旬の野菜の力をもらいに、スーパーへ行こう(下)

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。食の欧米化が進む日本で野菜摂取不足が叫ばれて久しいですが、野菜は私たちの身体にどのように働きかけてくれるのでしょうか。ヘルシープロジェクト 第11回・第12回では、『野菜』をテーマに、健康的な食生活について今一度思考を巡らせてまいりましょう。

2021年8月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

 ベジタブル・ファーストという言葉ご存じでしょうか?

 食事の最初に食物繊維をたっぷり含む野菜を食べておくだけで、血糖値が上がりにくくなり、ひいては太りにくくなる食事法です。2011年頃、だれでも気軽にできて、ダイエットにも全身の健康のためにもいい方法はないかなあ、と考えていた時にふと思いついたもの。

 別の回に、こうした血糖値を上げにくくする食事法についてじっくりご説明しようと思いますが、種明かしをすると、食事の初めに食べて同じような効果が得られる食材は野菜以外にも、酢や納豆といったネバネバ食材などいろいろあります。

 ではなぜ、あえて野菜に代表になってもらったのか。

 それはずばり、「ベジタブル・ファースト」という言葉がきれいな響きを持っていて、この言葉を聞いたとたんに、みずみずしいサラダを頭に思い浮かべる人が多いだろうなということと、特に女性の皆さんがお友達とも共有できる“美しい”食事習慣になる可能性があるかもと思ったからです。

 おかげで、多くの人が取り入れてくれる食事法になりましたが、要は、それほど野菜は魅力にあふれているということですね。

 さて、前回そんな野菜との付き合い方のキホンは、「旬の野菜を選ぶ」ことだとお伝えしました。今回は、もう一つだけ、お勧めの方法を記します。

色と匂いを目印に野菜を選ぶ

 それは、「色の濃い野菜(緑黄色野菜)」と「匂いの強い野菜」からそれぞれ毎日1種類以上を選んで食べる、という方法。

 色素成分は、各種ストレスで増えて体の組織をさびつかせる活性酸素を取り除く抗酸化力が強い。一方、匂い成分は、抗菌力や、肝臓で解毒酵素を活性化して発がん物質などを無毒化する力などを持ちます。それぞれが異なるルートから、私たちの体を生活習慣病などの不調から守ってくれるのです。

<野菜の色素成分とそのパワー>

 色素成分は、大きく2つに分けられます。

 ブドウやブルーベリーの紫色の素アントシアニン、ほうれん草やケールの緑色の素クロロフィルなどの「ポリフェノール」と、トマトに多いリコピンやニンジンのβ-カロチンなどの「カロチノイド」です。ポリフェノールは水に溶けやすく、カロチノイドは脂に溶けやすいので、体内の違う持ち場で抗酸化パワーを発揮してくれます。

 岐阜県高山市の住民約3万人を15年以上追跡した研究では(2020年に『European Journal of Nutrition』という学術誌に掲載)、食事によるポリフェノール摂取量が多いほど、総死亡率も心血管疾患および消化器疾患による死亡率も低くなっていました。

 温州ミカンが、その黄色の色素β-クリプトキサンチンというカロチノイドで「骨の健康維持に役立つ」という機能性表示食品になっているのをご存じですか? これはもともと温州ミカンの産地である静岡県の三ヶ日町の方々の追跡調査がベースになっています。

 冬、ミカンを食べすぎて手の平まで黄色くなった経験をお持ちの方はいませんか? あれは、β-クリプトキサンチンが皮膚の細胞まで達している印。こうなると冬に食べたミカン由来の色素成分が夏まで体内から検出されるそうです。そして、そのような更年期の女性では骨密度が高かったのです。

 トマトのリコピンも皮膚の細胞まで達して、太陽の紫外線の害を和らげることがわかっています。食べるサンスクリーンというわけですね。つまり、カロチノイドが多い野菜や果物を食べて肌が黄色っぽくなるのは悪いことではなく、カロチノイドが体のすみずみまで生き渡った証拠なのです。

 色とりどりの野菜を食べる食事法を「レインボー・ダイエット」といいますが、赤、黄、オレンジ、緑、紫、黒、白と食べる野菜の彩りが増すほど、多様な恩恵が受けられると考えていいでしょう。

<野菜の匂い成分とそのパワー>

 ニンニクやネギ、玉ネギなど、色でいうと白っぽいものが多い野菜類の独特の匂い成分も、色素成分と肩を並べるパワーを持っています。それがイオウ化合物。

 ネギ科のニンニク、ニラ、ネギ、玉ネギなどに含まれる硫化アリル、アブラナ科のキャベツ、大根、ブロッコリー、ケール、白菜、ワサビなどに含まれるイソチアシネートなどがあります。

 温泉の匂いでおなじみのイオウがくっついているので個性的な香りがするわけですね。

 イオウ化合物の機能性表示食品も出ています。

 硫化アリルの仲間の成分では、にんにく由来のアリイン入り食品で、「血中LDL-コレステロール値を低下させる」、S-アリルシステインで「日常生活における一時的な疲労感を軽減する」といった機能性が表示されています。

 イソチアシネートの仲間の成分では、ブロッコリースプラウト、ケールスプラウト由来のスルフォラファン入りでは「肌の水分量を高める」「やや高めの血中肝機能酵素(ALT)値を低下させる」という表示が。

 ちなみに、平成24年の年国民健康・栄養調査をベースにしたものなのでちょっと古くなりますが、日本人がよく食べる野菜は、1位大根、2位玉ネギ、3位キャベツ、4位キャベツ、5位ニンジン(厚生労働省による)。なんと、上位4位までがイオウ化合物を特徴とする野菜たちです。

 やはりこうした野菜をよく食べる人の健康度は高い。45~74歳の日本人男女約9万人を対象にした研究で、キャベツやブロッコリー、白菜などのアブラナ科の野菜を「最もよく食べる群」と「最も少ない群」を比べると、男性で14%、女性で11%、全体の死亡リスクが低くなっていました(下図)。

 中でも、男性ではブロッコリーとたくあん漬けを、女性では大根とブロッコリーをよく食べる人で特にリスクが低かったのです。

 なぜ、たくあんが?と感じた方がいることでしょう。宮崎県名物の「干したくあん」は、漬ける前に大根を2週間ほど天日干しします。この間に、「睡眠の質の向上に役立つ」「血圧を下げる」などと表示される機能性表示食品の成分GABAの量が約7倍に増加! 2週間干したたくあん4~5切れ分(15~20g)で、GABAの有効量100㎎がとれるそうです。

 イオウ化合物+GABAのWパワーが寄与しているのかも。生や加熱調理した野菜だけではなく、漬物にも注目です。ただし、塩分をとりすぎないようご注意を。


(出典:国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループの発表資料より https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8153.html
 

 玉ネギはじめイオウ化合物が多い野菜は、色鮮やかな野菜たちを引き立て、素晴らしいシンフォニーを奏でてくれます。そんな点でも、「色」と「匂い」で野菜を組み合わせるのは、料理の奥行きや楽しさを広げてくれるのではないでしょうか。

 ちなみに2021年は、国連が定める「国際果実野菜年」https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/iyfv.html)。果実と野菜をとることによってもたらされる、栄養上・健康上の利点について世界的に認識を深める年だそうです。

 スーパーであなたに強いメッセージを送っている野菜を選んだあとは、それぞれのご家庭でそのハーモニーとパワーの宴を楽しみましょう。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。