食生活を変えるのはいつ? 今でしょ! ~でも無理なく“ゆるチェンジ”から~

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは『食生活と長寿について』。重たくなりがちなテーマですが、無理なく楽しく食生活を見直すヒントをお伝えします。

2022年4月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

食生活を健康的なものにするに越したことはない、というのは多くの人が頭ではわかっていることかと思います。

でも、どこから変えればいいのか、変えることでそんなに大きなメリットが得られるのか。そもそも健康にいいといってもおいしくないものでは箸が進まない。やっぱり食べたいものを食べるのが幸せ。100歳を超える元気なご老人が、その秘訣を聞かれて「好き嫌いなく、なんでも食べていることじゃろうかね。ステーキは好物じゃよ。あっはっは」と答えていたし……。

といった言い訳が次々と頭に浮かび、なかなか実行できないのが現実かも。

実は私こそ、その典型的な一人で、ここに書いたのは私の頭の中の独白みたいなもの。

うらやましいことに遺伝子的にタフな心身を持つ方がいます。かなりの高齢になっても脂がのった肉をおいしく食べられるというのは、実は消化器が老化していない何よりの証拠。一方、普通の人が年をとると脂肪を受け付けなくなるのは、脂肪分解酵素の分泌能が落ちていき、胃にもたれるため。消化器で老化が進行しているサインなのです。

そして、消化器が危険信号を送っていても、脂っぽいものをたくさん食べていたら、消化できなかった脂が腸で炎症が起こし体にダメージが広がります。

例外的な方もいますが、これまで世界中で行われてきた食事と健康に関する膨大な研究は、食生活が健康に与える影響がかなり大きいことを示しています。食事の影響によって、世界で1年間に約1100万人が死亡し、2億5500万人の健康寿命を縮めているというWHO(世界保健機関)の推計も。

では、どんな食事がよくて、どんな食事が健康リスクを高めるのか。

最近、死亡リスクを下げ寿命を伸ばすために“摂取量を増やすべき食品”と“減らすべき食品”は何かを、ビッグデータをもとに分析した研究が発表されました。

健康的な食事に変えるとどれだけ寿命(平均余命)が伸びる可能性があるのか、変える年齢によってどれだけ差が出るのか。そんな問いに答えてくれる研究結果を見ていきましょう。

健康的な食生活に変える年齢が若いほど寿命が伸びる

この研究は、2022年2月に「Plos Medicine」という学術誌に発表されたもの。

世界195ヵ国の疾病・傷害およびそのリスク要因をまとめた「世界の疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)2019年版」と、食事が死亡リスクに与える影響を追跡した多くの研究を合わせ、統合解析して評価しています。

結果を要約すると、下記のようになります。

砂糖入り飲料、精製穀物、赤身肉、加工肉などが多い“典型的な西洋食”から、豆類、全粒穀物、魚、果物、野菜が多い“健康的な食事”に変える年齢が早いほど平均余命(寿命)が伸びる

20歳で最適な食事に変更すれば、女性で10.7年、男性で13.0年寿命が延長する可能性がある。しかし、60歳で変更しても女性で8.0年、男性で8.8年寿命が延長

変えることによる寿命延長作用が長いのは?(かっこ内は、それぞれによる平均寿命延長年)

 1 位 豆類を増やす(女性:2.2年、男性:2.5年)

 2 位 全粉穀物を増やす(女性:2.0年、男性:2.3年)

 3 位 ナッツ類を増やす(女性:1.7年、男性:2.0年) 

 4 位 赤身肉を減らす(女性:1.6年、男性:1.9年)

 5 位 加工肉を減らす(女性:1.6年、男性:1.9年)

下の図は、それぞれの食品との健康的な付き合い方(最適な食事)別の寿命延長効果を示していますが、グラフが上の方にあるほど、また食生活に採用する時期が早いほど効果が大きいことがわかります。

健康的な食事の平均余命延長効果

それぞれの食品ごとに、最適な摂取量に変える時期によって平均余命がどれだけ長くなるかを表したグラフ。最も余命延長効果が大きい「豆類」の場合、最適摂取量は1日200g、全粒穀物は炊飯した状態で225gを最適量として計算している。摂取量を増やすべき食品に↑、減らして最適量に持っていく食品には↓、適量を維持する食品には→が付いている。
(出典:PLoS Med. 2022 Feb 8;19(2):e1003889.より改変)

