肥満以上に注意が必要?! 「やせ過ぎ」のリスクとは ~“ちゃんと朝ご飯”からはじめよう~

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。4月のテーマは「やせすぎのリスク」について。

2024年4月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

BMI18.5未満の人には警戒信号が灯っている

前回は、太りやすい食事がテーマでした。肥満では特に、BMI以上にお腹まわりのサイズの大きさが問題だということを再確認しておきたいと思います。

今回のテーマは、その反対の「やせ過ぎのリスク」についてです。特に日本人はやせ(BMI18.5未満)には肥満以上に気を付ける必要があるともいえます。なぜなら、やせは心身の活力が低下して要介護リスクが高い状態であるフレイルになりやすかったり、免疫が低下したりする傾向があり、死亡リスクも肥満以上に高くなるからです。

実際、日本人を含むアジア人110万人以上を対象に、BMIと死亡リスクとの関連を調べたところ、BMIが22.6〜25.0の人と比較して、BMIが20.0以下の人では、全原因を合計した死亡リスクが高くなっていました。反対にBMIが高くてもやせほど死亡リスクは上がっていなかったのです(New England Journal of Medicine誌2011年2月24日号に掲載)。

特に、継続的に体重が低下しつつあるという人は要注意です。今年、日本各地に住む40 ~ 69 歳の約6.5万人を20年以上にわたって追跡した調査の結果が報告されましたが、長期にわたり体重減少傾向がある人は最も死亡リスクが高くなっていました(下図)。中でも、飛び抜けて高かったのが呼吸器疾患による死亡リスクです。中には、病気によって体重減少があった人も含まれるとのことですが、いずれにしても体重が減り続けている時は注意が必要です。

(データ:国立がん研究センター「肥満指数の変化と死亡リスクとの関連について」より。

グラフ中の囲みケイは著者によるhttps://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/9375.html

今、日本では大きく分けて、2つの層でやせが問題になっています。

一つは、食が細くなる高齢層のやせ。もう一つは「シンデレラ体重」といわれるほっそり体型に憧れる若い女性のやせです。

それぞれの現状と対策を見ていきましょう。

「高齢層のやせ問題」 ~フレイルとダブルにならないように~

■高齢者のやせリスク

まずは高齢者のやせ問題から。高齢者で怖いのはやせでフレイルにもなっていること

亀岡市の約1万人を5.3年追跡した研究では、BMI18.5未満でフレイルの高齢者では、BMIが21.5~24.9で健康な人に比べて死亡リスクが3.62倍になっていました。BMI18.5未満でフレイルがないやせでも死亡リスクは1.89倍でしたが、高齢者の場合、特にやせと同時にフレイルにならないよう心掛ける必要があるのです(Clinical Nutrition誌2024年2月号に掲載)。

フレイルという概念には認知機能も含まれますが、中年期から老年期にかけてのBMIの低下は、認知症のリスクを1.14倍にし、アルツハイマーに限ると1.20倍にするという報告もあります(Journal of Alzheimer’s Disease誌2014年8月11日号に掲載)。

皆さんは、5つの項目で行うフレイルチェック(2020年改訂日本版CHS基準)をご存じでしょうか。

体重減少 

 6カ月で2㎏以上の(意図しない)体重減少があるか

筋力低下

 握力が、男性で28㎏未満、女性で21㎏未満

疲労感

 わけもなく疲れたような感じがする(ここ2週間の評価)

歩行速度

  1.0m/秒(3.6㎞/時間)未満

身体活動

  ①軽い運動・体操も、②定期的な運動のどちらも「週に1回もしていない」

これらのうち、3つ以上に当てはまったらフレイル、1から2に当てはまったらプレフレイルとされます。握力については握力計がないと測定が難しいですが、他の項目はチェックが可能ですので、ぜひ一度ご家族でやってみてください。高齢者だけでなく、40代、50代の中年でも高リスクの人が増えているという報告もあります。

重要なのは、栄養面だけでなくフレイル予防のためには、筋力を維持するための身体活動も必要になること。1回5分でもいいので、週2~3日スクワットや腕立て伏せなどの筋トレを行うのがベストですが、それはちょっとという方は「ウォーキング時間を増やすこと」と「少しでも座り続ける時間を減らすこと」を目標にしましょう。

