情報社会の命綱 目を一生守るための基本とは
『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。10月のテーマは「目を守る食」について。
2024年10月
健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩
若いのに「スマホ老眼」?! 目が悲鳴を上げている
皆さんは1日何時間くらい、携帯端末に目を凝らしていますか?
毎週、スマホから「先週のスクリーンタイムは1日平均●時間■分でした」という通知が来るたびに、「あーあ、またこんなに長く小さな画面を見つめてしまった」とため息が出ます。できるだけ少なくしようとしても、今ではプライベートなメッセージや画像のやりとり、仕事上のメール、何らかの学習プログラム、番組視聴、おまけにレジの決済までスマホが主要な手段。使わずに暮れる日は1日とてありません。
そもそも私たちが得る情報の8割超は視覚経由だとされますが、その量も質もどんどん目に負担をかける方向に進んでいます。
コンピュータを使う仕事(VDT作業)が多くなったことで、急増した眼精疲労が社会問題なったのは今は昔。当時は、こうした眼精疲労を訴えるのはオフィスワーカーが主でしたが、今は、全世代の老若男女に及んでいます。
それに伴って、情報機器の利用による眼精疲労を表すVDT症候群という名称は、「IT眼症」と呼ばれることも多くなりました。また、スマホ画面をじっと見つめることでピント調節が低下し、 若いのに近くのものが見えにくくなる症状を指す「スマホ老眼」という名称も登場しています。
全身不調につながる現代症「目の疲れ/ドライアイ」
スマホの画面を凝視し続けると、毛様体筋という筋肉が収縮したままになるため、筋肉疲労に。見つめ続けることでまばたきの回数も減るので、涙液量が少なくなってドライアイも起こります。
ドライアイは、目の疲れだけでなく、頭痛、肩こり、不安やイライラなどの不調を引き起こすことがわかっています。さらに、ひどいドライアイが続くと、白内障や、加齢黄斑変性といった目の疾患リスクまで高まるというデータも。
漢方薬のツムラが発表した『第4回 なんとなく不調に関する実態調査』(2024年1月発表)でも、「目の疲れ」は全体で2番目に多い不調(49.7%)でした。男性では1位、女性で4位となっています。しかし、1位の「疲れ・だるさ」、3位4位の「肩凝り」、「頭痛」はいずれも「目の疲れ」と相関が強い不調なので、目の疲れと切り離して考えるのは難しそうです。
日本眼科学会は、ドライアイの患者数を1200万人と推定していますので、もはや「疲れ目/ドライアイ」は国民病の一つと言えます。
悪化するリスクを下げるためには、長時間のIT作業、スマホの凝視はもちろん、エアコンなどによる乾燥などにも気を付けて。運動不足も影響するという報告もあります。
目の酷使が続くと、やがてドライアイだけでなく、白内障や、加齢黄斑変性といった眼科疾患リスクも高まるので、慢性化しないよう注意し、またそれを軽減するような食品・食品成分も意識してとるようにしましょう。
これについては、後ほど触れます。
急増しているドライアイ以外に、加齢に伴って50歳くらいから増える代表的な目の疾患と、リスクを高める生活因子をざっと挙げておきます。
【白内障】喫煙や紫外線を浴び続けることによる酸化ストレス、肥満や生活習慣病に要注意。
【加齢黄斑変性症】白内障同様、喫煙は大きなリスク因子。高脂肪食にも気を付けたい。
【糖尿病性網膜症】糖尿病による血管障害で網膜剥離や出血が起こる。自覚なく進行するので、糖尿病の予防や進行を抑えることが重要。
【緑内障】日本眼科学会は、緑内障に関し、「明らかに緑内障に良くないという生活習慣はない」としている。眼圧の高さがリスクとされるが、この病気は早期発見が大切。
共通して気を付けたいのは、喫煙や肥満・生活習慣病を招く生活です。
将来、失明のリスクもありえる「近視」の進行にも注意を
