男性更年期や前立腺の不調・・・男性ならでは悩みの味方になってくれる食
『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。
2月のテーマは「男性特有の健康問題と食」について。
2025年2月
健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩
若くてもなることがある「男性更年期」とは?
先月の本コラムは、「女性特有の不調を緩和してくれる食」をテーマにしました。今月は男性特有の不調と食について考えて行きたいと思います。
のちほど男性ならではの疾病に触れますが、まずは、最近話題の「男性更年期」について。
これは「LOH 症候群(late-onset hypogonadism)」もしくは「加齢男性性腺機能低下症候群」とも呼ばれ、主として加齢やストレスなどにより男性ホルモン・テストステロンの値が低下することに伴う症状を指します。
女性の更年期は、女性ホルモンの分泌が激減することによって起こりますが、男性更年期症状も原因はテストステロンの減少です。ただし、加齢の影響は受けるものの女性のように一定の年齢になるとだれでも激減するというわけではなく、中には年齢が若いのにストレスなどによってテストステロン値が低下してLOH症候群の症状が出る人もいるようです。
テストステロンは男らしい骨格の体を作ったり、血管の健康を保ったり、精子の生成や性的な能力などに広く関わります。社会性を保つといったメンタル面にも関与するので、不足すると心身に広く影響が及ぶのです。

では、LOH症候群になるとどのような症状が出るのでしょうか。
テストステロン値を測る機会はあまりないと思うので、Aging Male‘s Simptoms(AMS)という男性更年期症状の重さを見るチェックシートをやってみましょう(「男性の性腺機能低下症ガイドライン2022」より)。基本的には高齢男性を対象とするものですが、若くてもあてはまればLOH症候群の可能性があると考えていいようです。
<男性更年期チェックシート>
1. 総合的に調子が思わしくない
2. 関節や筋肉の痛み
3. ひどい発汗
4. 睡眠の悩み
5. よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
6. いらいらする
7. 神経質になった
8. 不安感
9. からだの疲労や行動力の減退
10. 筋力の低下
11. 憂鬱な気分
12. 「人生の山は通りすぎた」と感じる
13. 「力つきた」「どん底にいる」と感じる
14. ひげの伸びが遅くなった
15. 性的能力の衰え
16. 早朝勃起の回数の減少
17. 性欲の低下
◆点数の付け方
「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点で集計
◆判断法
合計点で男性更年期の重症度を見る
17~26点「ない」、27~36点「軽度」、37~49点「中程度」、50点以上「重症」
テストステロン減少による症状としては上記以外にも「頻尿」「記憶力の低下」などが起こることもあるようです。
合計点が50点以上になった方、日常生活に支障が出ている場合は泌尿器科を受診してみてください。男性更年期外来を掲げる医院もあります。
こうした自覚症状だけでなく、テストステロン値が低下することによる長期的なリスクもわかってきています。
例えば次のような報告があります。
●テストステロン値が低い若い男性と高齢者で慢性疾患数が多い
米国の20歳以上の男性約2400人のデータを分析した結果、低テストステロン値だと、肥満によるリスクを除外しても、正常値の人に比べて慢性疾患数の多さが1.82倍になっていました。特に若い人と高齢者で強い相関があったそうです(Scientific Reports誌で 2018年4月12日に公開)。
日本人男性でも下記のようなデータが。
●テストステロン値が低いほど、メタボリックシンドロームと診断されるリスクが高い
30 歳以上の日本人男性 1150人をテストステロン値によって5つの群に分類したところ、テストステロン値が最も高い群に比べて、一番低い群ではメタボリックシンドロームのリスクが約15倍も高いという結果が出ました(Urology誌の2013年10月号に掲載)。
それどころか、世界の研究を集めて分析したところ低テストステロンだと死亡リスクが高まることも確認されました。
●テストステロン値の低さが、高齢男性の全死亡リスク増加に関係
テストステロン値が低い高齢男性では全死因による死亡リスクがアップ。ことに、脳血管疾患による死亡リスクの高さが指摘されています。世界の9つの研究計25万人年分以上のデータを分析したもの(Annals of Internal Medicine誌で2024年5月14日に公開)。
新型コロナウイルス感染症で重症の男性患者を調べたら、軽度の男性と比較して平均テストステロン値がかなり低かったという報告もありました。
男性にとってのテストステロン値低下は、老化に伴って発症しやすくなる疾患のリスクを高めたり、感染症から身を守る力の低下などにつながると考えていいようです。
そのため、特に比較的年齢の若い男性でテストステロン値が低い場合は、早めの対策が必要です。
強いストレスと運動不足に注意
では、テストステロン値が下がらないようにするために、できることは何でしょうか。
まず専門家が口を揃えるのが「強いストレス」を避けることです。
強いストレスがかかると、テストステロンの産生を促す黄体形成ホルモンの分泌が低下してしまうから。人間関係なども影響するようです。音楽でも旅行でも結構、元気になれることに割く時間を確保して、積極的に行いましょう。
次に「運動不足」の解消。テストステロンは運動で筋肉に刺激を与えることで分泌が促されるホルモンでもあります。中強度の運動でもテストステロン値が上がることが確認されていますので、適度な運動を心がけましょう。

