日本の一家団らんと健康を守ってきた「温州みかん」は、皮までエライ

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは「みかん」。骨との驚くべき関係から古人の知恵まで、冬に向けて必見の情報をお伝えします!

2022年11月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

蜜柑(みかん)たべてよい火にあたつて居る  尾崎放哉

俳句でみかんは冬の季語。「炬燵(こたつ)にみかん」の季節到来です!

と言っても、いまどき炬燵もなければ、ほぼ必ずと言っていいほどその上に置かれていた、みかんが山盛りに入った籠もないというお宅が多いかもしれません。

家族が集まる居間が和室だった時代は、冬の夕食後に、みんなで炬燵に足を入れて同じテレビ番組を見、その日あったことを話したりするのが多くの家庭の冬のならいだったのではないかと思います。

そんな時間に必ずと言っていいほど口にしていたのがみかんでした。

我が家もそうでした。寒い夜、炬燵に丸まって、前にも聞いた記憶がある父の武勇伝?にややげんなりしてうわの空で相槌を打ちつつ、家族で同じ歌謡番組やドラマを見ていたこと。次から次へとみかんを食べては皮を山積みにしていたこと。何十年も前の冬の日の光景は、今も鮮やかに蘇ります。

ついつい食べすぎて、気がつけば手の平がなんとなく黄色っぽくなってきて焦ったこともありました。その後、肌に黄色い色素がたまるほどみかんを食べることが健康維持に役立つことが明らかになっていくのですが、その頃はつゆ知らず。少年は食べすぎを反省していたのでした。

今回は、そんなみかんのお話。

みかんの色素β-クリプトキサンチンは体に溜まって効く

たくさん食べると手の平の皮下の細胞まで到達する「みかん色」の色素はβ-クリプトキサンチンといいます。温州みかんとその仲間のみかんに特徴的に多い、抗酸化力が強いカロチノイドです。

この成分が脚光を浴びたのは、温州みかんの産地、静岡県の三ヶ日町で行われた住民研究の結果がきっかけでした。冬の間、1日に何個もみかんを食べていた女性では、夏になっても血中のβ-クリプトキサンチン濃度が高いこと、そしてこの成分の血中濃度が高い更年期以降の女性は低い女性に比べ、骨粗しょう症のリスクが92%も低いことがわかったのです(PLOS ONEという学術誌の2012年12月の号に掲載)。

夏になっても血中濃度が高かったわけは、β-クリプトキサンチンは皮下組織などの細胞内に蓄積され、必要に応じて血中に出て働く性質があるから。つまり、“溜めがきく”成分なのです。

この研究がもとになり、β-クリプトキサンチンの骨を守る力が検証されました。そして、三ヶ日町で収穫し、一定の基準を満たした温州みかんは「骨代謝のはたらきを助けることにより、骨の健康に役立つことが報告されています」と記すことができる機能性表示食品として受理されることになったのです。これは2015年のことで、三ヶ日町の温州みかんは生鮮食品の機能性表示食品第1号でした。

骨の健康を守るために必要なβ-クリプトキサンチン量は1日 3mg以上。これを摂取するには、温州みかんを1日に3 個以上食べることが必要とされます。

その後、「広島みかん」をはじめ、日本各地の温州みかんで骨の健康を守る機能性表示食品が登場しています。スーパーの店頭で、機能性表示食品と書かれた温州みかんがないか、チェックしてみましょう。

また、三ヶ日町の研究では、高齢女性の骨の健康維持の他にも、900人以上を10年間追跡した結果、β-クリプトキサンチン濃度の高い人たちで見られた傾向として下記のような疾患の発症リスク低下が報告されています。

●メタボリックシンドローム

●2型糖尿病

●脂質異常症

●肝機能異常症

など

冬の日本家庭の定番フルーツ、温州みかんは家族団らんだけでなく、健康のかすがいにもなっていたのですね。

みかんの皮は実以上のお宝だった?!

「炬燵にみかん」ももはや懐かしい話かもしれませんが、みかんと私たちの深~い関係の歴史は皮にまで及びます。以前、食文化研究家の永山久夫さんにお話を伺った折に、こんなことを話されていました。「かつては、みかんの皮を縁側で干すのが日本の冬の風物詩だった。特に女性は思春期を過ぎると、血のめぐりをよくするために、干したみかんの皮を煎じたお茶を飲まされたものだった」と。

確かにみかんの皮は、漢方では「陳皮(ちんぴ)」という名称で、血流を良くして体を温めて風邪を防いだり、胃腸を調整したり、ストレスを軽減するといった効能が期待できる生薬になっています。身近なところでは、七味唐辛子に入っているのをご存じの方もいると思います。

こうした効能をもたらす成分は、皮やスジ、袋に多いヘスペリジンというポリフェノールの一種や、香り成分のリモネンなど。

薬のように大切に扱われてきたみかんの皮を捨ててしまうのはもったいないこと。「そうは言っても農薬も気になるし」という方もおられるでしょう。

そこで、皮を干して使う場合の処理法をお伝えします。

<みかんの皮の処理法>

①実のまま、水かぬるま湯に5分ほどつけ置きする。農薬・コーティング剤などが取れやすくなります。

②スポンジやブラシを使って、流水で皮の表面をよく洗う。こすり過ぎて皮をいためないよう注意。

これだけです。そもそも国産のみかんは、洗わない状態で皮ごと残留農薬の検査をし、基準値(人が生涯にわたって毎日摂取し続けても健康に害を及ぼさない量=ADIという)を超えたものは基本的に流通しないので、そんなに過敏にならず、是非一度使ってみてはいかがでしょう。

せっかくですから、“昔は思春期女子が飲んでいた”という「みかんの皮茶(陳皮茶)」のいれ方も記します。漢方薬局で生薬の陳皮を購入したときも、同じいれかたでOK.

<陳皮茶のいれ方>

①急須を温めて、干したみかんの皮もしくは陳皮を小さじ1(3g)ほど入れる。

②熱湯300mlを注ぐ。

③5分ほど蒸らして抽出する。

ふやけた皮はそのまま食べられますし、このお茶にハチミツなどを加えてもおいしくいただけると思います。

ちなみに、スジや袋にはペクチンという腸内細菌のエサになる水溶性食物繊維が多く含まれます。スジをきれいにとったり、袋を出したりしていませんか? 

ほんとに、みかんは捨てるところが見つからない、全身優れものフルーツですね。

骨の健康維持などみかんパワーをもらうには、1日2、3個以上を目安に。

冬は温州みかんだけでなく、ゆずやキンカンといった魅力あふれる日本ならではの柑橘の旬でもあります。例えば、爽やかなゆずの香りではストレス軽減作用を見た研究がいくつも行われていて、PMSに伴う倦怠感や気分障害に効果的という女性にうれしい結果も出ています。

今年は、柑橘を大切に利用してきた古人の知恵を紐解きつつ、親しく付き合う冬にしてみませんか。