目鼻むずむず、まだまだコロナも心配な春の腸活

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは「春の腸活」。花粉症や季節の変わり目の体調不良が気になる3月は、腸活を意識して過ごしてみてはいかがでしょうか。

2023年3月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

花粉症が増えた背景に、清潔すぎる環境が?!

先日あるすし屋に立ち寄ったら「春告魚の刺身・握り」という短冊が目に飛び込んできました。

よほど新鮮でないといけないので江戸のすし屋では出てくることが少ない、生ニシンでした。

その舌の上で溶けていく身から、春の兆しがうまみとともに口中に広がりました。

春とはなんて素敵な季節なんでしょうか。

しかし! 春はあのスギ花粉が飛散する季節でもあります。今年は過去10年で最多の飛散量とか。

せっかく新型コロナ対策としてのマスク利用が緩和されつつあるすがすがしい春なのに……と、憂鬱になっている方も多いかもしれません。

日本耳鼻咽喉科学会が2019年に実施した全国調査では、アレルギー性鼻炎の有病率は49.2%だったそう。ほぼ2人に1人です。中でも、スギ花粉症が増えていて38.8%に達していました。

花粉症は、まだまだ感染リスクも高い新型コロナの症状と区別がつきにくいところも厄介。

こんなに花粉症が増えた原因については、「衛生仮説」という考え方があります。

現代は、菌が少ない清潔な環境が広がりすぎて、免疫が発達していく幼少時に多様な細菌・ウイルスに触れる機会が少なくなりました。そのため腸内細菌叢の多様性が減り、また免疫が異物の危険性を判断するための経験値も低くなってしまっているという考え方です。

確かに、昭和生まれの私が小さいころは、地べたに落とした飴も3秒以内に拾えば大丈夫という「3秒ルール」なんていう謎のルールがあったり(後にそれを否定する研究論文も出ています 笑)、青洟(あおばな)をたらしたまま、泥まみれになって日が暮れるまで遊び、家に帰るまで手も洗わないでおやつも食べる、なんていうのが普通でした。

このコラムの第1回「免疫を高める発酵食の力」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2448)で触れたように、腸には重要な免疫器官(パイエル板)があります。その上皮にある細胞(M細胞)がウイルスや細菌といった異物を取り込み、なかにいる免疫細胞たちがこれらの危険性を判断して、攻撃する物質を作る力を学習していきます。この“免疫学校”で教育を受けた免疫細胞が全身をまわり、鼻や喉の粘膜の守りにも就くのです。

現代清潔社会では、こうした免疫細胞の学習の質量が低下してしまい、本来無害であるはずの花粉という異物(アレルゲン)に対してまで過剰な免疫反応を起こしてしまっているのではないか―というわけです。

でも一方で、原生林がどんどん切り拓かれ、森の奥深くに潜んでいた未知のウイルスがヒトの生活圏に入り込んできたり、新型コロナのような思わぬ感染症が出現してきたりすることもありますから、衛生的な環境も重要です。

だとすれば、現代に生きる私たちには、腸まで届いて免疫系に適切な刺激を与えることができる食品を知り、それを食べることで免疫を育て、バランスのいい状態にするという戦略が必要になってきます。

アレルギーの予防や緩和に役立つ3種類の食品―発酵食品、食物繊維、ω3オイル

では、どんな食品をとると、春に気になる免疫の不安、花粉のような異物に過剰反応して起こるアレルギー性の炎症が落ち着く可能性があるのしょうか?

そうした役割を期待できる代表的な食品が発酵食品とこれらに含まれる乳酸菌などの有用菌類、腸内に棲む常在菌のエサになって免疫に働きかける食物繊維を多く含む食品類などです。

まずは発酵食品

「発酵食品の摂取は、農業の生い立ちと軌を一にして人類が続けてきたライフスタイルで、アレルギーや喘息のリスク低減と一貫して関連している」という提言がISAPPという国際的な発酵食品研究者の団体から出されています(Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology誌の2021年1月4日号に掲載)。

また、多くの発酵食品とアレルギーに関する研究を分析したレポートは、アレルギーを引き起こすTh2という免疫細胞をおとなしくさせるなどの働きが確認されている発酵食品として、「ヨーグルトなどの発酵乳製品」「納豆、味噌などの大豆発酵食品」「キムチ」などを挙げています