食事面ではテストステロン値の低下を防ぐために、どのようなことに気を付ければいいでしょうか。
① 精製された炭水化物や砂糖、高脂肪食の食べ過ぎにご用心
こうした食事を“炎症誘発性の食事”と呼びますが、米国人男性4000人以上を分析した調査で、炎症誘発性の食事パターンの男性がテストステロン欠乏症になるリスクは、抗炎症性の食事をしている男性より約30%高かったと報告されています(The Jounal of Urology誌で2021年7月1日に公開)。
テストステロン値を低下させないためには、豆類、全粒穀物、ナッツなどを含む、食物繊維が多い食事をとるのがいいようです。海外の研究ではその代表的な食事として地中海食が挙げられています。
② 肥満している人はカロリーを控えめに
いくつかの研究を総合して、肥満男性がカロリーを控えめにすると、テストステロン値が有意に増加することが確認されています(Nutrition Reviews誌で2021年10月6日に公開)。つまり、肥満状態を解消することが、スムーズなテストステロン分泌につながるということですね。
個別の食品成分に関しては、いろいろな研究がありますが、まだこれをとればテストステロン値が上がると明言できそうなものはなさそうです。
カレーに使われるスパイス、フェヌグリークではテストステロン値が上昇したという複数の研究がありますが、日本で日常的にとり続けるのはちょっと難しいかもしれません。
ほかに、ビタミンDは不足することで、うつ傾向が高まったり、筋肉の活性が低下するので、間接的にテストステロン値の低下に影響を与えます。本コラムで何度もその良さに触れてきた魚は意識してとるようにしたいもの。
ニンニクやタマネギに多いツーンとする臭いの成分、イオウ化合物にもテストステロン値を高めるという報告があります。

男性ならではの器官、前立腺の疾患は加齢でリスクがアップ
次に、男性ならではの疾患を見てみましょう。
先月のコラム「女性ならではの不調を緩和して、女子力を高める食」でも引用した内閣府の「男女共同参画白書 令和6年版」(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r06/gaiyou/pdf/r06_gaiyou.pdf)を見ると、前立腺肥大、前立腺がんという前立腺に関わる疾患が50代から増えることがわかります。
前立腺は男性のみにあり、精液の一部(前立腺液)を作ったり、排尿や射精を調整する臓器。
前立腺肥大は、加齢の影響で前立腺が肥大し、それによって尿道が圧迫されて、頻尿、排尿困難、残尿感などの症状が表れる疾患です。
前立腺がんは、今、日本の男性に多いがんの1位で、およそ男性の10人に1人が罹患するがんでもあります。初期は自覚症状がないケースがほとんど。
前立腺肥大も前立腺がんも高齢男性でリスクが高まります。

では、加齢以外にどんな因子が前立腺の疾患リスクを高める可能性があるのでしょうか。
<前立腺肥大>
加齢や男性ホルモンが関係しているとされますが、正確な原因は不明とされています。
<前立腺がん>
前立腺がんも、これという原因は特定されていません。
しかし、血縁者に患者がいる場合、発症リスクが罹患リスクが約2.4〜5.6倍に高まるというデータがあります(日本癌治療学会の「診療ガイドライン」より)。
こうしたリスクがある方は、中年期以降、PSA(前立腺特異抗原)という前立腺がんの腫瘍マーカーのチェックを定期的に行うのがいいようです。
同診療ガイドラインでは、可能性がある遺伝以外のリスク因子として、「生活習慣(食事、運動習慣など)」、「肥満、糖尿病、メタボリック症候群」、「前立腺の炎症や感染」、「前立腺肥大症や男性下部尿路症状」、「環境因子や化学物質への曝露」といった項目が挙げてはいますが、これらが原因かどうか特定するのは困難としています。
ただし、40~69歳の日本人男性約5万人を対象にした研究で、「アルコール摂取量が多い人」と「喫煙者」で進行前立腺がんのリスクが高いという結果が出ていますので、他のがんや生活習慣病予防と同様、お酒の飲み過ぎと喫煙に気を付けるに越したことはありません(International Journal of Cancer誌で2013年8月9日に公開)。
前立腺の健康維持に役立つ食事
前立腺の健康を守ってくれそうな食事や食品にはどのようなものがあるのでしょうか。
<前立腺肥大>
そもそも男性の加齢に伴って増える症状なので、どんな食事がリスクを高めるかという研究はまだ途上という感があります。
これまでの研究を検証した札幌医科大学のチームは、「脂肪と赤身の肉の摂取量が多く、たんぱく質と野菜の摂取量が少ない食事」で前立腺肥大のリスクが増加すること、「緑黄色野菜に多いカロチノイドであるβ-カロチン、ルテインやビタミン C を含む果物の摂取」はリスクを低下させる可能性があることを指摘しています(International Journal of Urology誌で2024年3月10日に公開)。