■食による高齢者のやせ対策

低栄養とフレイルの予防、両方に役立つのが「十分なたんぱく質を含んだ朝食をとること」です。

もちろん、低栄養の高齢者には3食を通して摂取カロリーを増やし、そこに含まれるたんぱく質の量も増やしてほしいところです。実際、川崎市で高齢者約1000人を対象に行われた研究では、肉や魚からたんぱく質を多くとっている人ほど死亡リスクが低下することがわかっています(BMC Geriatrics誌2023年8月9日号に掲載)。

中でも、同じたんぱく質量をとっても昼食や夕食に比べ、筋肉量が効率的に増えるというデータもあるのが朝食です(Cell Reports誌2021年7月6日)。それにもかかわらず、65歳以上の5~7割以上で朝食のたんぱく質が不足しているのです。3食すべてに気を遣うのは難しくとも、朝食で意識的にたんぱく質摂取量を増やすだけでも、やせとフレイルのリスク低下に役立ちます。

歳をとると、胃のPHが下がるのに伴って消化力が低下し、もたれやすくなったりすることもあるので、朝食に卵、牛乳、豆乳、ヨーグルトや加工度が高い練り製品(カニかまぼこなど)といった食べやすい食品を加えてはいかがでしょうか。

こうした食品1食分(手の平にのるくらいの量かコップ1杯)でおよそ約6~8gほどたんぱく質摂取量が増やせます。

たんぱく質以外にも、ビタミンDやカルシウム、ω3脂肪酸(魚油等)、ビタミンE、ビタミンC、葉酸もフレイルリスクを下げるという研究結果がある栄養素ですが、対策としてはなるべく多くの種類の食品をとることを意識するのが現実的かと思います。それもなかなか難しいという場合は、高齢者向けの総合栄養食品(特別用途食品)など栄養サポート食の利用も考えましょう。

ちなみに、フレイル研究をする早稲田大学の宮地元彦教授が摂津市で行った保健指導では、「朝食でのたんぱく質の摂取量を増やし、1日に合計10gのたんぱく質をプラス」し、「スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングを1日10分程度行う」という二つの組み合わせを2カ月続けてもらったところ、6~7割の方がフレイルからの脱出に成功したそうです。

「若い女性のやせ問題」 ~将来の健康にも赤ちゃんにも大きなリスク~

令和元年の「国民健康・栄養調査」では、日本人女性の約10人に1人がBMI18.5未満のやせ、そして20代では20.7%、5人に1人がやせという結果が出ています(下グラフ)。シンデレラ体重とも呼ばれ、「やせていたほうが美しいと思われる」というやせ願望を持つ方も多いようですが、これはいわば社会が作った“病”です。「やせなきゃ」という気持ちを過剰にあおるような商品や広告の罪も重いのではないでしょうか。

(データ:令和元年国民健康・栄養調査結果の概要より https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14156.html

若い女性がBMI18.5未満のやせである場合、慢性的な疲労、冷え症や肩凝りといった不調が出やすくなり、無月経になって骨粗鬆症のリスクが高まるといったダメージが生じます。

やせの20代日本人女性に食後高血糖になる耐糖能異常が多かったという衝撃的な報告もあります。標準体重の女性では耐糖能異常の割合が1.8%だったのに対して、やせの女性では13.3%と約7倍も高かったのです。これまでどちらかという中年以降の男性に多かった2型糖尿病の予備軍が若いやせた女性に増えているのは大問題(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌2021年5月号に掲載)。

その原因として、この研究を行った順天堂大学の研究班は、食事量が少なく、運動量も少ないため骨格筋量も減少していることが原因ではないかとしています。

若い女性ではBMIが低いと乳がんリスクが高いという、19件の研究約76万人分のデータを分析した結果も報告されています。25〜34歳では、BMIが5増加する度に乳がんリスクは15%ずつ低下していました(JAMA Oncology誌 2018年11月8日号に掲載)。

健康面でやせのメリットはほとんどありません。

さらに、やせた女性からは体重が2500g未満の低生体重出生児が生まれることも多くなりますが、子どもが低体重で生まれると、将来、糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高くなるという研究が多数発表されています。

