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肉は効率的なたんぱく質源 脳と心の健康維持にも欠かせない

『日経ヘルス』『日経ヘルスプルミエ』の元編集長で、現在も食品関係を中心に多方面で活躍される、健康医療ジャーナリストの西沢邦浩さんを迎え、「食と健康」についてデータに基づいた情報を発信します。今回のテーマは『お肉』。昨今 敬遠されがちなお肉について、食べるメリットや上手な食べ方をお伝えします。

2022年5月

健康医療ジャーナリスト 西沢 邦浩

これまでこのコラムを読んでくださっている方の中には、健康という視点から見ると“肉類はあまり旗色がよくないのかな”という印象をお持ちの向きもあるかもしれません。確かに我ながら植物性の食品を取り上げることが多かったなとも思います。

しかし、心配はご無用。

「安心して、おいしく肉を食べましょう。健康維持のために大切な食品です」。これが今回のメッセージです。

食べ過ぎや偏食には気を付けてという但し書きは付きますが、これはどんな食品でも同じこと。

日本食は肉や牛乳を取り入れて健康度が上がった

東北大学の研究チームが、1960年、75年、90年、2005年それぞれの時期の日常的日本食の要素をエサにしてマウスに食べさせたところ、1975年頃の食事が一番健康的という結果が出ました。それを受けて、肥満気味の人たちが1975年の日本食を食べる試験をしたら、4週間でBMIや体重が有意に減少し、ストレス軽減や運動能力の高まりも確認されたのです。

昔の日本食は健康的というイメージがありますが、そうとも言い切れません。1960年の日本人のたんぱく質摂取量は1日75.5g。その内訳は3割を占めるコメと大豆を含め、植物性のたんぱく質が6~7割も占めており、肉からはたった2.7g(3.5%)のたんぱく質しかとれていなかったのです。当時、日本は世界で最も脳卒中患者が多い国でしたが、それには動物性のたんぱく質と脂肪摂取量の少なさが関係していたことがわかっています。

東北大の研究で最も健康的とされた1975年には肉の摂取量も増えて1日平均約50g/日、乳製品も150gにまでなっていました。つまり、肉や牛乳、卵といった動物性のたんぱく質源が日々の食事に入ってきてから、日本食はその健康度合いが上がったのです。

男性は適量に、女性は肉を積極的に食べよう

では、1975年に比べて摂取量が約2倍になった今、肉が現代日本人の健康に与える影響はどうなのでしょうか。

国立がん研究センターの研究チームが、日本人9万人を15年近く追跡した結果を2020年に「PLoS One」という学術誌で発表しています。

摂取量の多寡で4つの群に分けて比較したところ、やや死亡リスクが上がっていたのは最も肉を食べている男性群のみ(1.18倍)で、女性では肉を多く食べることによる死亡リスク上昇は見られませんでした。それどころか、肉類全体でも赤身肉でも摂取量が増えるほど脳血管疾患による死亡リスクの低下が見られたのです。

男性では赤身肉の食べすぎは心血管疾患による死亡リスクを高めていましたが、鶏肉の摂取量が増えるとがんの死亡リスクが低下していました。

男性は赤身肉のとりすぎにちょっと注意が必要かもしれませんが、女性は積極的に肉類を食べましょう!と言えそうです。

そもそも日本人は“食べすぎ”というほど肉の平均消費量が多くありません。

確かに世界には、肉(特に加工肉、赤身肉)の食べすぎが不調や疾患リスクを高めているとして問題視している国もあります。しかし、国連食糧農業機関(FAO)がまとめた2019年のデータでは、米国人が1年間に一人当たり平均約128㎏の肉を食べていたのに対し、日本人は約51㎏。米国の4割程度です。

令和元年の「国民健康・栄養調査」では日本人が食べている1日の肉の摂取量が平均103gとなっていますが、これがどんな数字なのか、たんぱく質の面から見てみましょう。

米国・カナダの食事摂取基準は 19 歳以上の大人における“動物性たんぱく質”の必要量を男女ともに1日当たり0.66 g×体重(㎏)としています。体重60㎏の人で1日約40g必要という計算になりますが、肉のたんぱく質含有量は20%内外なので、肉ですべてとろうとすると1日200g相当の摂取が必要になります。

