毎日の生活に取り入れやすい「太りにくい食事」のポイント
日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。3月のテーマは「太りにくい食事」のポイントについて。毎日の食生活に気軽に取りいれやすいような内容になっています。
2024年3月
健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩
危険な肥満とは――ウエスト周囲径と内臓脂肪に注意
皆さんの中で、自分が太っていると思っている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか?
日本では、BMI(体格指数=体重[kg]/(身長[㎡])25以上が肥満とされますが、国民健康・栄養調査(令和元年)によれば、成人男性の肥満者は全体の33%、一番多くなるのが40~59歳で4割くらいが該当します。一方、女性は22.3%で、肥満比率が高まるのは60~69歳。3割弱くらいが肥満ゾーンに入ります(下グラフ)。
しかし、平成20年の同調査で、自分が「太っている」、もしくは「少し太っている」と思うかと聞いたところ、男性47.0%、女性では52.6%にも及んでいました。つまり、日本人は世界の中でも肥満率の低い国ですが、肥満意識は高い人たちが多いのです。
肥満者(BMI≧25 kg/m²)の割合(20 歳以上、性・年齢階級別)
では、本当にリスクが生じるBMIはどのくらいからなのでしょうか?
日本人の男性16万人を平均11年間、女性19万人を平均13年間追跡した大規模研究によれば、中高年の日本人で全死亡リスク(がん、心疾患、脳神経疾患などによる死亡リスク)が最も低くなるBMIは21~27で、有意にリスクがあるのは30以上だということがわかりました(Journal of Epidemiology誌、2011年21巻に掲載)。
一方、日本でも世界でもBMI以上に重要な危険指標という報告が多いのがお腹まわり(ウエスト)が大きいこと。同じ脂肪でも内臓脂肪がたまっている可能性があるからです。皮下脂肪に比べ、内臓脂肪が増えると炎症が起こりやすくなり、そこから生活習慣病リスクを高める物質が分泌されます。また、日本人は欧米人より内臓脂肪がたまりやすい体質であることもわかっています(Lancet誌2003年1月4日号に掲載)。主に男性に多いのですが、太るときにBMIは低めでもお腹からポッコリ出ていくタイプは要注意です。
「メタボリック・シンドローム」の診断基準にも、BMIではなくウエスト周囲径が用いられています。男性の場合85cm以上、女性の場合は90cm以上が対象になります。このくらいの数値だと内臓脂肪の断面積が100cm²以上ある可能性が高いという判断です。
男性の場合は、この数字を超えていて、さらにお腹が張っていてつまみにくいかどうかがもう一つのチェックポイント。内臓脂肪は体幹部(腸の周囲)で増えるので外からはつまみにくいことが多いのです。一方、女性の場合は、更年期以降かどうか。更年期以前には肥満しても比較的安全な皮下脂肪がたまる傾向がありますが、女性ホルモンのエストロゲンが激減する閉経期以降には内臓脂肪が増え始めます。
そして、ウエスト周囲径が基準をオーバーしているのに加えて、血圧・血糖・脂質のうち2つ以上が高値になると「メタボリック・シンドローム」と診断されるので、こうした症状を伴っていたらすぐに対策を開始しましょう(下表)。
メタボリックシンドロームの診断基準
食事では、「総カロリー」「精製炭水化物」「食べ方」に気を付けて
では、どんな食事をすると太りやすく、また逆にどこに気をつければ太りにくくなるのでしょうか。
これまでの研究を踏まえて考えると、私が皆さんに日々の生活で気にかけていただきたいと思うのは下記の3点です。いろいろな食事理論がありますが、同じものを食べ続ける“単品ダイエット”はもとより、“厳しい糖質制限”なども、病気治療目的で実施する場合を除いて、一般の方が無理をして続ける必要はないのでは。こうした食事法は、心身面に別の影響が出る場合もあるからです。
■1 必要以上にカロリーをとっていないかチェック。毎日の体重変化を記録するのも効果的
~脂肪のカロリーはたんぱく質・炭水化物の2倍以上~
私たちの体内のエネルギーバランスは、食事で体に入るカロリーの入と出のバランスでコントロールされていますので、自分の年齢や身体活動量を考えたときに、必要以上のカロリーをとっているかどうかはわかりやすい指標です。体内に吸収されたエネルギーが余剰の状態が続けば、それを溜め込む体脂肪が増えるのは当然の理。
自分に必要なエネルギー量がどのくらいかをチェックするには、日本医師会が作っている「1日に必要なカロリー」(https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html)というページが便利です。
それがわかったら、一度、自分がよく食べるメニューのカロリー量を調べて、おおよその総摂取量を把握してみるといいですね。スーパーやコンビニで売っている総菜やお弁当などに記載されているカロリー表記を見る習慣をつけると、だんだん感覚がつかめます。
「そんな面倒なことはできない」という人は、“夜寝る前”とか“朝起きたとき”とか測定時間を決めて、2週間~1か月ほど連続して体重の変化を記録してみてはいかがでしょう。重要なのは、体重が明らかに増えている日があったら、その前にどんな食事・行動をしたかを思い出して書き出し、原因となる食パターンを考えること。
これは「レコーディング・ダイエット」と呼ばれる方法で、効果が見込めることが研究でも確かめられています。