つまり、本人の健康に悪影響があるだけでなく、そのお子さんにも影響が及ぶ可能性があるのです。

そろそろ、過度なやせ願望が消えていくことを願ってやみません。

やせの原因は明快。とにかく、若い女性は食事から十分なエネルギーがとれていません。

令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、20代女性の平均摂取カロリーは1日1600kcal、30代で1673kcalしかありませんでした。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、身体活動レベルが「ふつう」の女性の1日当たりのエネルギー必要量が20代で2000kcal、30代で2050kcalとなっていますので、400kcalも足りていません。

さらに、東京の丸の内で働く20代~30代の女性1000人を対象に、栄養状態を調べた調査では、不足している人がほぼ9割を超える栄養素が、たんぱく質、食物繊維、鉄、カルシウム、ビタミンB1と5つもあったそうです(「まるのうち保健室」調査より)。

これはいずれも、女性の健康維持に欠かせない栄養素ばかり。

■食による若い女性のやせ対策

実は、若い女性でもやせ対策の第一歩は、高齢者と一緒です。つまり、きちんと朝ご飯をとることです。

「まるのうち保健室」だけでなく、全国各地で働く女性のための保健室を運営するラブテリによると、20代~30代の女性がカロリー不足になっている最大の要因は朝食抜きだといいます。朝食欠食率を調べたところ、東京・丸の内で働く女性で36%、名古屋市28%、大阪市38%、京都市29%、札幌市44%にも及んでいたとのこと(2018年12月3日に「日経クロスウーマン」に掲載された記事「現代女性は“栄養失調で痩せ過ぎで体がサビている”」より)。

では忙しい朝に何を食べたらいいか。

ご飯(できればもち麦や玄米・雑穀などが入ったご飯)に味噌汁(できれば根菜などを含んだ具だくさん味噌汁)、納豆やサケなどの焼き魚といったたんぱく源、ほうれん草のお浸しなどの野菜系副菜がつく朝食ならば最高ですが、そうもいかないのが現実でしょう。

その点、オーツ麦、大麦をはじめとした食物繊維たっぷりの雑穀類をベースにしたシリアル食品は便利です。最近は、豆類やナッツなどたんぱく質量を増やした製品も増えています。これに、牛乳や豆乳、ドリンクタイプのヨーグルトなどをかけて食べれば、必要な栄養素が総じて補えます。

そもそも米国やカナダでは、シリアルには葉酸をはじめとするビタミンB群などが国の指導で添加され、ほとんどの牛乳でとりにくいビタミンDが強化されています。つまり、朝、シリアルに牛乳をかけて食べることで、最低限の栄養摂取が担保されるようになっているのです。日本でも、食物繊維やたんぱく質の不足を補うようにデザインされた製品がいくつも登場しているので、かなり使い勝手のいい食品ジャンルになったのではないでしょうか。

世界の栄養界で使用されているNRF(The Nutrient Rich Foods ) Indexという食品評価指標があります。不足に気を付けるべき9つの栄養素(タンパク質、食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム)をどれだけ含むかと、とりすぎに気を付けるべき3つの栄養素(飽和脂肪、糖類、ナトリウム)の含有量を総合的に評価した指標です。よい栄養の密度が高い食品の指標といってもいいでしょう。

例えば、米国で販売されている食品の分析では、コストパフォーマンスがよく、栄養密度が高い食品として、柑橘類をしぼったジュース、牛乳、栄養強化済みシリアル、ジャガイモ、野菜類、果物類、豆類、卵などが挙げられています(American Journal of Clinical Nutrition誌2010年4月号掲載の記事など)。

日本ではここに魚介とその加工品も入ってくるのではないかと思いますが、低栄養&やせ防止食品選びの参考にしてください。

ちなみに、世界中の栄養データを分析した研究では、寿命を伸ばす食品摂取のベスト3が、「1位 豆類を増やすこと」「2位 全粉穀物を増やすこと」「3位 ナッツ類を増やすこと」となっています。

これら食品は、朝食用シリアルにも含まれますが、豆やナッツは間食にも適しています。朝食を抜きがちな人や食が細くて3食では十分なカロリーや栄養素がとれないという人は、こうした食材を含んだ間食も積極的に食べてくださいね。

今回のまとめ。

やせを防ぐための食事法や食べ方のコツは、年齢やその人のタイプによってもいろいろありますが、このコラムで総ざらいするのはスペース的にも不可能です。

まずは、高齢者でも若い女性でも3食を食べて欠食を避けること、そして、3食の中でも特に重要な意味を持つ朝食をきちんととることから始めていただくのがいいのではないでしょうか。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。