低カロリーで免疫から脳までサポート?!  スーパーうま味食材・キノコを食卓のレギュラーに

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは『キノコ』。キノコには驚きの機能がたくさん!今こそキノコを食卓のレギュラーに!!

2022年8月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

シイタケ、エノキタケ、エリンギ、ブナシメジ、ナメコ、マイタケ、マツタケ・・・・・。しばしば“かさ”の部分を頭部に模して擬人化されるように、どことなく愛嬌のある風貌のキノコたち。その姿と味を思いうかべつつ、名を連ねているだけで楽しくなってきます。

口に含むとシャキシャキした心地よい食感があり、続いて口の中にうま味が広がる。水分を除いたら最も多い成分と言っていい食物繊維(乾燥させたらほぼ半分は食物繊維)はじめ、骨の健康や免疫賦活に役立つビタミンD、“代謝のいい体”の維持に欠かせないビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、葉酸など)といった重要な微量栄養素が豊富なのに低カロリー。

日常使いに便利なものから日本のマツタケ、イタリアのトリュフなど珍味の王様まで種類も多彩・・・・・。

長く日本人に愛されてきたキノコは、おいしいのはもちろん、実はスーパーフードといっていい優れもの食材でもあります。

出汁食材としても料理の具材としても活躍する優等生

すごい点その1。日本料理の要、出汁のベースになる食材であること。出汁食材といえばグルタミン酸源の昆布、イノシン酸源のカツオ節がツートップでしょう。しかし、どちらも出汁を引いたら鍋から上げてしまうという方も多いのでは?

その点、グルタミン酸だけでなくグアニル酸といううま味成分もとれるキノコを、出汁を引くだけの目的に使う人はまずいないのではないでしょうか。キノコはおいしい出汁になりながらそのまま料理の要にもなってくれる食材。

とはいっても通常出汁に使われるのは、もっぱら干しシイタケでしょう。これには理由があります。干しシイタケにはグアニル酸とともに、昆布を超えるほどの量のグルタミン酸が含まれるから。複数のうま味成分が一緒になるとうまみが倍増することも知られています。

うま味がよく効いた料理は食塩量を減らしても、おいしいと感じます。キノコを出汁食材として日々の料理に取り入れれば、減塩にも役立ちそうですね。

免疫維持に役立つ2大成分、β-グルカンとビタミンDが豊富

すごい点その2、機能性の多さ。

キノコは、多糖類(食物繊維の一種)のβ-グルカンとビタミンDという2種類の免疫賦活成分を含みます。キノコのβ-グルカンは大麦(もち麦)の食物繊維の多くを占めるβ-グルカンとはちょっと構造が異なり、これまで主に免疫を高める作用が研究されてきました。例えばシイタケに含まれるβ-グルカンでは、ある種の免疫細胞や抗体の増加作用などが確認されています。

ビタミンDについては「今、最も気にしたいビタミンとは?」(https://www.fresta.co.jp/healthyproject/2465)の回で、感染予防に重要な働きをしていることをお伝えしました。そこではビタミンD源として魚が重要と記しましたが、魚以外でDをとれる食品はキノコ類くらいしかありません。魚に含まれるビタミンD3のほうがキノコに含まれるビタミンD2という形態より活性は高いのですが、もちろんキノコのビタミンD2も免疫や骨の健康維持などに役に立ちます。

キノコのビタミンDは紫外線に当てることで増えるので、キノコを買ってきたら、食べる前に2~3時間ほど天日干しをするのがお勧め。2時間の紫外線照射でキノコのビタミンDが20倍以上に増えたという実験データもあります。

そうはいっても、大切なのはそれぞれの成分に気を取られるより、毎日の食事にキノコを取り入れることです。

世界で行われた17の研究(日本の研究3件を含む)計約2万人分のデータを分析したところ、毎日18gキノコを食べた人は食べなかった人と比較してがんにかかるリスクが約45%低かったとのこと。シイタケならちょっと小ぶりなのを1本程度の量ですね。個別のがんでは、特に乳がんにおいて、キノコ摂取量が多くなるほどがんリスクが低くなる傾向が見られたそうです(Advances in Nutrition、2021年9月)。

宮城県大崎市の中高年男性3万6000人以上を13年追跡したところ、週に3回以上キノコを食べる人は、週1回未満の人に比べて前立腺がんにかかかるリスクが17%低かったという研究報告もあります(International Journal of Cancer、2019年9月)。