大豆食が充実した日本では「豆を増やす」はナイスチョイス

全部を健康的な食生活に変えるのはハードルが高いので、まずどれか一つを変えるとすると、一番効果的とされている「豆類を増やすこと」を選ぶのはいいかもしれません。日本には、様々な食品形態を持つ豊かな大豆文化がありますので。

実際、日本人が食べる豆で圧倒的に多いのが大豆。1日一人当たり平均で20gほど食べています(乾燥重量、日本豆類協会)。水で戻した大豆で50g弱くらいですね。

大豆はカルシウム、カリウム、マグネシウムといった健康維持に欠かせないミネラル、葉酸はじめとするビタミンB群などを含み、抗酸化力が高く性ホルモンのバランスをとってくれるポリフェノール・大豆イソフラボンもとれます。“皮ごと大豆”は食物繊維が多い代表的な食材でもありますが、蒸し大豆にすれば食物繊維はもちろん、ほかの成分の損失も少ない状態で食せる。発酵した納豆だと、2021年3月のこの欄で書いたように、ビタミンK、スペルミジンという今注目の抗老化成分もたっぷりとることができます。

今回紹介した研究では、水で戻した豆(調理した豆)を1日200gとるのが最適値としていますので、大豆だけではちょっと苦しいかも。小豆やインゲン豆、エンドウ豆なども意識して食べたいですね。

2番目に寿命延長効果が高いのは「全粒穀物を増やすこと」。

昨年、対前年比の金額で最も売り上げを伸ばした食品が、オーツ麦を食べやすく加工した「オートミール」(インテージ調べ)。ここ5~10年で支持を高めてきたグラノーラ、大麦(もち麦)にオートミールが加わったことで、全粒タイプの穀物の選択肢が増えました。支持する人が増えた理由の一つには、おいしく食べられる方法の提案やメニューが充実してきたこともあるでしょう。

全粒穀物は、炊いた状態で225gが最適量とのことなので、普通のご飯茶碗で1.5杯分くらい。1食の主食を全粒穀物にできるかどうかにかかってきそうです。

実はベスト3に入っている項目で、最も簡単に実現できそうなのが「ナッツ類を増やす。最適量は1日25gとされているので、片手の平に軽く盛った程度。詳しくは前回の当欄、ナッツの回をご参考に。

ほかの項目を採用することも含め、無理をすることはありません。どれか変えられそうなところから始めましょう。

そして、研究の要約③にあるように、60歳から“最適な食生活”に変えても十分な寿命延長効果が得られます。そう、思い立ったが吉日。始めるのに遅いということはないのです。

若いのに老化スピードが速い人の特徴

ただし、やはりできれば若い方々には、早いうちから健康的な食習慣を取り入れることをお勧めしたい。なぜなら、生涯にわたって得られるものが大きいから。

新型コロナ感染症は高齢者や基礎疾患がある方々で重症化リスクが高くなりました。若さと健康を維持することが、感染症に対する強さにもつながるということを改めて私たちに知らしめたのです。心身の若さは何よりの財産。若いからと無茶をすると、それは確実にDNAの傷として残り、老いや疾患につながっていくのです。

だからこそ、早くその価値に気付き、守る行動をとってほしいと思います。

ニュージーランド南島のダニーデン市で1972年から73年に生まれた約1000人を26歳から45歳までの20年間追跡した研究(ダニーデン研究)があります。

この研究では膨大な生体データをもとに驚くべき真実が明かされました。

同じ45歳なのに、暦年齢が1歳進む間に心身の老化が2.4歳年以上進んでいた人から、0.4年しか進んでいなかった人までいて、大きな差がついていたのです。しかも、老化ペースが速い人たちは、見た目から、歩く速度、脳機能までが老化していました。

そして、血糖コントロールの状況を表すHbA1c(糖化ヘモグロビン)値の上昇やウエスト/ヒップ比(肥満率)の悪化が、若い期間の老化進行に強い影響を与えていたのです。

若くても、血糖値を急激に高めたり、腹部肥満を招く食生活は注意しなければならないということですね。

もしあなたが若くても、「最近ちょっと老けたんじゃない」といわれたり、シワが増えているような気がするという方は、是非、今日から食事を変えてみてはいかがでしょう。

繰り返しになりますが、できるところからで結構。

無理せず、“ゆるチェンジ”から始めましょう。

以上、「食生活を変えるのは、今でしょ」講座でした。