中性脂肪やコレステロール値が気になる人が、知っておきたい食事のコツ

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。

7月のテーマは「中性脂肪とコレステロール」について。また、文末には「機能性を持つ食品との付き合い方について」のお話も。サプリメントなど機能性表示食品を摂られている方、これから摂ろうと思っている方など、ぜひ読んでいただきたい内容です。

2024年7月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

中性脂肪とコレステロール、その働きと脂質異常症の診断基準

健康診断結果でチェックできる数値の中で、血中の脂質状態を表すのが中性脂肪(トリグリセライド)値とコレステロール値ですね。

まず中性脂肪は、いわゆる脂肪そのもの。食事中の脂肪だけでなく、糖もとりすぎて処理しきれなくなると中性脂肪に変化します。血液中の中性脂肪値が150mg/dl以上(空腹時)になると高トリグリセライド血症とされます。空腹時以外(随時)の採血データで見る場合は175㎎/dl以上が基準です。

次にコレステロールは、肝臓で作られて細胞膜やホルモンなどの部品として使われる脂質。何回かこのコラムで取り上げているビタミンDも紫外線によってコレステロールから作られます。そしてコレステロールが体のすみずみまで血液で運ばれやすい形に変化したものがLDL(低比重リポタンパク質)コレステロール。余分なコレステロールは、HDL(高比重リポタンパク質)コレステロールという形になって肝臓に戻ります。
LDLコレステロールは体の機能維持に不可欠な脂質ですが、多すぎると血管にダメージを与えるので“悪玉”、HDLコレステロールはリスク抑制に働くので“善玉”と呼ばれるのは皆さんもよくご存じかと思います。
LDLコレステロール値が140mg/dl以上で高LDLコレステロール血症、HDLコレステロールが40mg/dl以下で低HDLコレステロール血症とされます。

これらの3種類の脂質の数値のどれかが正常値をはずれているときに脂質異常症と診断されることになります。
下記に、厚生労働省のe-ヘルスネットから、脂質異常症診断基準の表を転記しますので、さらに詳しく知りたい方はこちら(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html)でご確認ください。

(表.脂質異常症診断基準)

脂質異常症を放置すると血管がダメになる?!

では、なぜ脂質異常症が続くと危険なのでしょうか。
それは血管が硬くなり、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患につながる動脈硬化のリスクが高くなるから。

過剰な脂質を溜め込んで動脈硬化をはじめとする生活習慣病リスクを高める臓器には内臓脂肪もあります。内臓脂肪増による害を避けるために設けられたメタボリックシンドロームの基準に入っている脂質関連の指標は、下記の二つです。
「中性脂肪150mg/dL以上 または HDLコレステロール40mg/dL未満」
改めて、あれっと思われた方もいるのでは?
“HDLコレステロール値が低い”というのは入っているのに、どうして悪玉とされるLDLコレステロール値が入っていないのでしょうか?

それは、内臓脂肪量の多さと直接関係するのが、“中性脂肪値の高さとHDLコレステロール値の低さ”だから。そのため、中性脂肪値とHDLコレステロール値を異常値にしないためには、内臓脂肪がたまってぽっこりお腹が出る生活を避ける食生活が意味を持つわけです。

一方、高LDLコレステロール値が続くことは、それだけで動脈硬化リスクを高める危険因子。そもそも動脈硬化は、血管の壁に侵入したLDLコレステロールが酸化してたまっていくことが原因(プラークという)で、いわば動脈硬化の病巣の核のようなもの。だから、LDLコレステロール値はそれ単独で数値が高すぎないか注意する必要があるのです。

特に女性の方は、更年期に近づいたらLDLコレステロール値をこまめにチェックするよにしましょう。女性ホルモン(エストロゲン)にはLDLコレステロール量が多くなりすぎないよう調整する働きがありますが、エストロゲンの分泌量は更年期を境に激減するからです。そのため、40代にLDLコレステロール高値のピークを迎える男性とは異なり、女性は50代になって急上昇するケースが多いのです。
先ごろ問題になった「紅麹サプリ」も、更年期女性のユーザーが多かったようですが、その背景にこのような女性ならではの体の変化があったのではないでしょうか。

(データ:令和元年 国民健康・栄養調査)

また、脂質異常症のリスクは冠動脈疾患など動脈硬化に伴う病気だけではありません。

例えば、約1万4000人を20年間追跡したところ、中年期に中性脂肪値およびLDLコレステロール値が高かった人たちでは、認知機能の大幅な低下が見られたという報告があります(Alzheimer’s&Demensia誌で2017年9月12日に公開)。別の研究では、約1100人を19年間追いかけたら中年期にHDLコレステロール値が高かった人たちでは、低い人たちに比べて軽度認知障害(MCI)リスクが53%低下していたそうです(Translational Psychiatry誌電子版で2019年7月18日に公開)。

