高血圧が気になる人もそうでない人も減塩で健康に!

2024年6月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。6月のテーマは「減塩で健康に」をテーマに、塩分のとりすぎが身体へどのように影響するか、また塩分過多にならないための予防についてお伝えしています。

高血圧は心血管にダメージを与えるサイレント・キラー

継続的に治療を受けている患者数だけで約1000万人に及ぶのが高血圧です。

2019年版の国民健康・栄養調査によると、収縮期(最高)血圧が 140mmHg 以上の人は、20歳以上の成人男性 の29.9%、女性の 24.9%もいるので、3人に1人弱が高血圧ということになります。

自覚症状がないため放置しがちですが、高血圧は高血糖や脂質異常症以上に心血管にダメージを与える疾患。高血圧は重要度でⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3段階に分類されていますが、2段階目のⅡ度でも危険ゾーンです。

NIPPON DATA80という、日本人男女計約9600人を14年間追跡した研究で、Ⅱ度(収縮期血圧160~179mmHgか 拡張期血圧100~109㎎)の人でも、正常血圧(収縮期血圧120 mmHg未満、拡張期血圧80 mmHg未満)の人に比べて、心血管疾患による死亡リスクが男性で6.67倍、女性で2.17倍にもなることがわかっているのです(Journal of Human Hypertension誌2003年17巻に掲載)。

なお、ここまでの血圧の数字は、診察室で測定した血圧がベースになっています。白衣高血圧と言って、診察室で測ると通常より高めに出る傾向があるため、家庭で測る場合は低めの基準が用いられるのでご注意を(下記表参照)。

高血圧は肥満、飲酒、ストレス、運動不足、遺伝的体質などが組み合わさって起こるとされますが、日々の食生活で気を付けたいのが肥満と食塩(塩分)のとりすぎです。

肥満の考え方と対策は3月の本コラム(「毎日の生活に取り入れやすい『太りにくい食事』のポイント)をご覧ください。(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/21900)。 

食塩については過剰摂取が血圧を高めるというデータが世界中に山ほどある一方、日本人の中には食塩の影響があまり血圧に表れないタイプの人もいます。ではそういう人は減塩しなくてもいいかというとそれは大間違い。

なぜなら、血圧以外にも食塩のとりすぎが及ぼす害は多岐にわたるからです。

世界195カ国30年間分の国民健康・栄養調査データから健康寿命を縮める食事因子を分析した研究では、2番目に影響が大きい因子が「食塩のとりすぎ」でした。しかも、日本においては「食塩のとりすぎ」は健康寿命短縮だけでなく死亡でも1番のリスク因子だったのです(Lancet誌で2019年5月11日に公開)。私たちにとって、食塩の過剰摂取がいかに怖いかを象徴するデータですね。

だれもが減塩を心がけるべき理由

では、食塩のとりすぎがどのようなリスクを高める可能性があるかをいくつか挙げてみましょう。どれも健康寿命に関わるリスクだということがおわかりになると思います。

【1】心血管疾患

米国の約1万人対象の調査では、尿から排泄されるナトリウム量が増加するほど心血管疾患発症リスクが上昇していました。排泄量で4群に分けて見ると、最も排泄量の多い群は最も少ない群の1.6倍の発症リスクでした(New England Journal of Medicine誌で2021年11月13日に公開)。

先に挙げた日本人を対象にしたNIPPON DATA80のデータ分析でも、野菜、果物、魚の摂取量が少なく食塩摂取量が最も多い群の心血管疾患による死亡リスクは、少ない群の2.87倍と報告されています(Hypertension Research誌で2019年11月21日に公開)。

つまり、食塩のとりすぎは高血圧とは独立して、心血管疾患のリスクになっている可能性が高いのです。

【2】腎臓病

1万2000人以上の日本人を約5年間追跡したところ、食塩摂取量が多い群(1日平均11.5g/日)は最も低い群(平均6.2g/日)より腎臓障害発症リスクが29%高いという結果に。1日1g食塩摂取量が増加するごとに、腎臓障害が起きるリスクが約 4.5% 増加することになるそうです(Kidney and Blood Pressure Research誌で2018年8月3日に公開)。

【3】2型糖尿病

12年間にわたり英国人40万人以上を追跡した研究では、塩を「まったく」か「めったに」使用しない群たちと比べて、「時々加える」群では11%、「だいたいいつも加える」群では18%、「いつも加える」群では28%、2型糖尿病になるリスクが高くなっていました。

この背景には、塩味の濃い食事を好む人は肥満傾向があり、また炎症の指標(CRPなど)が高いことなども影響しているようです(Mayo Clinic Proceedings誌で2023年10月11日に公開)。

【4】老化の進行が早まる

血清ナトリウム値が「正常範囲の上の方」にある人でも、普通値の人に比べて、生物学的な老化が進行していて慢性疾患を発症しやすいとする研究結果が発表されました。血清ナトリウムの正常値は135~146mmol/Lですが、142mmol/L以上の人で老化度合いが10~15%上昇し、慢性疾患の発症率は64%も高くなっていたのです。25年間にわたって1万5000人以上の人たちから収集した健康データを分析したもの(eBioMedicine誌で2023年2023年1月2日公開)。

食塩のとりすぎは老化を促進するということです。

ほかにも過剰な食塩摂取が免疫力を低下させるといった研究や、認知症リスクを高めるといった報告もあります。

食塩摂取量はできるだけ減らすに越したことはありませんね。

では、どこまで、またどうやって減らせばいいのでしょうか。

出汁、酸味、香辛料、ハーブなどを使って調味料由来の食塩を減らす

世界保健機関(WHO)は、成人の減塩目標を1日5g未満としています。

日本では、日本高血圧学会が、高血圧の予防および、循環器病や腎不全の予防のために1日6g未満の摂取量にすることを推奨。

日本人の食事摂取基準(2020年版)の目標量は、成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満になっています。