疲れ目/ドライアイと並んで、“パンデミック”と言われるくらい増えているのが「近視」です。今や、裸眼視力1.0未満の小学生の割合が37.9%、高校生では71.6%(令和4年学校保健統計)に達するほど、若年層で視力低下者が増えています。
つまり、今、若い世代は前述の「スマホ老眼」と「近視」、二つのリスクにさらされていることになりますね。
「メガネやコンタクトで矯正できるし、そんなに心配しなくてもいいのでは?」という人がいたら、この機会に考えを改めていただいたほうがいいでしょう。
近視が進むと何がまずいのでしょうか。
近視は小児期に一気に進行し、そのうち約24%が強度近視に移行するとされます。強度近視になると、多くの目の疾患を引き起こすリスクが高まり、弱視になるリスクが32.7%、失明の発生リスクも22.4%になるとする研究報告もあるのです(MedComm – Future Medicine誌で2023年11月4日に公開)。
つまり、近視は悪化すると失明のリスクもある病気。私も強度近視のなのですが、今後、こうしたリスクが心配です。
私のように進行してしまったらもとには戻せませんので、近視が進行する小児期に予防したいもの。今、注目を集めているその予防策は「太陽光が差す屋外で過ごすこと」です。
「えっ、外遊び?」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、この効果はいくつもの研究で実証されています。その理由の一つとして、太陽光に含まれる紫の光、ヴァイオレットライトが近視の進行を抑えるためと説明されています。
では、どのくらい「外遊び」をすればいいのでしょう。
最近発表された中国の研究では、最低2000ルクスの光強度の下で1日に15分以上屋外で過ごした子供は近視の進行が少なかったという結果が出ています(JAMA Network Open誌で2024年8月13日に公開)。
2000ルクスは「雷雨や雪で暗い屋外」の日中でも得られる光強度。要は、毎日日中に外で30分くらいは遊んだり、歩いたりするという感じ。別の東アジアで実施された研究では、毎日1時間日中に屋外で過ごすだけで近視発生率が大幅に減ったというデータがあるので(Nature誌で2024年5月29日に公開)、お子さんだけでなく、近視が気になる大人も、毎日日中に1時間は外活を心がけるのがいいでしょう。

目を守る食品、食品成分との付き合い方
目を守る食生活の基本は、高脂肪食や、血糖値を上げやすい砂糖や精製した糖質が多い食事を控えめにすること。そして、野菜や果物など抗酸化物質を多く含む食事や食品をとるということにつきるようです。
アメリカで数万人の看護師を長期にわたって追跡した研究の分析では、白内障、加齢黄斑変性症、緑内障といった加齢に伴って増加する目の病気のリスクを下げる食事因子として、「ビタミンA、C、Eを含む食品、ルテイン・ゼアキサンチンを多く含むほうれん草やケールを良く食べていること」などを挙げ、「果物や野菜、カロテノイド、葉酸を多く含む健康的な食事」が目の疾患リスクを下げるのに効果的と結論付けています(American Journal of Public Health誌の2016年9月号に掲載)。

ほうれん草、ケール、そしてブロッコリー、小松菜などは、ルテインやゼアキサンチンそして葉酸も多く含む野菜なので、目を守る食品の筆頭と考えてよさそうですね。
ことに、ルテインとゼアキサンチンは、目の網膜の黄斑部分や脳にとりこまれて蓄積されることもわかっており、昨今、認知機能の保護作用も注目されています。
欧米では失明原因の1位で、日本でも患者が増えている「加齢黄斑変性」に関して、カロテノイドを豊富に含む食事を摂取している人たちではリスクが43%低いという研究があります。なかでも、ルテインとゼアキサンチンを多くとっている人たちで最もリスクが低かったそうです(JAMA誌の1994年11月号に掲載)。
さらに、こうした食品成分は、眼精疲労、目のかすみといった日常的な目の不調対策にも役立ってくれます。
