うつうつやたまるストレスの放置は厳禁 新鮮な果物やGABAが多い食品をとり入れて

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマはストレス解消につながる食生活や食材。無理なく取り入れて気持ちを健やかに過ごしましょう。

2023年5月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

転勤、異動、入社、入学……4月から環境が変わったという方もいらっしゃるのでは。こうした変化は、本人はもちろん家族や職場にも影響を与えますね。連休明けくらいから増えてくるいわゆる五月病も心配です。

新しい日々は緊張感もあるかと思いますが、それを心地よいと感じているようなら誠に結構。よいストレスがないと、ヒトは成長したり、強くなったりすることができません。

私たちには、適度なストレスがかかると、それに促されて心身の抗ストレス能を高める仕組みが備わっているのです。こうした働きをホルミシスといいます。運動もそうですね。少し無理をするから、体が鍛えられる。居心地のいい快適な世界(コンフォートゾーン)をちょっと飛び出す勇気が私たちを成長させるんですね。

一方、しんどいストレスは少しでも軽減したいもの。

ダメージが残るストレス状態が続くと、疲れが抜けず睡眠が乱れたりするばかりか、心理的ストレスによって腸で作られる免疫物質(デフェンシン)が減少し、腸内細菌叢まで悪化することがわかっています(scientific reports誌の2021年5月10日号に掲載)。

慢性的なストレスがある人では、加齢が進行し、血糖コントロールが悪くなることや認知症リスクが高まる場合もあるという穏やかでない研究報告もあります(translational psychiatry誌2021年11月27日号、Journal of Alzheimer’s Disease誌2021年8月17日号)。

ストレスは万病のもとというのもむべなるかな。

ストレス源を避けられればいいのですが、社会環境が原因となる場合はそう簡単にいかないもの。少しでも、食を通してストレスが軽減できそうな方法を見ていきましょう。

ストレスを軽くする食生活の基本2カ条

まずは、食事を規則的な時刻にとるようにしてみましょう。

食事時刻が不規則な人にはメンタル不調者が多いという、約4000人の日本人を対象にした調査結果があります。食事時刻が不規則な人は、「身体活動の頻度や主観的健康感が低い」「睡眠障害のスコアが高い」「メンタルヘルス状態が不良」と、悪いことずくめでした(Nutrients誌の2021年8月13日号に掲載)。

食事のリズムは想像以上に、私たちの心の状態に影響するようです。

次に、ちょっと意外かもしれませんが、塩分を控えめにしてみましょう。

塩分を多く含む食事が、脳のストレス中枢に刺激を与えることで、ストレスレベルを高める可能性が指摘されています。マウスの研究では、高塩分食がストレスホルモンのレベルを75%も増加させました。しかも、安静時のストレスホルモン値が高くなっただけでなく、ストレスを加えたときのホルモン反応が通常の食事をしているときの2倍に跳ね上がったそうです(Cardiovascular Research誌の2022年11月11日号に掲載)。

血圧への配慮も含め、減塩は一石二鳥です。

ストレス軽減に役立つ食品と食品成分

個別の食品や成分でストレス低減作用が確認されているものもあります。

まずは果物。

みずみずしい果物にかじりつくと爽やかな気分になりますが、果物を食べる頻度が高い人ほどうつ病のリスクが低く、精神的幸福感が高いという研究報告があります。逆に、スナック類をよく食べる人では不安を訴えるケースが多かったとのこと。(British Journal of Nutriton誌の2022年5月26日号に掲載)。

果物や野菜を加工せずに生で食べるようにするだけでも、うつリスクが下がって「やる気度」が増すというデータも。生食量が増えるほどハッピー度が高まるようです。ニンジン、緑の葉野菜、トマト、グレープフルーツ、ベリー類、キウイなどがいいということですが、特にうつ抑制作用が強く出たのは2種類の果物、生のバナナとリンゴだったそう(Frontiers in Psychology 誌 2018年4月10日号に掲載)。

新鮮な果物類にはこんなパワーがあったんですね。

初夏は甘夏などが旬ですが、柑橘はぜひ、その香りもしっかり楽しみましょう。特に、オレンジ、ゆず、ライム、レモンなどの皮に多く含まれる爽やかな香り成分リモネンでは、感情面のストレス低減を見た試験が多くあります。

昨年3月のこのコラムで、「片手のひらに軽く一杯」食べるだけで健康効果が得られるとしてナッツをご紹介しましたが、ナッツも小さいながらパワフルな助っ人。例えばクルミでは、ストレスを受けている女性たちの中でクルミを毎日約半カップ食べた人たちでは、メンタル状態も睡眠の質も優位に改善したという報告があります(Nutrients 誌の2022年11月11日号に掲載)。

