旬の野菜の力をもらいに、スーパーへ行こう(上)

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。食の欧米化が進む日本で野菜摂取不足が叫ばれて久しいですが、野菜は私たちの身体にどのように働きかけてくれるのでしょうか。ヘルシープロジェクト 第11回・第12回では、『野菜』をテーマに、健康的な食生活について今一度思考を巡らせてまいりましょう。

2021年8月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

 まず、問題です。

Q 日本で一番野菜を多く食べている県はどこでしょうか?

A  男女ともに長野県です。男性の平均が352.0g/日、女性が335.3g/日(平成28年版「国民健康・栄養調査」)。男女ともに最下位の県より、100g以上多く食べています。

 ほかの面でもさぞや健康な食生活をしているのかと思いきや、長野県は同じ年の調査で、食塩摂取量が男性11.8g/日で全国3位、女性は10.1gでなんと1位。食塩のとりすぎは、胃がん、脳卒中、心血管疾患といった病気のリスクを高めるため、国を挙げて減塩運動が進む中、高食塩摂取がなかなか改まらない県なのです。かくいう私は長野県生まれ。実家でも味付けが濃い料理が多かったのでよくわかります。

 にもかかわらず、同県は、平均寿命で男性が2位(81.75歳)、女性が1位(87.68歳)の長寿県(「平成27年都道府県別生命表の概況」)なのはどうしてでしょうか。

 他にも長寿を支える要因はあるはずですが、食塩排出と不可分な関係にあるカリウムが豊富な野菜が食塩の害を和らげている面もあるのではないでしょうか。カリウムだけでなく、野菜にはビタミンCやカルシウムといったビタミン・ミネラル、ポリフェノール、カロチノイドなどの抗酸化成分、そして食物繊維も豊富です。

野菜をたっぷり食べれば健康寿命も伸びる?!

 現代人が不足しがちな栄養素を含む野菜を、成人一人当たり1日350g以上はとろうというのが国の指針(健康日本21)。しかし、残念ながらこの数字を超えているのは全国でも長野県の男性のみ。

 350gという数字には根拠があります。最近、東京大学などによる研究チームが検証し、今年『BMC Public Health』という学術誌に発表した研究によると、成人平均で1日350gの摂取量が実現されかつ維持されたら、心血管疾患、がん、糖尿病性腎臓病による健康寿命短縮リスクが大幅に減るという結果が出たのです。

 下記は国立がん研究センターが、日本人のがんリスクを上げる因子と下げる因子をまとめた表(https://epi.ncc.go.jp/files/02_can_prev/matrix_170801JP.pdf)から食品部分を抜き出したもの。野菜や果物がある種のがんリスクを下げてくれる可能性があることがわかります。

がんのリスク・予防要因(ver. 20170801)のうち食品

*表の赤色は予防、グレーはリスク

 (出典:「日本人のための科学的に正しい食事術」(三笠書房)より)

 この3月に『Circulation』という医学誌に載った、世界の約200万人分のデータを分析した研究では、野菜と果物を合わせて1日400g(5サービング)とると、160g(2サービング)しかとらない人に比べて、すべての原因による死亡リスクが13%低くなって寿命が伸びることが判明。心血管疾患による死亡リスクは12%、がんによる死亡リスクが10%、呼吸器疾患による死亡リスクは35%も低下するという結果に。

 特に、ほうれん草などの緑の葉野菜、β-カロテンやビタミンCが豊富な果物などを多くとる人でいい結果が出ました。

 果物を含めて400gなら、ちょっと意識を高めれば超えられそうですね。

「元気になる野菜の選び方」はシンプル

 そうはいっても、野菜は種類が多いうえに、含まれる健康にいい成分は種類も多彩。「どういう組み合わせで野菜をとると効果的かよくわからない」という声も聞きます。

 その答えはスーパーの店頭にあります。

旬の野菜を食べる 冷凍やフリーズドライも活用

 まずは、その時期に収穫のピークを迎え、スーパーの店頭を彩っている旬の野菜をたっぷりとることが基本です。野菜ごとに含まれる成分の違いや多寡はありますが、旬の野菜は機能性を持つ成分の量がぐんと増えるうえに、アクが少なくておいしい! さらに旬の時期は流通量も増えるので値段もお手頃になります。

 好きな野菜があるなら冷凍野菜を利用するのも手。量的にもコスト的にも効率的な旬の時期に収穫し、短時間過熱・急速冷凍した冷凍野菜は優秀です。含有成分の損失が少なく、調理にも便利。

 いざというときには、フリーズドライも味方になります。「栄養が抜けている感じがする」というイメージを持つ人がいるかもしれませんが、急速冷凍して真空状態で乾燥加工するため、実は失われる栄養分が少ない保存食なのです。

 生の野菜とそれをフリーズドライにした場合で、ビタミンCとポリフェノール量を比較したところ、ビタミンCの損失は低く抑えられ、ポリフェノールはフリーズドライで増えた!という報告があります。加工過程で野菜の細胞壁が壊れて、中のポリフェノールが外に出てくるというのが理由。

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 「日経ヘルス」という雑誌の編集長をしていたとき、実用情報ばかりの健康雑誌なのに、小説家の小手鞠るいさんに野菜と恋をテーマにした連載小説を書いてもらいました。『野菜畑で見る夢は』というタイトルで文春文庫に入っています。

 野菜はその香りやみずみずしさ、うまみ、甘さなどで私たちを元気にしてくれますが、一方で苦みやアクもあり、食物繊維に包まれているからよく噛まないとちゃんと消化されません。まるで恋のようではないですか?

 是非、野菜に恋をしてみてください。旬の野菜は恋の相手として最高です。

 1日100g野菜の摂取量が増えるごとに3%づつ鬱になるリスクが低くなるというデータもあります。体も心も元気にしてくれるんですね。

 まずはスーパーの店頭で、あなたに「今が旬だよ」とささやきかけてくる野菜を手に取ってみましょう。

 次回は、もう一つ、シンプルな「元気になる野菜選び」のコツをご紹介したいと思います。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。