頭の老化を防ぐ夢の食品はある?

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。第4回目のテーマは、受験シーズンにはますます気になる、脳の認知機能や老化と、食の関係です。

2021年1月

健康医療ジャーナリスト 西沢邦浩

 「頭脳パン」をご存じでしょうか。

 このパンの名前の強烈さも手伝って、子供心にも「そんなうまい話(都合のいいパン)はないんじゃないかな?」と半信半疑ながらも、心ひかれたものです。
どんなパンかを紐解いてみると、1960年に提唱された「通常の小麦粉にビタミンB1を100gあたり0.17㎎以上配合した“頭脳粉”」を原料にしたパン、というのが定義。

 脳のエネルギー源であるブドウ糖の代謝にビタミンB1が不可欠なことから、ビタミンB1入りのパンを食べて、脳にしっかりエネルギーを供給しよう、というわけです。

 ですから脳にエネルギーに供給した後は、やはり努力は不可欠ということですね。

 今も製造しているメーカーがある懐かしいパン。この名前を見ると、思うように勉強がはかどらなかった昔の記憶も蘇り、ちょっと目の奥がむずむずしてきます。

 さてでは、現代の医科学で脳の働きがよくなったり、その老化を防ぐことに役立つことがわかってきている食品や食品成分はあるのでしょうか?

脳の老化を防ぐためには、いろいろな食品を食べよう

 まず基本として押さえておきたいのは、「多様性に富んだ食事をする習慣を持っている人ほど、脳の老化がゆっくりになるらしい」ということです。つまり、偏りのある食生活を送らず、いろいろな食品を食べる方が脳にいいのですね。

 国立長寿医療研究センターが、40~89歳の日本人約1700人に脳のMRI検査を行って、記憶や空間学習能に関わる海馬と神経細胞が集まっている灰白質の容積を計り、2年後に再度同じ検査をして比べたところ、いろいろな食品を食べている人(食事多様性スコアが高い人)ほど海馬も灰白質も容積の減少が少なく、委縮も抑えられていたのです。

 この結果は2020年秋に、栄養学分野の世界的な学術誌で発表されました。
2016年に結果が発表された、宮城県大崎市に住む65歳以上の男女1万5000人弱を7年間追跡した研究では、米、味噌汁、海藻、漬物、野菜、魚、緑茶といった日本食の代表的な食材をしっかりとる食生活をしている人ほど認知症の発症リスクが低いという結果が出ました。

 これは、ただ日本食を食べているということではなく、日本食を構成するヘルシーな食材を幅広くとっている人でいい結果が出たとみるべきでしょう。

緑茶など抗酸化力が強い飲料や食品を意識してとる

 なかでも脳の健康の味方になってくれそうな2大食品群が、色や香りの豊かな野菜・果物・お茶といった抗酸化力が強い食材と、脳にいい油DHA・EPAを含む魚です。

 抗酸化力が強く私たちとの付き合いが長いものの代表といえば、日本人が毎日飲んできた緑茶ですね。前述した大崎市の人たちを追跡した研究を緑茶との関係だけに絞って分析すると、1日5杯以上緑茶を飲んでいる人たちの認知症発症率は、1杯未満の人たちに比べて27%低かったというのです。

DHA・EPAだけでなくビタミンDにも注目

 魚のDHA・EPAは有名ですね。 「おさかな天国」という歌を耳にしたことがない、という人はいないのでは? 「サカナを食べると~アタマがよくなる♪」というストレートな歌詞は一度聞くと忘れることができないほど印象的です。

 実際に、DHA・EPAを機能性成分として、記憶力、注意力、判断力などを維持するといった機能性をうたう機能性表示食品も数多く出ています。ちなみに、DHA・EPAと並んで多いのがイチョウ葉のポリフェノールを配合した商品。こちらは脳の血流を改善して、記憶力を維持する、という表示をされていますが、イチョウ葉は食品として食べられるものではないので、サプリメントが選択肢になります。

 その点、DHA・EPAをとるなら魚食が一番。

 中国で60歳以上の約7000人が参加した研究に世界の11の研究を加えて計3万4000人分のデータをもとに、魚食と認知症の関係を検証したところ、最もよく魚を食べる人たちは、最も食べない人たちに比べ約33%認知症発症率が低くなっていました。三度目の登場になる大崎市の研究でも、魚の摂取量と認知症の関係を分析しています。やはり、一番よく魚を食べている人たちは食べる量が最も少ない人たちに比べて、16%認知症リスクが低くなっていました。一番多く食べている人たちは、女性で1日85.7g、男性で96.4gより多く食べている人たちなので、およそ毎日一切れ程度以上魚を食べているということになります。

 また、魚食が脳にいい背景には、魚油だけでなく魚に多く含まれるビタミンDの影響もあるのではないかと思われます。

 世界の5つの研究を分析したら、血液中のビタミンD濃度が欠乏域にある人は、通常域の人に比べて認知症リスクが1.54倍高かったという結果も出ています。ビタミンD不足を避けるためにもしっかりお魚を食べましょう。少し前のコラム「今、最も気にしたいビタミンとは?」も読んでみてくださいね。

しっかり体も動かして

 脳を守る働きが期待できる食品をとることも大切ですが、実は、体を動かすことも脳にはとても重要です。寒いからとこもりっきりになっていませんか?

 運動と認知機能に関して調べた80もの研究を統合して分析した結果、どんな運動でもやれば効果があるが、複雑な動きを伴う運動や他のプレーヤーとのやり取りが必要なスポーツは、はるかに効果的ということがわかりました。

 1日約10~20分の適度な身体活動を続けているだけでも認知機能にプラスというデータもありますが、少しでも長めに運動するようにしたほうが、より長い期間にわたって認知能力が守られるようです。

 さあ、寒がっていないで体を動かしましょう。そして、心地よくお腹がすいてきたら、滋味あふれる野菜や果物、お魚もよりおいしく感じられることでしょう。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。