現実に私たち日本人はどのくらいの量の食塩をとっているのでしょうか。

下記は、国民健康・栄養調査(2019年版)の数字。1日平均8.3~11.5gくらいの量をとっていることがわかります(厚生労働省「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」より)。

健康維持のためには1日5~6gを目指したいところですが、まずは食事摂取基準の数値まで減塩しましょう。

それでは、無理なくできそうな減塩方法について一緒に考えていきましょう。

現代日本人の主な食塩源は何か。昔のように漬物や魚介の塩蔵品からの食塩摂取は減り、一番大きいのは調味料です。

2007~2019年の国民健康・栄養調査を分析した研究によると、私たちは台所塩/食卓塩、醤油、味噌、ソース、 出汁(スープストック)などの調味料から7割をとっているとのこと(British Journal of Nutrition誌で2022年5月4日に公開)。

だとすると、レストランなどでの外食はコントロールが難しいため、■1「食塩使用量の多い市販の加工食品に注意する」、自分で作る場合には、■2「食塩を多く含む調味料の使用量を減らす」、■3「食塩量の少ない調味料の利用機会を増やす」といったあたりが現実的です。

それぞれについて見ていきましょう。

■1 食塩使用料の多い市販の加工食品に注意する

便利な市販の加工食品を利用する機会は多いと思いますので、こちらは購入の際にパッケージに記載されている「栄養成分表示」の“食塩相当量”欄を必ずチェック。「100g当たり」「1袋当たり」「1包装当たり」などと表示されているので、1食当たりだと何gとることになるかを考えるようにしましょう。

一つ気を付けていただきたいのが、食塩量とナトリウム量の関係。ほとんどのパッケージは食塩相当量で表示されていますが、ナトリウム量となっている場合は「ナトリウム(g)×2.5=食塩(g)」で計算してください。10gの食塩には約4gのナトリウムが含まれています。

あとは、よく耳にする注意かと思いますが、添付のスープは少しずつ入れて美味しく食べられそうな量で止めることや、カップ麺などの汁をなるべく残すこと。

私は、即席麺や納豆などに付いている小袋のスープ/ソースは、3分の1~2分の1くらいの量を使うに留めます。でも十分おいしく食べられます。

■2 食塩を多く含む調味料の使用量を減らす

これを助けてくれるのが、和食のかなめ=出汁。うま味成分の利用です。カツオ、昆布といった出汁食材が活躍してくれます。

いい例があります。それは、沖縄県のケース。沖縄県はカツオ節の消費量が断トツの日本一ですが、1985年頃までは昆布の消費量も日本一でした。出汁をしっかりとって料理をする文化が根付いていたのですね。沖縄そばを食べたことがある方はカツオ出汁がよく利いていることを思い出されたかも。こうした出汁文化がベースにあるため、沖縄県はつい最近まで、食塩摂取量がずっと全国で一番少なかったのです。

うま味の濃度を上げると、塩分濃度を半分にしてもおいしさのレベルは変わらないという日本の実験がありますが、米国の国民健康・栄養調査を分析した研究でも、うま味成分を使うと7.31〜13.53%食塩摂取量を減らすことができるという結果が出ています(Public Health Nutrition誌で2022年12月1日に公開)。出汁のうまみの利用は、自分で調理をするときの減塩の基本です。

ただし、市販の出汁にはかなり食塩が入っているものもあるので、成分表示を確認してお使いください。

また、酢、レモン汁といった「酸味」、カレー粉、コショウ、ショウガ、山椒、ネギ、シソ、ニンニク、パクチーなどの「香辛料/ハーブ」、ゴマ油、ラー油といった「油」も減塩に役立ってくれます。

例えば、私は餃子を食べるときには、もっぱら酢にコショウを入れたタレを使いますが、食塩ゼロのタレのおかげで、餃子自体の味わいがしっかり楽しめます。

牛乳やヨーグルトも煮込み料理などに使うとコクとうまみが増します。これは「乳和食」という名称で、乳業メーカーが利用法を発信していますのでチェックしてみてはいかがでしょう。

■3 食塩量の少ない調味料の利用機会を増やす 

そのまま使える調味料の中では、マヨネーズとケチャップ、デミグラスソースが食塩量の少ない代表選手と言えるかもしれません。

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版では、「マヨネーズ」の100g当たり食塩相当量が全卵型で1.9g、卵黄型で2.0g、「ケチャップ」は3.1g、「デミグラスソース」は1.3gとなっています。

メーカーや商品によって差があるので、購入する際に、栄養成分表の食塩相当量を必ず見てください。

食塩は、親指、人差し指、中指の3本でつまんだときの量がおよそ1g。感覚をつかんで、使い過ぎに気を付けましょう。

1カ月も続ければ、減塩メニューのほうが素材の持ち味が楽しめて美味しい!ということになること必至です。私は遺伝的に腎臓の数値があまりよくないので、ここ数年なるべく無駄な食塩をとらないようにしてきましたが、昔は何とも思わなかった外食メニューが塩辛くて困ることがとても多くなりました。

そして、季節季節の味覚が口の中で華やかに開いていくのを感じる機会が増えました。

冷蔵設備などの保管技術がなかった時代、塩蔵は足が速い生鮮食品を保存し、安全に食べるために欠かせない知恵でした。しかし、もうそれに頼る必要がない時代になって久しいのです。

食塩を控えめにして食材本来の滋味を楽しむことが、健康維持にもつながるのですから、なんと贅沢なことでしょう。

是非とも、豊かな減塩生活を満喫しようではありませんか。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。