紫外線の肌や目に対する害を和らげてくれる“食べるサンスクリーン”とは?!


『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。7月のテーマはこれからの季節切実な「紫外線対策」。食べるサンスクリーン情報をお届けします。

2023年7月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

紫外線の浴びすぎは老化のもと、でも適度な日光浴も大切

いよいよ夏本番。

5月から7月は特に紫外線が強いので、太陽光に注意が必要です。

私の青少年時代は、夏になったら勇んで海水浴に繰り出し、全身にサンオイル(紫外線カットじゃなくてきれいに焼くためのオイル)を塗って、小麦色に肌を焼くというのが人気でした。男女問わず、日焼けした肌がモテるという、今から考えれば恐ろしい時代だったのです。で、街はサーフィンもやらないのに肌だけ黒くして「サーファールック」に身を包んで歩いている若者でいっぱい・・・・・。

ご多分に漏れず、都会に出てきたばかりの私も、軟弱な田舎者と思われぬようにと夏は真っ黒になっていました。そういうところがお上りさんだ、ということに気付く知恵もなく。

それから〇十年。当時、日焼けするがままにしていた顔や肩には数えきれないシミ。そして、額には幾重ものシワ、口元にはほうれい線がくっきり・・・・。

我が同世代には、今になって、若い時代の蛮行を悔やんでいる方々が大量にいることでしょう。やれやれ。

その後、世界中で警鐘が鳴らされたように、“紫外線は皮膚の老化を進める元凶(光老化という)”というのを身をもって知ったというわけです(泣)。

紫外線B波(UV-B)は、シミや皮膚がんのリスクになり、より肌の深部に達する紫外線A波(UV-A)はコラーゲンやエラスチンという肌の土台にダメージを与え、シワやたるみの原因になります。近年では、紫外線より波長が長い可視光線ブルーライトも肌や目の網膜にダメージを与えることがわかってきました。

このように、紫外線に代表される太陽光はどちらかというと避けるべきというトーンが強くなっていることを受け、今回は食による紫外線対策もあるということをお伝えしたいと思います。

ですが本題に入る前に、浴びすぎは確かに害をもたらしますが、太陽光が私たちの健康維持に欠かせないものだということは心にとめておきたいところです。

紫外線は骨の健康や免疫維持などに欠かせないビタミンDを作るために欠かせません。また、紫外線の隣の波長域にある「バイオレットライト」が目の網膜周辺の血流を促して近視の予防に大切な役割を持つこと、ブルーライトを朝浴びることが体内時計のリセットに欠かせないことなどがわかってきています。太陽光を浴びる人は抑うつになりにくいという報告もあります(PLoS One誌2021年7月16日など)

適度な日光浴は私たち人類の健康維持に重要な役割を担ってきたのです。

ブルーライトは紫外線が強くない朝浴びることが大切ですし、バイオレットライトは直射日光を浴びずとも、屋外のひさしの下などで遊んでいれば近視予防に役立ってくれると報告されています(特に近視が進む時期の子供たちに)。強い直射日光を浴びる必要はないのです。

適度な紫外線照射時間はどのくらいかは、国立環境研究所地球環境研究センターの「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」というサイトが参考になります(https://db.cger.nies.go.jp/dataset/uv_vitaminD/ja/index.html)。

毎日、日本人の平均的な肌で、「どのくらいの時間太陽に当たれば必要なビタミンDが作れるか(ビタミンD生成紫外線照射時間)」、「皮膚がひりひりして赤くなる有害な紫外線量になる時間(紅斑紫外線照射時間)」が地域ごとにアップされています。

今年6月20日ではどうだったかを関西の計測地点の一つである「大津局」のデータで見てみましょう。午後の3時くらいで、22分間日に当たっていれば必要なビタミンD量が作られることがわかります(顔と両手の甲、さらに腕、足を出した状態=1200㎠相当)。一方、日がだいぶ傾いたこの時間帯でも102分外にいると有害な紫外線量になってしまうのです(下図)。

夏の日中は、短い時間で十分ビタミンDが作られますので、日が高いうちはしっかり紫外線対策をするのがよさそうですね。

標高が高い場所(標高が1000m上昇するごとに、紫外線量が10~12%増加)、海や湖(水面で反射した紫外線が加わり、10~20%増加)などに出かけるときは特に気を付けましょう。

ブドウ、トマト、ホウレン草、ケール、ニンジン、パプリカ、サケ、桜エビ・・・・
紫外線の害を軽減できる食品も!

紫外線対策の第一は、なんといってもUVケア商品(日焼け止め)の利用です。これについては、いろいろなところに選び方・使用法が記されているのでご確認ください。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: pixta_77478788_S.jpg

食品では、ビタミンCやE、ポリフェノールといった抗酸化力の強い成分を多く含む食品をとるようにしましょう。紫外線が発生させる活性酸素とそれによる酸化、炎症を抑えるように働きます。こうした成分を含む食材の代表には、野菜や果物、ナッツなどが。

薬局・ドラッグストアには、抗酸化ビタミンの代表・ビタミンCを500mg以上含むシミ・ソバカス対策の飲み薬も多く並んでいます。ビタミンCを食品からとろうと思ったら、野菜ではキャベツ、ブロッコリー、果物でキウイ、イチゴなどが効率的です。

ポリフェノールでは、りんご由来プロシアニジン入りの商品が「紫外線刺激から肌を保護するのを助ける」機能性表示食品として発売されています。有効量は55 mgとされているので、100g中に40㎎のプロシアニジンを含むという報告があるフジだと3分の1個以上食べるとだいたいその量がとれそうです。残念ながら、りんごは紫外線が強い夏季は季節外れの果物ではありますが。