やはり、早い時期から中性脂肪値もコレステロール値も正常な状態の維持を心がけるに越したことはありません。循環器疾患のリスクを下げるだけでなく、脳を含めた全身の健康を守ることにつながります。

脂質異常症を改善するライフスタイルと食事

LDLコレステロールは、単独でも正常値を目指すべき指標ですので、ここでは「中性脂肪値、HDLコレステロール値対策」と「LDLコレステロール値対策」を分けて考えることにしましょう。

両者に共通する、(もしやっていたら)改善すべきライフスタイルは、
① 喫煙
② 過度の飲酒
③ 運動不足

です。
これは、脂質異常症対策を超えて、健康維持のための基本でもありますね。

1) 中性脂肪とHDLコレステロール

先にも記しましたが、中性脂肪値が高くHDL コレステロール値が低いというのは、内臓脂肪が多い肥満で表れてくる症状です。食生活面の対策もその防止とほぼ同じと考えていただいていいでしょう。
2024年3月のコラム『毎日の生活に取り入れやすい「太りにくい食事」のポイント』(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/21900)で挙げた三つ、①必要以上にカロリーをとらない、②砂糖や精製された炭水化物をとりすぎない、③速食いをしない・遅い時間に食べない、を心がけましょう。
②の精製炭水化物のとりすぎは中性脂肪値の上昇に直接影響を与えますので、ご注意を。

中性脂肪値を下げる食品成分としては、魚の中でも青魚に多いω3脂肪酸がよく知られています。EPA(エイコサペンタエン酸)は中性脂肪を分解する働きで、脂質異常症用の薬にもなっているほどですから、脂質改善作用は確かといえます。

<おすすめ食品・成分>

●65歳以上の人たちがイワシを毎週200g、1年間食べ続けたら、食べなかった群に比べて、有意に中性脂肪値が低下し、HDLコレステロール値も増加したという研究などもありますので、やはり青魚は意識してとりたいところです(Clinical Nutrition誌で2021年5月17日に公開)。

●最近、約1万5000人のデータ分析で、コーヒーを毎日飲むことが、中性脂肪値低下とHDLコレステロール値増に関連しているという研究も発表されました(European Journal of Nutrition誌電子版で2024年5月4日に公開)。

●タマネギ、アスパラガス、サニーレタスなどに多いケルセチン、イチゴやザクロに多いエラグ酸といったポリフェノール食物繊維類も中性脂肪値を下げる成分として機能性表示食品などに使用されています。ポリフェノールが多い野菜や果物、食物繊維が効率的にとれるもち麦などの穀物や豆類・イモ類なども積極的にとりましょう。

●HDLコレストロール値を上げることが確認されている食品成分はあまり多くありません。代表的なものとしては、トマトに多いリコピンカカオのポリフェノールなどがあります。

2) LDLコレステロール

コレステロールは7~8割が肝臓で作られるので、この合成促進と相関が認められている飽和脂肪酸の摂取量を減らし、ω3脂肪酸が多い魚やナッツ、ω9脂肪酸(主にオレイン酸)が多いオリーブオイルなど不飽和脂肪酸がとれる食品に置き換えることが推奨されます。
飽和脂肪酸を多く含むバターラード豚や牛などの脂身の多い部位ヤシ油やパーム油といった食用油のとりすぎに気をつけましょう。一方、食事由来のコレステロールについては、コレステロールをとれば、それに応じて血液中の総コレステロール濃度が上がることは確認されていますが、飽和脂肪酸ほど血中コレステロール値上昇への影響が強くないことから、どのくらい摂取量を控えるべきかについて議論が続いています。
まずは飽和脂肪酸の摂取量を控えめにすることを念頭に置きましょう。そして、コレステロールについてはイクラ、タラコなどの魚卵、鶏卵、ウニといったコレステロール含有量が多い食品のとりすぎに気をつけてみてはいかがでしょう。

次に、どんな食品を意識してとれば、LDLコレステロール値の低下に役立つのでしょうか。
日本動脈硬化学会がまとめた『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス』では、「魚類、大豆製品の摂取を増やすこと」、「野菜、果物、未精製穀物、海藻の摂取を増やすこと」が挙げられています。
実際、大豆の摂取、食事に占める植物性食品を増やすこと、腸内細菌がエサにできる発酵性食物繊維(未精製穀物や海藻に多い)などでLDLコレステロール値が低下するという研究報告があります。

<おすすめ食品・成分>

●46件のヒト介入試験を分析した研究で、大豆たんぱく質1日約25gを6週間とることによって総コレステロール値とLDLコレステロール値が減少することが確認されています(Journal of the American Heart Association誌で2019年6月27日に公開)。大豆たんぱく質25gをとるには、例えば、「納豆1パック(50g)+木綿豆腐1/2丁(約140g)+蒸し大豆小1皿(50g)」を食べる必要があります。
つまり、毎食なにかしら大豆メニューを入れる感じです。しかし現実的には、6週間で結果を出す必要はありませんので、毎日何かしら大豆加工食品を使ったメニューを食べるというくらいの意識でいいかと思います。身近にいろいろな種類の大豆加工食品があるのが日本の素晴らしいところ。大豆食を続けることが大切です。