日々のメニューに加えれば、男女ともにキノコのうれしい恩恵を受けられそうです。

メタボ抑制や整腸から脳の健康を守る働きまで

「毎日シイタケを食べたら中性脂肪値が減少」とか、「エリンギを加えた食事は食後の血糖値上昇を抑え満腹感が高い」といった研究は枚挙にいとまがありません。冒頭でも触れたように、キノコから水分を除いたら一番多いのは食物繊維ですのでそれが働いてくれるのでしょう。最近、キノコからとる食物繊維量が多いほど、腸の健康を守るうえで重要な役割を持っている「クロストリジウム クラスターⅣ」という腸内菌群が多いとする発表もありました。これらの菌群の名前を皆さんが耳にされるのは初めてかもしれませんが、酪酸という物質を作り、腸を介して健康寿命の延伸にまで役立つのではないかと目されている今話題の腸内常在菌です。

キノコが脳の健康とも関係がありそうだというちょっとびっくりする研究もあります。週に2回以上キノコを食べる人は、週に 1 回未満しか食べなかった人に比べて軽度認知症のリスクが57%低かったというシンガポールからの報告や(Journal of Alzheimer’s Disease、2019年3月)、週に3回以上キノコを食べる人は 1 回未満しか食べない人に比べて、認知症発症リスクが19%低かったという日本で行われた研究結果が発表されているのです(Jounal of the  American Geriatrics Society、2017年7月)。

どの成分が機能しているのかといったことまだ不明ですが、免疫の場合と同じように、やはり日常的に食べる習慣を持つのがいいようですね。

人生の最後に食べたい究極のキノコ鍋とは

毒キノコを選ばない限り、キノコには体に悪そうなところが見当たらないうえに低カロリーなので、白米ご飯に置き換えるといった極端なダイエットに使われる方も多いようです。しかし、そういう偏食的な食べ方よりも、日々使う食材にすることで私たちの健康を広く守ってくれるという持ち味に注目してほしいところです。

もし、こんなに素敵なキノコという食材にあまり魅力を感じないという方がいたら、一度試していただきたい鍋があります。

「ハモマツ(鱧松)鍋」。

脂がのったハモとマツタケのが両方手に入る秋にしかできない、ちょっと贅沢な鍋ですが、私が人生の最後に食したいキノコ料理でもあります。

出汁&香り食材としてのキノコの魅力が存分に味わえる究極の一品。この二つの食材以外で加えるのは水菜くらい。あとは好みに応じてスダチを用意して。

日本産マツタケは高価ですから、香りがある程度しっかりしていれば他国産の安めのマツタケでOK。私も大抵他国産です。ただし、ちょっと奮発して多めに用意しましょう。ハモは骨切りしたものを購入。

まず、水を張った鍋に薄切りにしたマツタケをもったいぶらずに全部投入して火にかけ、しっかりうま味と香りを移します。そして、十分な出汁が出てきたら一口大に切ったハモをしゃぶしゃぶしてマツタケと一緒に食べる。

プリッと開いたハモの身が隅々まで芳醇なうま味と香りをまとい、シコっとしたマツタケとともに口の中いっぱいに幸せをもたらしてくれることでしょう。

特別な秋の1日の締めくくりにいかがですか。

このような鍋でなくても、キノコを中途半端に使わず、うま味がしっかり感じられるよう思い切った量を使うのが、おいしいキノコ料理に出会うコツの一つのような気がします。

その意味では、キノコを天日干ししてうま味を凝縮させてから料理に使うのもいいですね。先に記したようにビタミンDも一気に増えるので一挙両得。

例えばエノキタケを天日干しにし、軽く揚げたりすれば、それだけで一級品のおやつやおつまみに!

私が初めてキノコってこんなに美味しいのかと思ったのは、小学校高学年の頃、父親が秋に山からとってきた天然の「霜降りシメジ」で作ってくれたお吸い物でした。

霜降りシメジはホンシメジ同様、上品な香りとうま味がクセになるキノコです。

水を張った鍋にこれでもかと霜降りシメジを投入し、最後に醤油を少々垂らして味を調えるだけ。それまではキノコになんの関心もなかったのですが、この一杯でキノコに対する世界観が一変しました。

キノコのうま味と香りは、私にとって、今は亡き父と長野の質素な実家の記憶につながる扉でもあるのです。

是非、この秋、あなたとご家族にとって「我が家の味」になるキノコメニューを見つけてください。キノコにはそのような力があると思います。そしてそのメニューが定番化すれば、ご家族の健康度も幸福度も上がること間違いなし。