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昆布、ワカメ、海苔……古来から日本人の健康を守ってきたソウルフード“海藻”のチカラ

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは『海藻』。昔から日本人の食生活と馴染みの深い海藻を掘り下げます!

2021年12月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

その国の食文化の象徴になるほど、海藻と親しく付き合ってきた民族は世界の中でも日本人くらいと言っていいでしょう。

日本食の要である「出汁」を引く旨味食材としての昆布、味噌汁の具の定番ワカメ、寿司やおむすびを包み引き立てる海苔などなど。

ちなみに冒頭から余談で恐縮ですが、私は「おにぎり」より「おむすび」と呼ぶのが好きです。おむすびは、その作り手と食べる人を結び、日本人が長い間、お腹いっぱい食べたいと憧れてきた米が持つ神聖な力を結び込む食だからです。昔話の「おむすびころりん」はおじいさんとネズミたちを結ぶからこそおむすび。「おにぎりころりん」とはなりません。人の掌でむすばれ、縁をむすぶ“魂の食”なのです。

そんな大地の白い恵み「おむすび」を海の黒い恵み「海苔」で包み込む……。海苔むすびには、高い精神性まで感じせんか?

本題に戻りましょう。

日本人がよく使う海藻には、昆布、海苔、ワカメ、モズク、ヒジキ、アオサなどがありますが、海藻は日本人の健康を支えてきた代表的な食材でもあります。

約9万3000人(45〜74歳)の日本人の食事と死亡リスクの関係を見た研究では、日本食スコアが高い食生活を送っている人ほど死亡リスクが低くなっていましたが、海藻に絞って分析しても、摂取量が多い人は死亡リスクが6%低いという結果が出ています。

別の大規模研究では、昆布、海苔、ワカメなどの海藻をほぼ毎日食べる日本人で、心筋梗塞など虚血性心疾患のリスクが低くなっていました。ほとんど食べない人に比べて男性で24%、女性で44%リスクが低下していたのです。

こうした研究も含め、海藻摂取と健康の関係を調べた多くの研究を分析した筑波大学のチームは、海藻にはカリウム、食物繊維、カロテノイド(特にフコキサンチン)などの重要な栄養素が多く含まれてることを指摘し、特に、アルギン酸などの水溶性食物繊維が大きな働きをしているのではないかとしています。アルギン酸には血圧、血中脂質、血糖、体重を抑制する作用がありますが、海藻を多めに摂取することで実際にこうした効果が確認された研究を挙げています(2020年、European Journal of Clinical Nutritionという学術誌に掲載)。

現代人に欠かせない海藻の2大成分とは

海藻は、ナトリウム排泄に関わるカリウムや、円滑な代謝の維持に必要で不足すると慢性的な疲労や糖尿病のリスクが高まるマグネシウムなどの重要なミネラルを多く含みます。また、食物繊維の仲間では海藻のぬめり成分の一つフコイダンという名前を耳にしたことがあるのでは? フコイダンは動物試験で免疫活性化、抗ウイルスなどの働きが確認されています。

私たち現代人に欠かせない成分の宝庫といえますが、この稿では、ヒト試験結果が増えつつあり、先の筑波大のチームも海藻がもたらす効果の主成分と見ている「フコキサンチン」と「食物繊維(特にアルギン酸)」にフォーカスしてみましょう。

どちらも、昆布、ワカメ、モズクなどの褐藻類に多い成分です。

●フコキサンチン

フコキサンチンは茶褐色の色素成分で、褐藻類独自のカロチノイド。抗酸化力、炎症物質を減らす働き、そして脂肪燃焼作用、血糖値低下作用が確認されています。

北海道大学などの研究班が実施した60人が参加したヒト試験では、1日2㎎のフコキサンチンを8週間とったところ、1~2カ月の血糖値変化の指標であるHbA1cが下がりました。同大学が38人の肥満女性で行った別の試験では1日2.4㎎の摂取を16週間続けることで体重や肝臓の脂肪量が減っています。

下記の表を見てください。この成分は海藻を生の状態で調理して食べた方が効率的にとることができます。乾燥させる過程で酸化が進むにつれ少なくなってしまう成分なのです。生の昆布は一般に手に入らないことを考えると、手に取りやすく、血糖値低下や体重減少が確認された1日2~2.4㎎というフコキサンチン量がとれるのはモズクかもしれません。

モズクをスープに入れたり、モズク酢で食べればフコキサンチン2㎎程度を含む40~50gくらいは食べられそうですので。だからといって、モズクばかり食べる必要はありません。かつて日本一の長寿を誇った沖縄の百寿者の食事を分析した米国の研究たちは、「モズクや昆布といった海藻を日々の食生活に取り入れることで、フコキサンチンをコンスタントにとっていることが長寿の一因になっている可能性がある」と指摘しています。