そして、魚。

日本人女性を対象に行った研究では、魚に多く含まれている「エイコサペンタエン酸(EPA)」の血中濃度が高い人ほど幸福感が高いという結果が出ています。EPAの代謝物は、幸福感を高める物質が働く神経回路によい影響を与えるようです(Nutrients 誌の2020年11月11日号に掲載)。

スーパーで毎日目にする食材たちの中には、ストレスから私たちを守ってくれる頼もしい味方が潜んでいるのです。

食品成分で注目はGABA

食品成分ではどうでしょう。機能性表示食品で「ストレス緩和」の機能性成分になっている成分を見ていくと、カロチノイドの仲間ルテイン・ゼアキサンチン、黒豆ポリフェノール、還元型コエンザイムQ10、乳酸菌類など多くの成分がありますが、一般の食品でもちょっと意識すると有効量がとれそうなのが、最も商品数が多い「ガンマ-アミノ酪酸(GABA)」です。

GABAは脳などで神経を落ち着けるように働く物質で、体内ではうま味成分として知られるL-グルタミン酸から作られます。食品からは28㎎以上とることで「ストレスや疲労感の緩和」に役立つとされています。ほかに、睡眠改善、血圧低下、肌の弾力維持といった機能性も受理されていますので、意識してとってみるのもいいかもしれません。

一般的な食品で多いものの代表としてトマト缶(100gに約100㎎)、ジャガイモ(100gに約40㎎、色が濃い橙黄色のジャガイモだと約70㎎、以上農研機構調べ)、種類によっても幅はありますがナス(100gに30~50㎎、愛媛県工業技術センター調べ)などが挙げられます。

また、生鮮食品(果物・野菜)で、それに含まれるGABAでストレス緩和の機能性表示を受理されているものには、メロン(アローマメロン、クラウンメロン、マスクメロン)も。

表示機能は「血圧低下」ですが、バナナ、トマト、ケール、エノキタケなどにもGABAの機能性表示食品がありますので、スーパー店頭で探してみてください。

品種によって含まれるGABA量は違いますが、ストレス緩和に役立つGABA量をとるには下記程度の摂取量が目安になるようです(機能性表示食品からの類推)。

●メロン 50~90g

●トマト 80~120g 

●バナナ 240~400g

また、野菜類の中には干すことでGABAがぐんと増えるものもあります。例えばダイコン。この欄の「旬の野菜の力をもらいに、スーパーに行こう(下)」の回で記しましたが、2週間ほどダイコンを天日干しにしてから漬けたたくあんにたっぷりGABAが入っていることが確かめられています。つまり、天日干しした切り干し大根でもOK。

GABAに似た成分では、お茶のうま味成分「L-テアニン」もあります。テアニンはGABAのもとになるグルタミン酸の仲間。約200㎎とるとストレスがやわらげられ、リラックスできることが確かめられています。お茶でも、日光を遮って育てる玉露、かぶせ茶に多いのですが、有効量の200㎎は玉露でちょうど200mlくらいでとれるようです。

ここまでストレス緩和に役立ついろいろな食品や成分に触れてきました。こういったものを上手にお使いいただきたい一方、どなたも経験があると思いますが、わくわくするような食べ物、大好きな1品などを無心に食べるなんてのが、案外ストレス解消によく効くものです。

昨年、日本人約3000人対象に行われた調査をもとにした「ストレスの解消方法ランキング」では、「食べる」が堂々の1位でした(https://bizhits.co.jp/media/archives/29876)。

たまには暴飲暴食もOK。

ただし、それが常習にならないようご注意を。  

最後に、もし喫煙習慣のある方がいたら、この機会にちょっと禁煙してみてはいかがでしょう。イライラして吸うタバコは逆効果といえそうです。

コクランライブラリーという国際的に定評のある機関の精緻な研究分析でこのような結果が出ています。

「少なくとも6週間禁煙することで、不安、うつ病、ストレスが軽減され精神的健康を改善する可能性がある」(Cochrane Libraryで2021年3月9日公開)

総計約17万人を対象とした102件の観察研究の分析結果なので、かなり確かな情報といえます。

食、そして入浴や心地のいい香り、適度な運動などでストレスに強い心身を目指しましょう。

5月は緑が濃さを増す薫風の季節。

生命力あふれる自然に耳目を傾け、ゆったり身を委ねれば、きっと体の奥から元気が湧いてきます。

西沢邦浩

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ客員研究員、サルタ・プレス代表取締役
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。