この時期に旬を迎える果物といえばぶどう。2週間毎日、半房相当(2カップ)のぶどうをとることで日焼けに対する抵抗力が増加、紫外線による損傷から肌が保護されたという報告や、このくらいの量のぶどうに相当するぶどう粉末を2週間摂取したら、UVブロック能がアップし、DNAダメージが減少したとする研究もあります(Antioxidants誌2022年11月30日、Jounal of the American academy of dermatorogy誌2021年1月20日)。ぶどうは、半房から2/3房程度食べるとよさそうです

ビタミンやポリフェノール以上に、紫外線から肌を守るというデータが多い食品成分があります。それは、色素成分のカロチノイド類。

特に研究が多いのが、夏を代表する野菜、トマトの色素成分リコピンです。

リコピンがUV-AもBの害も抑えることを確認した研究や、1日15㎎のリコピン摂取で、4週間後に目の周りの小ジワが25%、深いシワも14.8%減少したとする報告などいろいろ(Journal of Cosmetic Dermatology誌の2023年3月1日号など)

リコピンは「紫外線の刺激から肌を保護するのを助ける」機能性表示食品としても販売されています。健康食品・サプリメントは12~16㎎の摂取量でこの機能性を表示しているものが多いのですが、生鮮食品でも200gの摂取で“必要な量の半分に当たる8㎎”のリコピンがとれる、とするトマトや高リコピン含有ニンジンが販売されています。

レッドタイプトマトで100gに9.51㎎のリコピンが含まれるとするデータもあるので(「農業および園芸」誌2017年第 92巻 第 10号)、紫外線対策として、毎日大きめのトマト1個(200g程度)をめどに食べてみてはいかがでしょうか。

リコピンは、トマトを加熱して食べたり、油と一緒に摂取すると吸収率がアップすることが確かめられていますので、ちょっとひと手間を。

 もちろん、トマトジュースやペーストなども便利。ジュースだと主要な製品で100g当たりに8~15㎎のリコピンが含まれるので、生鮮トマトより効率がいいといえます。

 リコピン以外に、「紫外線から肌を守るのを助ける」として機能性表示食品の成分になっているカロチノイドと有効量、生鮮食品100gに含まれる量を下記にまとめました。

●アスタキサンチン(4mgの摂取)

4㎎で「肌のうるおいと弾力を保ち、肌の健康に役立つ」という機能性も受理されています。

生鮮食品では、サケ100gに0.3~4㎎(「農業および園芸」誌2017年第 92巻 第 10号)、生桜エビ100gに7.15㎎含まれます(静岡県環境衛生科学研究所による)。

●キサントフィル(パプリカ由来、9㎎の摂取)

赤パプリカ100gに3.75㎎含まれます(生鮮の機能性表示食品より推計)。

●ベータカロテン(24 mgの摂取)

皮付きニンジン100gに6.9mg、ホウレン草に4.2㎎、ケールに2.9㎎含まれます(食品成分データベース 文部科学省)。

紫外線やブルーライトは肌だけでなく目の網膜にもダメージを与えるので、網膜の中心にあってものを見るために欠かせない黄斑部の色素を増やすカロチノイド「ルテインとゼアキサンチン」を多く含む食品も意識してとりたいところ。

この2種類のカロチノイドは、ホウレン草やケールに多いので一石二鳥。これらの野菜を多めにとれば、肌と目の双方を太陽光のダメージから守るサポートをしてくれます。

UVケア食品を食べるタイミングや効果が表れるまでの期間は?

さて、こうした“食べるUVケア”は、どう食べるのがいいのでしょうか?

だいたい2~3週間食べ続けると、血中を十分な量の機能性成分がまわっている状態になるので、①日差しが強い季節はほぼ毎日、UVケアサポート食品のどれかを食べるのがベスト。毎日が難しい方は、②日差しが強い場所に行く2週間前くらいからは毎日食べるのがお勧めです。

でも、「このところそういう食品をとっていなかったけど、2日後に海に行くことになった!」という非常事態に直面する方も多いことでしょう。

だいぶ前、日経ヘルス誌で「紫外線からお肌を守るには夜トマト」という記事を掲載したところ、大きな反響を呼びました。取材で得た「トマトを食べてからリコピンが肌に到達するまでに6~8時間かかる」という研究者のコメントを元に、次の日にお肌を紫外線から守るためには夜のうちに食べておくのがいいよ、という提案をした記事でした。

ただし、トマトを朝食べると一番リコピンの吸収や体内での利用効率が高いという報告もあります。また、食品成分によって、肌への到達比率が異なり、例えばリコピンも肝臓や副腎といった器官に優先的に蓄積する性質を持っています。

しっかり肌まで届けることを考えると、やはり、「日差しが強い季節はほぼ毎日意識して食べる」というのがいいですね。

最後に一言。

睡眠不足を含めた生活リズムの乱れは紫外線のダメージを大きくします。食事も同様。食事時間を狂わせると、肌のUV防御力が低下することがわかっています(Cell Reports誌2017年8月1日)。

どんな季節でも、体のパワーをしっかり引き出すためには、生活リズムを整えてできるだけ毎日同じ時間に食事をとること、そして十分な睡眠が基本です。

どうぞこんな点に留意して、久しぶりに可能になった夏の野外活動を大いにお楽しみあれ!

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。