<100g中のフコキサンチン量の例>

 モズク(生) 5mg

 昆布(生)  19mg

 昆布(乾燥) 2.2mg

 ワカメ(生) 11㎎

 ワカメ(乾燥)8.4㎎

 (出典:日本食品科学工学会誌2008 年 55 巻 4 号 p. 194などより)

●食物繊維/アルギン酸

そもそも海藻は食物繊維が多い代表的な食品です。海苔の36gや真昆布の32.1gは圧倒的ですね(下表)。もちろん1回に食べる現実的な量を考えると、いくら食物繊維の宝庫の海藻でも、それだけではそうそう簡単に十分な食物繊維量をとれるわけではありません。

食物繊維は意識してとらないとすぐ不足がちになる栄養素だということを忘れないでください。海藻を意識して食生活に取り入れれば確実に食物繊維摂取量のベースアップにつながるという点が重要なのです。

 <100g中の食物繊維量の例>

焼きのり           36g

真昆布(乾)         32.1g

ワカメ(乾燥ワカメの水戻し) 5.8g

昆布のつくだ煮        6.8g

(出典:食品成分表2020年版より)

海藻の食物繊維のなかでも近年注目度が高まっているのが、昆布やワカメ、モズクといった褐藻類の乾燥重量の15%~50、60%を占めるぬめり成分のアルギン酸。

1日4g分の含有量で「お腹の調子を整える」「コレステロールが高めの方に適する」という表示が許可された特定保健用食品(トクホ)、2.7~3.2gで「食後の血糖値上昇を抑える」機能性表示食品が発売されています。

こと血糖値の抑制については、海藻をしっかりとれば、フコキサンチンとアルギン酸がダブルで効いてくれるというわけです。

さらに最近、50人の肥満域にある男女が3.3gのアルギン酸を含む6gの昆布粉末を8週間摂取したところ、男性の体脂肪が有意に減るという試験結果が出ました。この試験を行った食物繊維研究の権威、大妻女子大学の青江誠一郎教授によると、「女性で有意差が出なかったのは皮下脂肪が多かった影響が考えられる」とのこと。アルギン酸は内臓脂肪の減少に効く成分と言えそうです。

森永乳業の研究グループは、腸内でアルギン酸がFaecalibacterium prausnitzii(フェ―カリバクテリウム・プラウスニッツィ)という菌を効率的に増やすことを発見しました。「そんな菌、聞いたこともない」という方がほとんどかもしれません。実はこの菌は私たちの腸内にいる常在菌で、腸の健康を守り免疫を調整する「酪酸」という短鎖脂肪酸を作る典型的な菌です。今年、いくつかの研究で、新型コロナにかかり重症度が上がった患者ほどこの菌の数が少なくなっていることが指摘され、話題になりました。

アルギン酸はダイエットにも免疫アップにも働いてくれるスーパー食物繊維なのです。

1点、アルギン酸パワーを引き出すコツを付け加えておきます。アルギン酸は海藻の堅い細胞壁の中にあるので、特に歯ごたえのある昆布などでは出汁を引いたくらいではあまり外に出てきません。煮れば煮るほどよく出てくるので、出汁を引いた後もそのまま鍋に入れておいてトロトロになったところを食べるか、つくだ煮などにしてしっかり煮てから食べるのがお勧めです。

正月は海藻の王様・昆布で寿ぐ

海藻の中でも、正月と言えば昆布ですね。おせち料理には昆布巻きが必ず入っているのは、“養老昆布(よろこぶ)”の語呂合わせで、不老長寿の願い、祝い事に欠かせない一品だから。 

もともと昆布は「ヒロメ」と呼ばれていたようで、古くからお披露目(披露宴)、つまり祝儀・祝膳とともにありました。

昆布には、フコキサンチン、食物繊維/アルギン酸だけでなく、旨味成分・グルタミン酸が豊富です。この成分は出汁として、日本食の味付けの基本となっていますが、しっかり出汁が効いた食事はそれだけでおいしいため、減塩にも効果を発揮します。さらに、胃のセンサーに働いて食べすぎを防ぐこともわかっています。

まさに、海藻の王様であり、日本人の健康維持に役立つ食材の代表です。

昆布をはじめとして海藻食を続けてきた日本人の9割には腸内に海藻を分解して利用する酵素を持つ腸内細菌がいることが、ほかの11カ国の人たちの腸と比べた研究でわかりました。日本人以外の腸ではこうした菌は15%以下の人からしか発見されなかったのです。

日本人は海藻の力を余すところなく利用し、健康維持に役立ててきたのですね。

しかし、海藻を食べる習慣をないがしろにすると、いずれ私たちの腸内からは海藻の力を引き出す菌たちが消えていってしまうことでしょう。

こんな日本人と海藻の親密な関係にも想いを寄せながら、正月には、家族みんなで昆布巻きを味わってみてはいかがでしょう。そして、海藻食の大切さを再認識し、意識して海藻を食べる1年にしていただければと思います。