粉もんで健康になる?! 全粒小麦粉のパワーはすごかった

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは小麦。いわゆる「粉もの」でも、少しの工夫で健康が手に入るかも!?

2022年10月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

広島の皆様にとってお好み焼きはソールフードですよね。実は、私が暮らす東京・飯田橋界隈の直径1㎞程度の圏内にも、少なくとも4軒の(広島風)お好み焼きの店があります。もちろん私もしばしば、お好み焼にビールではふはふしている一人。

しかし、小麦粉の生地にそばも入っているから、食べ過ぎたらちょっと“糖質祭り”かなと心配になるという人もいるかも。

そこで今回は、パン、そしてお好み焼きやたこ焼きなどの「粉もの」の材料である小麦粉の話。このコーナーで取り上げるのですから、悪い話であるはずがありません。小麦粉って結構すごいよということと、そして、どうせなら全粒の小麦粉を混ぜたり置き換えたりすれば、全粒穀物の中でも王様級の健康恩恵にあずかれるということをお伝えしたいと思います。

小麦粉の食物繊維量は精白米の5倍?!

特に小麦で注目してもらいたいのは食物繊維の量と質です。

小麦粉の食物繊維量は薄力粉で100g当たり2.5g、精白米(乾燥)では0.5gなので、小麦粉は米の約5倍の食物繊維を含んでいることになります。さらに、精白米の食物繊維はほとんどが腸内細菌のエサにはなりにくい不溶性の食物繊維ですが、小麦粉は約半分がエサになる水溶性食物繊維(1.2g)*。腸内環境を整えたり、免疫物質の産生を促したりする酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を増やすように働きます。

主食として「粉もの」をレギュラーメニューに入れると、白米ご飯だけで組み立てるより、摂取できる食物繊維量が増える可能性があるわけです。

しかし、それでフムフムとせず、これからは是非、自分で粉ものを作るときは、全粒の小麦粉を混ぜてみてはいかがでしょう。その機能面の見所はこれからご説明しますが、通常の小麦粉と合わせて使うことで、全粒粉の香ばしさが感じられ、パンなどでは歯ごたえも増します。ご自分で、おいしく食べられる配合比率を調整してくださいね。

*日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

全粒小麦(玄穀小麦)の食物繊維量は穀物中No.1

さて、今回お勧めする全粒小麦(玄穀小麦)が秘めているパワーのヴェールがはがされてきたのは実は最近。

これまでの食物繊維量測定法(プロスキー変法)では、全粒小麦の食物繊維のほとんどは不溶性食物繊維(10g)で水溶性食物繊維は100g中0.5gしかないとされていました。日本食品標準成分表(以下成分表と略)でもそのように記されていたのです。

ところが2020年版の成分表で採用が始まった新しい食物繊維測定法(AOAC2011.25法)で測ったところ、100gになんと5.1gもの水溶性食物繊維が含まれることが判明。同じ方法で測定した大麦(押麦)の水溶性食物繊維が6.7gなので、ほぼ同レベルの量が入っていることになります。

しかも、食物繊維の総量では、2位の大麦(押麦)の12.2gを抑えて穀物中堂々の1位(14.0g)に! まだ成分表には「もち麦」がエントリーされていませんので、暫定1位ではありますが、全粒小麦は穀物繊維の王様になったのです。

(データ:文部省の食品成分データベースより
https://fooddb.mext.go.jp/ranking/ranking.html

2021年2月のコラム「データが証明した、もっとも健康維持に欠かせない食品とは?」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2543)を改めて読んでいただきたい。

この記事で、世界195か国、27年分のビッグデータを分析した結果、生活習慣病により健康寿命を短くする原因として最も影響が大きいのは「全粒穀物の摂取不足」だったということを紹介しました。1日90g(朝シリアルを食べて、あとの2食で1枚づつ全粒粉製のパンを食べるくらいの量)程度食べれば、がんや心疾患はじめとする様々な疾患のリスクが下がるということも。

2型糖尿病と食事の関係について世界中の研究をまとめたら、全食品中最も確実にリスクを下げるのは全粒穀物とそれに含まれる穀物繊維をとることだったとする報告もあります(BMJという著名医学誌の 2019年7月3日号に掲載)。

つまり、このように世界で注目される穀物繊維の効能を享受するに当たって、全粒小麦の摂取は非常に効率的だということになります。

全粒小麦粉で作られた120 gのパンを毎日1個づつ3カ月食べたらPMS(月経前症候群)スコアが有意に減少したという女性にうれしいデータも(British Jounal of Nutritionという栄養学雑誌の2019年5月号に掲載)。

小麦の繊維は腸の奥まで届いて働く

大麦の食物繊維の多くを占めるのはβ-グルカンという水溶性の食物繊維です。一方、小麦にはアラビノキシランという種類が多く、不溶性と水溶性2種類が混在しています。この繊維の注目点を見ていきましょう。

「大麦のβ-グルカンは、腸の中でも比較的前の方にいる細菌が食べ始めますが、小麦のアラビノキシランは、不溶性の繊維が水溶性の繊維をパックしたような状態で大腸の下の方まで行き、そこでエサになり発酵します」と日本の食物繊維研究の権威である大妻女子大学の青江誠一郎先生。

どうして、大腸の下の方(S字結腸や直腸)で発酵することが注目に値するのでしょうか。ここにはビフィズス菌はじめとして、健康機能を担う短鎖脂肪酸を産生する有用菌たちが集まっているからです。かれらの好物こそがこうした食物繊維(炭水化物)。腸の奥まで十分にエサが届かず、たんぱく質や脂質をエサにする菌が増えてしまうと、インドールやP-クレゾールといった体にダメージとなる物質が増え、腸の守りも低下してしまいます。

実際、全粒小麦配合食品を食べた人では、腸で短鎖脂肪酸の酢酸や酪酸が増え、内臓脂肪増加が抑制され、中性脂肪値が下がることなどが青江先生らの研究によりわかっています。

さらに、小麦の食物繊維アラビノキシランにはフェルラ酸というポリフェノールがついていて、腸内で細菌のエサになるとはずれて働きます。フェルラ酸は抗酸化作用や抗炎症作用が強く、血糖値や血圧を下げることなどが報告されています。日本では、日本認知症予防学会がこの成分を含むサプリメントを認知機能の低下予防に役立つと認定していたり、「年齢とともに低下する認知機能の一部を維持する」機能性表示食品になっていたりと、脳を守る成分としても研究が進んでいます。

ちょっとインターネットで探しただけでも、全粒粉を使ったパンやマフィン、クッキーなどの作り方がたくさん出てきます。フレスタのサイトには「おからパウダーと全粒粉で食物繊維たっぷり!おから衣のチキンバスケット」の紹介も(https://www.fresta.co.jp/recipe/11215)。

こうした情報を参考に、腸から脳にまで役立つ全粒小麦を皆様の粉もんライフに取り入れてくださいね。

これからは、「粉もんでおいしく健康に!」の時代です。