3大栄養素のカロリー量はご存じですね。炭水化物とたんぱく質は1g=4kcal、脂肪は1g=9㎏カロリーですので、脂肪摂取量が多ければ当然摂取カロリー量は増加します。
■2 砂糖や精製された炭水化物をとりすぎていないか
~できるだけ全粒もしくは精製度の低い穀物の摂取量を増やし、食物繊維が多い食品を意識してとる~
カロリーのとりすぎ以外に、世界の多くの研究が指摘する、肥満ならびに生活習慣病リスクを高める食事パターンが、(清涼飲料水を含めた)砂糖や精製された炭水化物(精製小麦粉、白米など)のとりすぎです。
こうした精製炭水化物は血糖値の急上昇を招きやすく、上がった血糖値を下げようとしてインスリンというホルモンがたくさん出て、血液中の糖や脂肪を脂肪細胞にためこんでしまうから。
数万人のデータを分析し、食事をして30分後の血糖値が高いことが肥満と関係していることを明らかにした報告(Clinical Chemistry誌2018年1月1日号に掲載)や、10万人以上の健康状態を追跡し、精製した穀物や甘い飲み物からの炭水化物の摂取量増加が、中年期を通じての体重増加の増加を招いていたという研究結果(BMJ誌2023年9月27日号に掲載)など、数多くのデータがあります。
でも、解決法は難しくありません。
- 玄米などの全粒穀物、全粒粉のパン、精製しても食物繊維が多いもち麦(大麦)などに置き換えたり、こうした穀物の割合を増やす
- 根菜などの野菜、納豆などの豆、海藻、キノコなど食物繊維量が多い食材を使ったおかずを白米ご飯や白いパンと一緒に食べる、もしくは先に口にする
といったことを心がけるだけでもリスクが減らせます。
①②で挙げた食品の共通点は食物繊維が多いこと。食物繊維には、一緒にとった食事の一部を付着させて便で排出すること、腸内細菌叢が働いて肥満しにくい腸内環境を作ることといった利点があります。
日本人対象も含む77件もの臨床試験(計4500人分以上のデータ)を分析した研究でも、腸内細菌のエサになる食物繊維の摂取量が増やすことで肥満リスクが下がることが確認されています(Nutrition Reviews誌2022年2月号掲載)。
■3 3つめは食べ方。「速食いをしていないか」&「太りやすいタイミングで食べていないか」
~特に夜遅い時間の食事に注意~
① できるだけ速食いをしない
人は食事を食べ始めると、それに脳の満腹中枢が反応し、徐々に満腹感が増していくようにできています。しかし、速食いをすると、満腹中枢が反応する前に食べ過ぎてしまう危険があります。
② 夜遅い時間の食事をできるだけ避ける
朝と夜、同じカロリーの食事をしても、朝は食事を食べた後に体内で作りだされるエネルギー(食事誘発性熱産生)量が多く、血糖コントロールも良好な一方、夜は消費エネルギーも減り、脂肪蓄積が進みやすいといういくつものデータがあります。
つまり、「お腹いっぱい食べたければ朝食にする」、「夕食は早めに食べて量を抑えめにする」という生活パターンが実現できれば、それだけでも太りにくくなる可能性が大。
実際、日本人約6万人を対象にした研究では、「ゆっくり食べて、寝る前2時間以内に食事をしない」ことで肥満が抑制されるという結果が出ています。この逆の食べ方をすること、さらに夕食後に間食をとり、朝食を抜くことは確実に肥満にリスクを高めていました(BMJ Open誌2018年2月12日号に掲載)。
食べても体重が増えにくい食品はある?
以上の3点に気を付けて、あとは食事でとった3大栄養素をしっかりエネルギーにできるよう、ビタミンB群やマグネシウムをはじめとした代謝に関わる微量栄養素の不足に気を付けましょう。これもそんなに難しいことではありません。なるべくバラエティに富んだ食品を使った食事を心がければいいのです。赤緑黄紫黒など色とりどりの旬の食材を選ぶようにするのがわかりやすいですね。
単品ダイエットはお薦めしないと記しましたが、それを常食している人は太りにくいという傾向が出ている食品もあります。
例えば、米国で行われた3つの大規模調査計約12万人分のデータ分析では、ヨーグルト、フルーツ、ナッツ、全粒粉(を使った食品)、野菜の摂取量が多い人たちでは、4年間で体重が減少していました(New England Journal of Medicine誌2011年6月1日号に掲載、下グラフ)。肥満大国で行われた調査なので、説得力がありますね。
食事内容別の体重変化状況
(米国の3つの追跡調査の分析)
米国で行われた「女性看護師健康調査」(NHS)、「女性看護師健康調査Ⅱ」(NHSⅡ)、「男性医療従事者調査」(HPFS)の対象となった、女性9万8320人、男性2万2557人を4年間追跡したところ、ヨーグルトやフルーツ、ナッツを食べている人では体重が減少していた。
特に上位の3食品、ヨーグルト、フルーツ、ナッツはいずれも間食に適した食品です。こうした食品を間食に取り入れていくことで、1日を通して肥満しにくい食事が組み立てられそうですね。
もちろん、これらも食べすぎは禁物。間食として食べるときは1回あたり200kacl以内を目安にしましょう。
最後に、適度な運動とストレスをためすぎないこと、そして、きちんとした睡眠が実行できればほぼ満点。
そうはいっても、忙しい毎日の中で、どれも実行するのは難しい。これを書いている私もできないことのほうが圧倒的に多いです。でも、できることからやってみればいい。そんななかから、1つでも2つでも無理なく続けられる生活習慣が得られたらしめたもの。
肥満対策は、肩の力を抜いてやりましょう。最初に記したように、そもそも、日本は肥満度の低い国でもあるので。
西沢邦浩
日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。
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