体にも心にも優しい、小豆(あずき)とそのあんは祖先からの贈り物
『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは古くから日本人が親しんできた「小豆」。近年改めてその健康効果が注目されています。
2022年12月
健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩
赤飯、しるこ、ぜんざい、おはぎ、桜餅、柏餅・・・・・。お正月や祝いの席、各種行事に欠かせない小豆は、和菓子の主役の一人ですが、世界の中でも特に日本で愛されている豆です。
なぜ私たちはこれほど小豆を愛しているのでしょうか。
小豆はアジア熱帯地域の原産で、弥生時代には日本に入ってきていたとされています。既に奈良・平安の宮中では、正月明けに小豆粥が食されていたという記録も。
祝いの席に欠かせないのは、小豆の赤い色が「陽」とされ、陰を封じて邪を払う力があると考えられているから。また、生命力を高め、無病息災を願うために用いられる豆でもあります。
赤は遣隋使小野妹子が煬帝に渡した国書に記されたという「日出づる処」日本の象徴、鳥居も朱で塗られています。子供を守るお地蔵さんのよだれ掛けも、還暦の祝いの衣類も赤。日本人は、よほど赤という色に思い入れがあるようですね。
さらに、小豆は楕円形に近い玉ですが、玉とは魂のたま。「魂が最も優れた形態をとって表れたものが玉だ」と、民俗学者折口信夫は書いています。
こうした背景から、魂を表す神聖な形を持ち、邪を払い、日本国の象徴でもある太陽の赤色をまとった小豆は、私たち日本人にとって他に代えがたい大切な豆という位置付けを得ていったのではないでしょうか。
食物繊維、ポリフェノールが発揮する小豆パワー
さて、このところ、人気の健康キーワードNo.1は腸活という状態が続いています。各種の健康意識調査で、日本人が健康にいいと思う食品の1位、2位を「ヨーグルト」と「納豆」が占めることにも表れています。
乳酸菌、納豆菌などの菌類もさることながら、腸活に欠かせないのが腸内常在菌のエサになるなどして腸機能を整える食物繊維。この点で、食物繊維が多い小豆は注目に値する豆です。
ゆでた小豆に含まれる食物繊維量は100gあたり8.7g。6.2gが不溶性食物繊維で残りの2.5gが腸内細菌のエサになる水溶性食物繊維ですが、不溶性食物繊維には1.1gの難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)が含まれます。実はこれも、腸の奥まで届いて、ビフィズス菌などの有用菌を増やす働きを持っています。合計で、腸内細菌のエサになる食物繊維(発酵性食物繊維)が3.6gも入っているのです。炊いた大麦100gに含まれる発酵性食物繊維は2.1gですから、小豆がどれだけ腸活向きのスーパー食材かがわかります(以上、2020年版日本食品標準成分表より。食物繊維はAOAC法という測定法で分析)。
そのうえ、小豆のでんぷんを包み込む細胞膜が食物繊維でできていますので、でんぷん自体も消化吸収されにくい状態にあると言えます。つまり、糖尿病や老化促進、肥満のリスクになる血糖値の急上昇を招きにくい豆だということです。
いくつか関連する研究をご紹介しましょう。
●白米ご飯を食べたときの血糖値上昇度合を示す指標(略称GI、グライセミック・インデックス)は83だったが、40分煮た小豆を食べた後のGIはたった21、70分煮た後でも29までしか上がらなかった。これは、同時に比較した精製されていない黒米やキビといった全粒穀物以上に低い数字だった(Nutrients誌の 2019年3月号に掲載)。
そのため、研究チームは小豆の摂取が糖尿病や心血管疾患のリスク低下にもつながるのではないかとしています。
血糖値上昇抑制作用には、食物繊維だけでない仕組みも働いているようです。
●小豆のたんぱく質には、α-グルコシダーゼという炭水化物を分解して吸収しやすくする酵素を阻害する働きがあることを確認。それを踏まえ、4週間、2型糖尿病の患者が、煮た小豆の加工品を食べ続けたところ、血糖コントロールがよくなり、炎症指標が低下した(Therapeutics and Clinical Risk Management誌の2018年5月号に掲載)。
こうした研究から、白米に小豆を入れて「小豆ご飯」にすれば血糖値の上昇抑制に働き、また小豆と砂糖で作る「あん」も、同量の砂糖をとるときより、血糖値は上がりにくいと考えられます。
もち米に小豆を加えた赤飯だけでなく、普通の白米に混ぜて日常的に食べるのもおすすめです。
さらに、小豆にはプロアントシアニジン、カテキン、サポニンといったポリフェノールが含まれ、体のさびつきを抑える力=抗酸化力が高いことがわかっています。