血糖値を急上昇させる精製炭水化物(砂糖を含む)を多くとることもリスクにつながるので、テストステロン低下を防ぐ食事とほぼ同様、「野菜や果実など抗酸化物質を多く含む食材や、植物性たんぱく質、食物繊維などがたっぷりとれる豆やナッツ、未精製穀物をベースにした食事」をするのがいいということになるでしょう。
サプリメントでは、北米の先住民が使ってきたノコギリヤシという植物の果実エキスやトマトに多く含まれるカロチノイド・リコピンなどで前立腺肥大による尿量が増え、夜間頻尿が改善したといったデータがあります(International Journal of Molecular Sciences誌で2023年3月13日公開の論文など)。
ノコギリヤシはサプリメントでないととれませんが、リコピンはトマトを意識してとることで十分な量をとることができますね。
<前立腺がん>
こちらはリスク低下を検証した研究も多いので、良さそうな食事パターンや食品を挙げてみます。
① 果物、野菜、豆類、全粒穀物、魚を多く含む食事
食事スタイルに関しては「またか!」という感じかもしれません。ここではまず約400人の前立線がん患者に関する研究をご紹介します。上記のような食品要素で構成される地中海食度が高い食事を取り入れた人では、前立腺がんだとわかった後でもがんの進行リスクが低下していました。地中海式食事スコアが1ポイント増加するごとに、前立腺がんの進行のリスクが10%以上下がっていたとのこと(Cancer誌で2021年2月19日に公開)。
45〜74歳の日本人男性4万3000人以上を追跡した研究では、「野菜や果物、イモ類、大豆製品、キノコ類、海藻類、脂がのった魚、緑茶などをとる“健康型”の食事」で、前立腺がんリスクが低下していました(Cancer Causes & Control誌で2018年4月18日に公開)。
同じ対象者を分析した別の研究では、食物繊維摂取量が少ない人たちで進行前立腺がんのリスクが高いことが確認されています。研究チームは、前立腺がんのリスクを高めるとされる血糖関連ホルモンの上昇や炎症を抑制するからではないかとしています(American Journal of Clinical Nutrition誌の2015年1月号に掲載)。
つまり、西洋型であれ、日本型であれ、抗酸化成分、食物繊維が多い“抗炎症型の食事”は、テストステロン値の減少も、前立腺の肥大も、さらには前立腺がんの進行リスクも低下させる可能性が高いといえます。
次に個別の食品(食品成分)を見てみましょう。
② 魚(オメガ3脂肪酸、ビタミンD)
前立腺がんの男性約100人が参加して、魚油のサプリメントをとりながら、オメガ3脂肪酸が豊富な食事を続けたところ、1年後には前立腺がんの細胞増殖レベルが著しく低下しました。食事では、揚げ物、ポテトチップス、焼き菓子などのオメガ6 脂肪酸を多く含む食品の摂取も減らしたそうです(Journal of Clinical Oncology誌で2024年12月13日に公開)。
③ キノコ
宮城県に住む40~79歳の男性約3万7000人の調査で、キノコをよく食べる人は、前立腺がんが低いという結果が出ています。週に3回以上キノコを食べる人は、週1回未満の人に比べて前立腺がん罹患リスクが17%低くなっていました(International Journal of Cancers誌で2019年9月4日に公開)。
野菜や果物、肉、乳製品などほかの食品の摂取量に関係なく、キノコの摂取頻度が高いほど前立腺がんの発症リスクが低かったということなので、「男子キノコを食べるべし!」ですね。
何が利いているのかはわかっていませんが、研究チームはキノコに含まれる抗酸化物質・エルゴチオネインがいいのかもとしています。
④ コーヒーと緑茶
米国、欧州、日本で行われた16の研究計100万人以上のデータを分析したところ、毎日数杯のコーヒーを飲む人で前立腺がんの発症リスクが低いことが確認されています。最もよく飲んでいる群では、限局性前立腺がん(前立腺内にとどまっているがん)のリスクが7%低く、進行性および致命的な前立腺がんのリスクが12%〜16%低かったとのこと(BMJ Open誌で2021年1月11日に公開)。
日本人男性約5万人を追跡した研究では、緑茶をよく飲む人ほど進行前立腺がんのリスクが低下するという結果が出ています。緑茶を1日5杯以上飲む群は、1日1杯未満しか飲まない群より約50%リスクが低下していました(American Journal of Epidemiology誌で 2008年1月1日公開)。

手軽に飲むだけでいいコーヒーと緑茶は、実は抗酸化物質ポリフェノールの最大の摂取源。生活に根付いている優れた飲み物を味方につけましょう。
男性更年期も前立腺の疾患も、加齢に伴う不調です。
こうして見てくると、結局のところ、老化を抑え、若さを維持することに貢献してくれる成分(抗酸化成分や食物繊維など)が入った食品を意識して食べることがすべてと言ってよさそうですね。
西沢邦浩
日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。
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