●腸内細菌がエサにする食物繊維「発酵性食物繊維」の摂取量を増やすと、健康な人でも脂質異常症の人でもLDLコレステロールの値が下がるということが、77件のヒト介入試験の分析結果として報告されています(Nutrition Reviews誌で2021年12月24日に公開)。
発酵性食物繊維には、大麦やオートミールに含まれるβ-グルカンや昆布などの海藻類のアルギン酸、ゴボウやタマネギなどに多いイヌリンなどがあります。
1 日あたり 3 g 以上の β-グルカンを3週間以上摂取するとLDLコレステロールが大幅に減少することが確認されていますので(British Jounal of Nutrition誌で2020年5月7日に公開)、まずはもち麦を混ぜたごはんから始めてみてみてはいかがでしょう。
1日3gのβ-グルカンは、3割もち麦を混ぜたごはんを1日に2膳ほど食べればとることができます。

●間食用の食品としてはクルミがおすすめです。約700人の高齢者が参加した試験で、1日片手の平に乗るくらいの量のクルミ(30~60g)を食べ続けた人たちでは2年後にLDLコレステロール値が有意に低下していました(Circulation誌で2021年8月30日に公開)。
小腹がすいたときなどに、他のお菓子の代わりにクルミをつまむというのがよさそうです。
クルミは、「1日約30gの摂取でLDLコレステロール値を下げる」という機能性表示食品にもなっています。クルミの機能成分はω3脂肪酸の一つα-リノレン酸ですが、これを含む食用油がエゴマ油とアマニ油。どちらも、小さじ1杯(5g)ほどの摂取量でLDLコレステロール値が低下すると記載された機能性表示商品があります。無理なくとれる量ですね。

●ほかにLDLコレステロール値を下げる機能性表示食品になっている食品成分には、トマトに多いリコピンやオリーブオイルやアーモンドなどのナッツ類、アボカドに多いオレイン酸などもあります。

ここまで読まれて、「中性脂肪・HDL対策とLDL対策で、重なる食品や成分が多いな」と感じたのでは?
よい働きをする成分は、協調し合ってトータルに私たちの健康を守ってくれます。この項に出てきた食品が食卓に乗る機会を増せば、脂質異常改善を超えた恩恵が得られるのではないでしょうか。

機能性を持つ食品との付き合い方について

最後にちょっと蛇足になりますが、「効果を期待して何らかの食品をとるときの姿勢」について考えてみましょう。

健康被害を受けた人が多数出て問題になった「紅麹サプリ」はモナコリンKという物質がLDLコレステロール値を下げる機能性成分でした。
被害を起こしたのは、この成分ではなく製造工程でできた別の物資である可能性が大きくなっていますが、このモナコリンKはロバスタチンというコレステロール値を下げる薬の成分と同じものだということも周知されるべきだろうと思います。
そのうえ、製品にこのモナコリンKという名称の記載はなく、ポリケチドという成分名になっていました。一般の消費者がポリケチドのほとんどがモナコリンKだということを探り出すのは少し努力が必要です。

モナコリンK以外にも、生鮮品を含めた食材から見つかった薬用成分を抽出し、純化した医薬品はたくさんあります。当然ですが、そうした食品を伝統的な方法やメニューで食べることは特に問題になりません。
しかし、機能性成分の濃度を高めたエキスについては、今回の紅麹サプリのように、その販売が事業者の判断・責任に委ねられる形になっていることもあります。

そんな状況の中で、私たちはどのようにサプリメントや食品に向き合ったらいいのでしょうか?

何らかの機能性をうたうサプリメントについては、どんな成分がどのくらい入っているのか、どんな研究が根拠になっているかといったことは、摂取を始める前に自分で調べることを習慣にすべきだと思います。そして、主要成分について納得する情報が得られなかったら摂取を控えるのも選択肢の一つです。製品に記載されている用量を超えてとらないことも大切。

一般の食品にも、大抵、食べすぎると毒性を持ち始める量があります。どんな食品でも度を超えて食べると私たちに害を及ぼす可能性があるのです。ですので、いかに健康にいい食品でも、“ばっかり食べ”は避けましょう。バランスよくいろいろな食品を食べることこそが、健康的な食生活の一丁目一番地です。
日本は陸の恵みから海の恵みまで、バラエティ豊かな食材がスーパーで手に入る非常に恵まれた国です。色とりどりの食材を選んで適量を食べる――これを心がけていれば、食事の偏りによって体調が悪くなるようなことはそうそう起こらないはず。
今回の脂質対策も、こうした食生活を意識することが個別対策以前の基本です。

改めてこの機会に、食との付き合い方について、家族で話す機会を設けてみませんか?

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。