小豆は主要な豆や多くの野菜と比べても高いレベルの抗酸化力を持ちますが、その源であるポリフェノールは脂質の健康を保つために働いてくれるとする研究報告もあります。
●小豆のポリフェノールが、善玉コレステロール(HDL-コレステロール)値を高め、健康な脂質状態の維持に貢献する(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌の 2019年5月号に掲載)
男性は中年期に入り始めたら、女性も更年期が近づく頃から、血糖値にもコレステロール値にも気を付ける必要があります。
主食に混ぜたり、カロリーが低めの和菓子として楽しめる小豆は、そのまろやかな味だけでなく、健康面においても私たちに優しい素材といえそうです。
ちなみに、小豆の煮汁には水溶性ビタミンやミネラル、そしてこうしたポリフェノールが流れ出ています。そもそも、小豆を炒ってから熱湯で煮出した「小豆茶」も広く親しまれているお茶ですので、是非、煮汁もご飯を炊くときなどにご利用ください。
あんが心に染みるわけは
こしあん、粒あん、小倉あん・・・・。消費されている小豆の約7割はこうした「あん(あんこ)」に使われるそうです。日本の歴史にあんが登場するのは14世紀。その後、あん入りの饅頭が足利尊氏から後村上天皇に献上されたり、長篠の戦で家康に差し入れられたり、もなかが登場したりと、どんどん存在感を増して現在に至ります。
皆さんは、関東圏主体に約140店舗ほど展開する「ナチュラルローソン」という、健康・美容に配慮した商品を多く扱うお店をご存じですか? もち麦おにぎりやグリーンスムージーは、ここがブームの発信源になりました
健康志向が強い30~40代の女性ユーザーが多いこのチェーンで、最も売れているパンは『あんこギッフェリ』(https://natural.lawson.co.jp/recommend/commodity/detail/1446002_4527.html)だそうです。つまり、あんこが詰まったクロワッサン。特に健康志向が強いパンというわけでもなさそうですが、どうしてこれほどヘルシー指向の女性たちに支持されるのでしょうか。
私は、香りのいいパン生地をかじった後に中から出てくる控えめなあんの甘みと絶妙な食感が、心に効くからではないかと想像しています。
実際、小豆のあんは私たちの心に染みる“何か”を持っているような気がしてなりません。
皆さんは、樹木希林さんの最後の主演映画『あん』をご覧になりましたか?
悲しくも心に響き、また、あんが無性に食べたくなる映画でした。どら焼き用のおいしいあんを作る樹木さん演じる「徳江さん」は、小豆を煮込みながら豆たちに声をかけます。
「がんばれよー」。
そして、徳江さんが亡くなる前に、どら焼き屋の店主仙太郎(永瀬正敏さん)に残したメッセージの中にはこんな言葉がありました。
「(私は)小豆の声に耳をすましていました」
「この世にあるものはすべて、言葉を持っていると信じています」
2022年4月まで放映されたNHK朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。主人公(上白石萌音さん)の生家はおはぎを売る和菓子屋でした。物語は最後まで、主人公の父親が小豆を煮るときに口にした「あんこのおまじない」が大切な役割を持ち続けます。
「食べる人の幸せそうな顔を思い浮かべえ
おいしゅうなれ、おいしゅうなれ、おいしゅうなれ
その気持ちが小豆に乗り移る」(一部)
やはり、小豆のあんは、私たち日本人の魂に響く基質のようなものを持っているのではないでしょうか。
閑話休題。さて、つやがあっておいしいと思うあんに使われている成分を見ると、落花生オイル(ピーナッツオイル)が加えられていることがあります。オリーブオイルの健康成分として知られるω9脂肪酸のオレイン酸が多い油ですので、あん好きな方は、うまみとこくアップの調味料として試してみてはいかがでしょう。
2022年4月のコラム「食生活を変えるのはいつ? 今でしょ!(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/12669)」で、食事が死亡リスクに与える影響を追跡した世界中のデータを分析したところ、「なるべく若いうちから豆類を積極的に食べること」が最も平均余命(寿命)を伸ばす食事因子だという結果が出たということを記しました。
日本で圧倒的に多く食されている豆は大豆ですが、加えてもっと一般の食事メニューにも小豆を加えることを意識していけば、私たちはより健康的な人生が送れるかもしれません。
どうぞ、体にも心にも効く、私たちの先祖からの贈り物、小豆とねんごろに。
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