例えば、「目の疲れの軽減」「目の使用による肩・腰の負担を軽減」「ぼやけやかすみの緩和」「ピント調節をサポート」などと表示する目を守る機能性食品として申請されている食品関連成分と、その1日当たりの摂取目標量は次のようになっています。
●カロテノイド
【ルテイン・ゼアキサンチン】 ルテイン10㎎・ゼアキサンチン2㎎入りが多い
【アスタキサンチン】 6㎎入りが多い
【クロセチン】 7.5㎎入り
●ポリフェノール
【アントシアニン(ビルベリー由来)】 40㎎以上入りが多い
【アントシアニン(カシス由来)】 50mg入り
日常的にスーパーに売っている食品で比較的とりやすいのは、ルテイン・ゼアキサンチンと海産物に多いアスタキサンチンでしょうか。
まずルテイン・ゼアキサンチンですが、含有量が飛び抜けて多いケールだと、100gにルテインとゼアキサンチンの合計で約40㎎も含まれるとするデータもありますが、ほうれん草だと100gに4~8㎎くらい、ブロッコリーは1~2㎎程度とする報告が多いようです。
ケールの青汁などだと手軽にとれそうな量ですが、ほうれん草やブロッコリーは日常的に食事に取り入れることで目を守る一助にする、という考え方がいいのではないでしょうか。
アスタキサンチンの6㎎は、紅鮭約200gくらいでとれますが、それでも2人前くらいは食べる必要がありますね。オキアミ(小エビ)だと30g程度でとれるようですが、乾物で売られている干しアミエビがだいたい一袋30gで売られていることを考えると、やはりこれで毎日十分量をとるのは難しそうです。
ほかにアスタキサンチンは、キンメダイやイクラ、カニなどにも含まれます。
こちらも、ルテイン・ゼアキサンチンを含む食材同様、日常の食生活に積極的に取り入れるようにするというくらいの付き合い方がいいのでは。
もう一つのカロチノイド、クロセチンはタクアンなど黄色い食品の色付けに使われるクチナシや、パエリアに使うサフランの色素成分です。こうした食品を食べるときに、思い出してください。

ポリフェノールのアントシアニンはどうでしょう。
実の中まで濃紫色でブルーベリーの野生種であるビルベリーは冷凍での販売が主ではないでしょうか。もし手に入れば、10~20gくらいで40㎎のアントシアニンはとれそうです。また、カシスは青森が一大産地ですが、旬のカシスを見つけたら食べてみましょう。50gくらいでアントシアニン50㎎はクリアできるとのこと。
ここに挙げた食品は、いずれもサプリメントなどの健康食品にもなっていますので、試してみて実感があったら、このような便利グッズを使うのも手です。
最後に、改めて目を守るポイントとなる生活習慣を確認しておきましょう。
米国で20年間にわたって数千人の人たちを追跡した研究で、視力低下の3大原因とされたのは、「喫煙」、「飲酒」、「運動不足」でした(Ophthalmology誌の2014年5月2日に公開)。つまり、生活習慣病の大きなリスクになる生活行動は、やっぱり目にも悪いということです。
最近、世界的に著名な医学ジャーナルBMJ誌に、非常にユニークな研究が発表されました。IT社会のさがともいえる不調ドライアイに“笑い”が効果的だというのです。
283人のドライアイ患者が、「ヒヒヒ、ハッハッハー、チーズ、チーズ、チーズ」といったフレーズを口にしながら5分間笑うエクササイズをする群と、ドライアイ用の目薬を1日4回さす群に分かれて8週間過ごしました。
すると、ドライアイの改善効果はどちらもほぼ同じだったとのこと(BMJ誌で 2024年9月11日に公開)!
慢性的な眼精疲労やドライアイの裏には、笑いを失って、緊張感やストレスの多い生活も潜んでいそうです。
このコラムを読み終わったら、まず画面から目を上げ、肩をほぐし、無理にでも笑顔を作ってみてくださいね。
西沢邦浩
日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。
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