日本人の1日当たりの平均摂取量103gの肉では20gちょっとしかたんぱく質がとれません。乳製品や卵などで十分に動物性のたんぱく質を補給しないと、米国が推奨する動物性たんぱく質の必要量には達しないのです。

つまり、日本では肉の取りすぎが問題になるほど食べている人は少数派で、それどころか必要な量に満たない人も多いのではないかと思われます。

育ち盛りのお子さんはもちろん、やせ過ぎの方が多い若い女性層やフレイルが心配な高齢者は特に意識して肉を食べてしっかりたんぱく質摂取を心がけたいもの。やせは体力や免疫の低下にもつながるのでご注意を。最近、日本人を対象にした研究で、“たんぱく質摂取量が少ない女性は肺炎による死亡リスクが高い”という結果も出ています。

肉をあまり食べない人はうつに注意?!

次に、丈夫な血管を作るためには肉のたんぱく質や脂肪も欠かせないという点以外に、肉を食べることがどんなメリットをもたらすのか、いくつか気になる研究データを紹介しましょう。

効率的にたんぱく質合成を促す

動物性たんぱく質食品(牛肉、豚肉、卵)をとった人たちは植物性たんぱく質食品(豆腐、インゲンマメ、ピーナッツバター、ミックスナッツ)をとった人たちより、たんぱく質合成量が多く、体のたんぱく質バランスが大幅に良くなった。たんぱく質合成量では牛肉が最も優秀で、卵と豚肉はたんぱく質の分解を抑制する機能が高かった。56人の成人が参加した研究(The Journal of Nutrition、2021年)。

同じ動物性食品でも、たんぱく質の維持に関して異なる機能があるようです。いろいろな肉をとるのがよさそうですね。

心の健康と脳機能の維持にプラス

 <うつ、不安>

18の研究に参加した計16万人以上のデータを統合分析したところ、肉を食べない人たちでは心の健康が低下している傾向があり、中でもレベルの高い3つの研究では、うつ病、不安、自傷行為のリスクや発生率が有意に高いという結果が出た(Critical Reviews in Food Science and Nutrition、2020年)。

約9700人の男性で調査。ベジタリアンは、非ベジタリアンよりも平均してうつ病スコアが高かった。神経の働きに欠かせないビタミンB12や鉄の不足が関係している可能性がある(Journal of Affective Disorders、2018年)。

 <認知症>

肉の摂取が少ない高齢者(週1回以下)では、通常摂取(週4回以上)の場合に比べ、認知症全体のリスクが58%、アルツハイマー病のリスクは67%高かった。65歳以上の約6000人を約10年追跡。なお、魚、果物、野菜の摂取状況と認知症リスクの間には関係性がなかった(Journal of Alzheimer’s Disease、2019年)。

心の安定を保ち、脳機能の老化を防ぐには肉のチカラが必要と言えそうです。

ほかにも、貧血との関係など肉の重要性を示す様々な研究があります。

また、最近たんぱく質摂取が話題になっていますが、肉で効率的にとりたいという方のために、豚・鶏・牛それぞれでたんぱく質量が多い部位と食べ方を挙げておきましょう(数字は100g当たりに含まれる量)。

●豚

ヒレ肉(焼き) 39.3g

●鶏

むね肉(焼き)   38.8g

鶏ささみ(ソテー) 36.1g

●牛

もも肉(ゆで) 30.0g

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)より」

鶏むね肉は、抗疲労やストレス軽減で機能性表示食品になっているイミダゾ―ルペプチドというたんぱく質成分も豊富です。むね肉40gに含まれる量(400mg)以上とれば、このような機能性が期待できるとのこと。

改めて繰り返しますが、そもそもそれほど肉の摂取量が多くない日本人は、積極的に肉を食べるのが健康維持のためにもよさそうです。

ただし、世界では成形肉やベーコンなどの加工肉、赤身肉の食べ過ぎが健康のリスクになるという研究も多々出ていますので、こうした肉の偏食に気を付けて、生鮮食品としての肉をベースにいろいろな種類を楽しみましょう。