知らないと損する「もち麦」パワー! 1日50gで健やかに

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。第10回目は、もち麦のパワーについて掘り下げた内容です。美味しくて身体に良い、魅力たっぷりのもち麦をご紹介します。

2021年7月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

 5回前のこのコーナーに書いたコラム『データが証明した、もっとも健康維持に欠かせない食品とは?』

https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2543

で、世界的に注目されている全粒穀物の健康効果をお伝えし、精製しても全粒穀物の特徴を失わない穀物として大麦を挙げました。

 大麦は胚乳部(コメでは白米に当たる部分)を構成する細胞一つひとつの細胞壁が食物繊維でできているという特殊な構造を持つため、精製して削ってもほぼ食物繊維の含有率が変わらないのです。

 今回はそんな大麦の中でも人気の、もち性大麦(以下、もち麦)の魅力についてご紹介しましょう。

大麦離れが日本人の食物繊維摂取量激減を招いた?!

 私事で恐縮ですが、実は約10年ほど前から、もち麦の価値の訴求や利用促進に関わってきたので、この穀物が今やすっかり市民権を得たことを大変喜ばしく思っています。

 最初に大麦の価値に目が留まったのは2008年頃でした。

 下記の二つのグラフを見てください。

 まずは、最初の「日本人の食物繊維摂取量の推移」のグラフ。1955年から1966年にかけて一気に減っていること、その減少分はほとんど穀物由来の食物繊維であることがわかります。

 次にその下のグラフに目を移してください。

 食物繊維量が急減した時期に、大麦の摂取量が激減していることが見て取れます。1960年に1日70gあった食用大麦の摂取量が2010年代に入るころには、なんと1日1g以下にまでなっています。単純に結び付けてはいけませんが、大麦離れが急速に進んだ頃から食事が欧米化し、糖尿病や大腸がんといった食生活と関係の深い疾患が増えているのです。


 上のグラフはいずれも、「大麦ラボ」(http://mugi-lab.jp/からの引用。このサイトには大麦やその機能性成分である水溶性食物繊維 β-グルカンなどに関する最新の研究情報が掲載されているので、関心を持った方はぜひ覗いてみてください。

 つまり、日本人の食物繊維摂取量低下の一因に大麦離れがあったといえそうです。

 改めて『全粒穀物の回』のコラムに入れた穀物ごとの含有食物繊維量のグラフをご覧ください。

https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2543

 同じ100gでも炊飯前の白米に含まれる食物繊維が0.5gなのに対し、大麦(押麦)には12.2gと20倍以上の量が含まれるので、主食から大麦が姿を消すと、どれほどの減少をもたらすかは推して知るべしですね。

 実際、1960年ころまで、日本では普通に白米に大麦を混ぜた「麦ごはん」が食べられていましたが、この時期を境に白米ごはんと米国から輸入された小麦粉製のパンが主食になっていったのです。

 このような変化をもたらす大きなきっかけとなったのは、1954年に日米相互安全保障法、55年に余剰農産物協定が結ばれたこと。これ以降、日本は米以外の穀物を米国から購入する方向へと一気に舵を切り、それとともに主食では白米ごはんと輸入小麦製のパンが主役になり、大麦の生産も利用も廃れていきました。

 それだけではありません。

 大麦の食感も衰退の一因だったと考えられます。

 日本で白米に混ぜて食されてきたのは主に「うるち性の大麦」(以下うるち麦)でした。うるち麦は白米に比べ、炊飯直後で2倍ほどの硬さがあります。冷えるとさらに硬度を増し、ぼそぼそした食感になってしまうので、柔らかい白米ごはんに慣れた人々が離れていったのです。

もち麦で大麦食の復活なるか?

しかし、大麦について知れば知るほど、この穀物を“絶滅危惧種”にするのは惜しいという思いが強まりました。調べてみると、「もち麦」という種類があり、こちらのなかには炊飯後の柔らかさが白米と変わらず、もっちりした食感を持つものがあることを知りました。

 しかも、食物繊維量もうるち麦より多い。そして食べてみたら……もっちりしておいしい! これならいけるかもと、色めき立ちました。

 低空飛行が続く日本人の食物繊維摂取量を回復させるには、この「もち麦」の魅力を伝え、新たな「麦ごはん文化」を興すための努力が必要だ、と思ったのです。

 そして2010年あたりから、自分が以前編集長をしていた『日経ヘルス』(日経BP刊)をはじめとする日経新聞関連のメディアを中心に、継続的にもち麦の効能や利用法、最新情報などを記事にしていきました。

 もち麦の研究もどんどん進み始め、発信するに足る研究成果も増えていきました。

 その結果、今ではもち麦の主要な食物繊維であるβ-グルカンを機能性成分として、下記に挙げた機能性が日本人の試験で確認されています(1~3の機能は、機能性表示食品として販売中)。

