スマイルネット倶楽部のお客様へ、パスワード再設定のお願い

データが証明した、もっとも健康維持に欠かせない食品とは?

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。第5回目のテーマは、これからの健康の常識が変わるかもしれない、『全粒穀物』について。いくつかの研究結果に基づき解説していただきます。

2021年2月

健康医療ジャーナリスト 西沢邦浩

 世界195か国、27年分のビッグデータから、生活習慣病により健康寿命(*注)を短くする原因として影響が大きい食事スタイルは何かを分析した研究があります。2019年に世界で最も評価が高い医学誌の一つ、ランセット(Lancet)に掲載されて反響を呼びました。

 ではここで問題です。

 この研究で、健康寿命を短くする影響が1位になったのは次の6つのうちのどれでしょう?

1.塩分のとりすぎ
2.野菜の摂取不足
3.全粒穀物の摂取不足
4.魚の油(オメガ3脂肪酸)の摂取不足
5.ナッツや種類の摂取不足
6.フルーツの摂取不足

*注)この論文では、障害調整生存年=DALYs(disability-adjusted life year)という健康寿命指標が使われています。これは、「早死により失われた期間」と「疾病により障害を余儀なくなれた期間」を合わせて指数化し、苦痛や障害の程度(QOL)を考慮に入れて健康な人生の長さを見る指標です。世界保健機関(WHO)が2000年に採用。

 答えは「3」の全粒穀物。

 おそらくほとんどの方にとって、予想外の答えだったのではないでしょうか。
ちなみに、2位は「塩分のとりすぎ」、3位は「フルーツの摂取不足」、4位「ナッツや種類の摂取不足」、5位「野菜の摂取不足」、6位「魚の油の摂取不足」となっています。

 全粒穀物とは精製(精白)していない穀物のこと。通常私たちは精製した白米や小麦粉製の食品を食べることが多いと思いますが、穀物は精製する過程で糠や胚芽が取り除かれると、一般的にミネラルやビタミン、ポリフェノールなどの抗酸化物質、そして食物繊維が激減してしまいます。

 そして、でんぷん(糖質)ばかりになると、食べやすさや甘みが増す一方、消化吸収されやすくなり、血糖値も上がりやすくなってしまいます。そのため「糖質制限」といった食事法も登場してくるようになりました。

 しかし、全粒もしくは精製度が低い穀物は、外皮などに多い食物繊維が働いて糖質の消化吸収をゆっくりにするばかりか、腸を元気にして全身の健康に維持に役立つことが多くの研究で明らかになり、米国・カナダや主なEU諸国、オーストラリア、シンガポールなどでは、食事ガイドラインで、全粒穀物摂取が推奨されています。

 たとえば米国では、「毎日最低でも約90g摂取すること、1日に食す穀物の少なくとも半分以上を全粒穀物にすること」を推奨しているのです。

 つまり、穀物摂取を控えるのではなく、精製した穀物をできるだけ全粒タイプの穀物に置き換えることが勧められています。

 一方、残念ながら日本では、新しい2020年版食事摂取基準でも全粒穀物の摂取については触れられていません。

1日90gの全粒穀物摂取で医者いらず

 米国で「全粒穀物を1日90gは食べよう」とされているのには根拠があります。

 2016年に、やはり世界的な医学誌の英国医師会雑誌(BMJ)に載った、45の研究を総合分析した研究では、「1日当たり全粒穀物を90g摂取すること」で、2型糖尿病による死亡リスクが51%低下するのを筆頭に、がんや心臓病など様々な疾患にかかるリスクや死亡リスクが低下していました(下のグラフ)。

 日本人が食べてきた代表的な全粒穀物・玄米だと、90gは炊飯して約160g、茶碗一杯分程度。無理な量ではないのがわかると思います。

 米国型の食生活だとこの90gは3サービング(1食30gを3回分)という単位で表され、パン2枚 とシリアル1皿分相当になります。

 私たち日本人の食生活になじむ全粒穀物には、玄米を筆頭に、全粒小麦、挽きぐるみのそば、きび・あわ・ひえなどがあります。世界では、オーツ麦やライ麦、地域によってはアマランサスやキヌアなどが親しまれているケースも。

 中には、精製して食べても全粒穀物の優れた特徴の多くが失われない特殊な穀物もあります。それが、「もち麦」で話題の大麦。米にうるち米ともち米があるのと同様、大麦にもうるち麦ともち麦があります。押麦はたいていうるち麦を使いますが、もち麦はもっちりしているのでそのまま白米に混ぜた麦ご飯でも、違和感なくおいしく食べられますね。

 大麦のすごいところは、中までぎっしりと食物繊維が詰まっていること。そのため、精製しても食物繊維は同じ比率でとれ、またこの食物繊維に抗酸化物質が結合しているので、まるで全粒穀物のように働くというわけです。糠(ぬか)を取り去ってしまうと、ほぼでんぷんだけになってしまう白米とは構造が違うのです。

 下記のグラフをご覧ください。

 精製した大麦(押麦)でも、大量の食物繊維を含んでいることがわかります。しかも、便通を良くし腸の働きを良くする「不溶性食物繊維」も、気を付けないと不足しがちな「水溶性食物繊維」もたっぷり。水溶性食物繊維は、糖や脂質の吸収を緩やかにするだけでなく、乳酸菌やビフィズス菌といった有用菌のエサにもなる優れものです。

穀物から食物繊維をとることの大切さ

 抗酸化物質などの微量栄養素も大切ですが、全粒穀物で特に注目されているのが食物繊維。穀物に含まれる食物繊維を穀物繊維(シリアル・ファイバー)といいます。

 たとえば、日本人の国民病の一つである2型糖尿病。食生活の影響が大きいこの疾患と食品の関係を総合分析した研究だけを53も集め、それをさらに精査して真理を極めようとした論文があります(前述のBMJに2019年掲載)。

 その結果、2型糖尿病リスクを減らすというエビデンス(科学的な証拠)のレベルが高いと判定された食品は、あらゆる食品のうち全粒穀物だけでした。次にさらに細かく食品成分でみたら、やはりエビデンスのレベルが高いのは穀物繊維のみだったのです。いかに穀物から食物繊維をとることが重要かがわかります。

 ちなみに、毎日ある程度以上の量を食べていると2型糖尿病リスクを高めるエビデンスが確かという結果になったのは、赤身肉、加工肉、ベーコンでした。

 日本人の食物繊維摂取量は1955年に1日22.5gありましたが、現在は14g程度にまで減っています。減少分のうち7g、つまり多くは穀物からとる食物繊維の減少によるもの。その最大の原因は、「麦ご飯」離れにあったようです。必ずしも因果関係は証明されていませんが、日本人の麦ご飯離れが決定的になった1970年代頃から、食生活と関係が深い2型糖尿病や大腸がんといった疾患が増え続けています。

 その大麦が5年ほど前から「もち麦」をきっかけに復権しました。今や、大麦の主な穀物繊維であるβグルカンという水溶性食物繊維を機能性成分として、「腸内環境を整える/便通を改善する」「食後の血糖値上昇を抑える」「LDL-コレステロールを下げる」といった表示を行う機能性表示食品がいくつも登場しています。

 玄米も大麦も、全粒小麦を使った食品も、昔と比べて格段においしくなりました。

 日本の伝統食・そばも優秀、もちろん欧米で全粒穀物食の中心的メニューになっているシリアル類でもたっぷり穀物繊維がとれます。

 まずは1日1食、お茶碗1杯程度の食物繊維リッチな穀物摂取を心がけましょう。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。