(Nutrients誌の2022年4月号に掲載)。

10週間、ヨーグルト、ケフィア、カッテージチーズ、キムチなどいろいろな発酵食品を食べて腸内環境の変化を調べた試験では、発酵食品を多く食べるほど腸内細菌叢の多様性が増し、炎症を起こす物質が減ることを確認(Cell誌の2021年8月5日号に掲載)。

一般的に、多様な発酵食品をとることが免疫力の育成と維持に役立つといえそうですが、下記のように、ヒト試験の結果をもとに、アレルゲンに関連する「目と鼻の不快感を軽減する」という機能性表示を受理されている菌類もあります。

 ●L-92乳酸菌(アサヒ飲料)

 ●乳酸菌ヘルベ(雪印メグミルク)

 ●乳酸菌LP0132(ヤクルト本社)

 ●植物性乳酸菌K-2(亀田製菓)

 ●ビフィズス菌BB536(森永乳業など)

 ●酢酸菌GK-1(キユーピーなど)

これらが入ったヨーグルトなどの食品をとってみるのも手軽な方法でしょう。

腸内細菌がエサにして、短鎖脂肪酸といった免疫バランスを整える物質を作り出す食物繊維の摂取も重要です。

例えば韓国の国民健康・栄養調査のデータを分析した研究では、食物繊維の摂取量が増えるほど、アレルギー性鼻炎の有病率が下がる傾向がありました。特に男性でその相関が強かったとのこと(International Journal of Environmental Research and Public Health誌の2021年3月号に掲載)。

日本では、醤油の発酵過程でできる多糖類という食物繊維の一種が、「目と鼻の不快感を軽減する」という機能性表示を受理されています(下記)。

●醤油由来大豆発酵多糖類(大豆水溶性食物繊維として)(ヒガシマル醤油)

食物繊維が多い野菜、豆、海藻、雑穀などを意識してとりましょう。

さらに、腸にいる細菌がエサにしてアレルギーを抑える物質を作る、食物繊維以外の食品もわかってきました。

特に注目なのは、健康志向のドレッシングなどに使われているエゴマ油とアマニ油。これらの油にたっぷり含まれる、DHA・EPAと同じω3脂肪酸のα-リノレン酸がその機能性成分す。

国立の研究機関、医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル連携研究センターの國澤純センター長らが、α-リノレン酸をとると、

腸でαKeto Aという抗炎症物質が作られることを発見しました(Mucosal Immunolology誌電子版の2022年1月10日付)。この物質はマクロファージという、花粉に対する過剰反応の起点になる免疫細胞を落ち着かせる働きを持ちます。

「αKetoAはα-リノレン酸からある種の乳酸菌が作り出しますが、納豆菌は食物アレルギーを抑制する別の物質を作ります」(國澤センター長。

腸にいる細菌に期待するだけでなく、発酵食品と一緒にエゴマ油やアマニ油をとるのもよさそうですね。

たとえば、ヨーグルトとこうしたω3オイルを混ぜたドレッシングを作ってサラダにかけたり、納豆にタレと一緒にω3オイルをかける、といった食べ方はすぐに試せそうです。

さらに、國澤センター長は、α-リノレン酸をとっておくと、鼻炎の状態になったときに鼻の中で好酸球という免疫細胞が15-HEPEという物質を作り、症状抑制に働くことも解明しています(Nutrients誌の2019年11月22日号に掲載)。

なんとも頼もしい! この春はω3オイルを食卓に。

なお、ここに挙げた以外にも、お茶や柑橘の皮・すじに多い成分などを機能性成分とし、「目と鼻の不快感を緩和」するという表示をしている食品もあります。

興味のある方は、「機能性表示食品ナビ」というサイトの「目や鼻の不快感を緩和する成分」というページで詳しく調べられますのでアクセスしてみてください(https://db.plusaid.jp/navi/%E7%9B%AE%E3%82%84%E9%BC%BB%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%BF%AB%E6%84%9F%E3%82%92%E7%B7%A9%E5%92%8C

最後に一言。

このような食品類を積極的に日々の生活にとり入れていけば、花粉症の悩みが軽減される可能性はありますが、食品ですから、今出ている症状の抑制といった即効性に期待をかけるのはあまり適切ではありません。

もうかなり症状が出ているという方は、まず炎症が今以上に悪化しないよう、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬などで沈静化させることを最優先してくださいね。

野に出でて写生する春となりにけり   正岡子規

どうか、皆様にぽかぽかと爽やかな春が訪れますように。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。