 β-グルカンは、代表的な水溶性食物繊維ですが、水溶性食物繊維はその粘性で糖質の消化吸収をゆっくりにしたり、腸内にいる有用菌のエサになって整腸作用をはじめとする様々な効用をもたらします。

<日本人で確認されているもち麦(大麦)の機能性>

1.整腸作用

2.血清コレステロール正常化作用

3.食後血糖上昇抑制作用

4.セカンドミール効果による食後血糖上昇抑制作用 *注

5.満腹感の持続とエネルギー摂取量の抑制作用 6.長期摂取による内臓脂肪減少作用    

 *注 「セカンドミール効果」とは、前の食事でもち麦を食べた影響が次の食事にも出ること。次の食事ではもち麦を食べていなくても、血糖値が上がりににくくなる。これは、前の食事でとったもち麦の働きで、次の食事を食べるときに、腸から血糖値を調整するホルモン(GLP-1)が分泌されるため。

 上記のなかから、まだ機能性表示にはなっていませんが、日本人で実施された研究結果が世界的に注目された「内臓脂肪を減少させる」という研究をご紹介しましょう。

 腹部肥満の男女が1食にβ-グルカンを2.2g含むもち麦ごはんを食べる群(グラフの「キラリモチ群」)かβ-グルカンを含まない種類のもち麦ごはんを食べる群(グラフの「bgl群」)に分かれて12週間過ごしたら、キラリモチ群で有意に内臓脂肪が減ったのです。

 糖質を抜くのでなく、食物繊維が多い穀物に替えることで、太るどころか無駄な脂肪を減らすことが可能ということですね。


(出典:Nutrition. 2017 Oct;42:1-6.)

毎日どのくらい食べればいい? もち麦ブームのきっかけは?

 日本の機能性表示制度が始まる前から、米国やカナダ、EUなどでは、β-グルカンを一定量以上含んでいる大麦食品で「食後血糖値の上昇抑制」「血中コレステロール低下」「排便促進」といった健康強調表示が行えます。どの機能性もβ-グルカン量で1日3g以上の摂取が基準なので、炊飯前のもち麦で1日50g程度、うるち麦を押しつぶした押麦なら60g程度を食べれば摂取できます。

 大麦は炊いて水分を含むとほぼ倍の重量になるので、3割もち麦を混ぜたごはんを1日に2膳ほど食べる感じです。上の研究のように、もち麦の配合率を少し高めれば、内臓脂肪減少などの効果も期待できそうですね。

 ちなみに私は、カレーやハヤシライス、中華丼といったとろみがある具材をかけるときや、油を使って炒めるメニュー、例えば炒飯などにする場合は、100%もち麦にして食べます。もち麦はとろみや油と相性がいいので、白米を混ぜなくても、もっちり&パラパラでおいしいですよ。

 さて、こうした多様な機能性に対する認知の広がりと、「白米に混ぜて食べてもおいしい」という食感に対する評価が、次第にもち麦を人気者にしていきました。

 中でも、皆さんの目にとまるきっかけになったのは、コンビニの売れ筋商品・おにぎりへの採用です。

 最初に採用してくれたのは、ローソングループの中で、関東中心に出店され、健康意識の高い顧客を持つ「ナチュラルローソン」。2013年に約140店(当時)で売り出された「もち麦入りおにぎり」シリーズは、発売後2年の間に人気商品に育ちました。なかでも一番売れたのが『もち麦入りおにぎり 枝豆と塩昆布』。奇しくも、健康的な日本食を代表する食材との組み合わせになっていますね。

 こうした人気を受けて、2016年4月からは全国のローソンで売られるおにぎりに“出世”を遂げ、もち麦にはほかのコンビニチェーンやスーパーからも注目が集まることに。

 こうなってくると、テレビはじめ、様々なメディアも黙っていません。次々に番組や記事で取り上げられるようになり、いよいよもち麦は日本国民に知られるトレンド食材になっていったのです。

 最後に。

 人類が農耕を始めたとされる地、メソポタミアでは長い間、炭水化物の主役は大麦でした。大麦は農業の広がりとともに世界に広がった、人類と最も付き合いが長い穀物でもあるのです。

 こんな長年の友人を忘れつつあった私たちですが、もち麦によって、再び人類が歩んできた道に戻ることができたのかかもしれません。

 メソポタミアを出て、古代ギリシアや古代ローマでも食されるようになった大麦は、スープの具材にも用いられました。煮込んでも型崩れしないので、野菜や豆などと同格の食材として重宝されたのです。

 こんな古の知恵にも学び、もち麦ごはんとして炊飯して食べるだけでなく、スープやおかず用の食材としてもどんどん使ってみてはいかがでしょう。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。