバリバリに効かせた酸辣湯麺や何種類かのコショウをたっぷり入れた酢をたれにして餃子を食べたり。
唐辛子のカプサイシンなどの辛み成分は交感神経を刺激して脂肪分解を促進します。酢が肥満を防ぐ作用とは違う仕組みで効くので、肥満解消作用も高まる可能性があります。
ただし、食欲も増すので要注意。
西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)
日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。
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